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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第3章 商国陰謀編

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「ははっ、見事だったね」
「お兄様、偶然です」

「そう思ったのならそれでいいよ。うん、模擬戦は終わりだ。そろそろお婆様が戻っているころだろう」
「そうですね」

 館に戻ると、グエン氏族長とその母親のベア・グラロスは戻っているとのことだった。

 晩餐を一緒にということなので、汗を流して着替えるよう言われた。

「ではまた後で」
 ウォールさんはひょうひょうと去って行くが、イーナさんはよほど後頭部が痛いのか、ずっと頭をさすっていた。


 晩餐はグエン氏族長とその母親のベアさん、ウォールさんにイーナさんという、グラロス家の四人と僕が参加するささやかなものだった。
 内心ホッとした。

「あのような見事な竜を見られるとは……まだ竜迎えの儀について知っている者が戻ってなくてね。情報に疎くて申し訳ない」

 ベアさんはそう言うが、一刻を争う情報ではないのでそんなものだろう。

「日数がそれほど経ってないからでしょうか。僕もまだ竜を得た実感が、あまりありません」

「優秀な竜操者を得て竜国は羨ましい。これからきっと活躍していくんだろうね」
「どうでしょう。我が国の竜操者はみな優秀な者ばかりですので」

 会話はもっぱらベアさんが担当している。
 とくに何かを聞き出すような流れにならず、どちらかと言えば結婚式のことを聞きたがっていた。

「わたしももう少し若ければね。言っても詮無いことだが」

 反対に僕が駆動歩兵を褒めたら、そんなことを言った。
 クーデターを止めることができなかったのを悔いているのだろうか。

「そういえば、模擬戦をしたようだね」
「手も足も出ませんでした」

「なかなかの腕前ですよ。妹と同じくらいですね。竜国の質の高さがうかがえます」
 ウォールさんの言葉に、ベアさんは「そいつはすごい」と目を丸くした。

「負けましたよ」
「いや、どうだろうね。妹ならまともに打ち合う所に持っていく前に決着が付いてそうだ」
 鋭い!

 イーナさんともし戦う場合、向かい合う前に勝負を付けるつもりだ。
 ちなみにウォールさんだと、戦わずに逃げる。あれは不意を突いても勝てる相手じゃない。

「竜国は層が厚いねえ。……あんたも血が騒ぐかい?」

 ベアさんははじめてグエンさんに話を振った。
 グエンさん、氏族長なのに空気みたいな扱いだ。

「そうだな、それほどの武人ならば手合わせしてみたい気持ちはある。だが腐ってもわしは氏族長。軽々しくそんなことはできんがな」

「もったいぶらずに、失言して謹慎中だって言やぁいいじゃないか」
「母ちゃん!」

 グエンさんは悲鳴を上げた。いま謹慎中らしい。
 大山猫の氏族といろいろ交渉しているらしいから、それでかな。
 何をやらかしたんだろう。

「僕もグエン氏族長と剣を交えるのは光栄なことですが、未熟者でして、剣の型すら知りません。恥をかくだけでしょう」

「たしかに変わった型でした。二刀と戦うのははじめてでしたので、翻弄されました」
 そう。互角に戦っているように見えたのは、僕が二刀を使ったからだ。

 イーナさんが間合いやタイミングを計りながらだったので、僕でも相手ができた。
 あのまま続けていたら対応されて、あっさりと負けていただろう。

「なに、二刀とな。よし、今から……アタッ!?」

「だから謹慎中だってのを忘れたのかい、このモウロク息子は!」
「かっ、母ちゃん!!」

 グエン氏族長が杖でひっぱたかれた。マナーとしてはどうなんだろう。
「今度は燭台で殴られたいかい? どうなんだい?」

「き、謹慎してます」
「………………ふん」

 今のやりとりだけで、実権がどちらにあるのか分かってしまった。
 ベアさんには逆らわないでおこう。僕の位置だとナイフやフォークが飛んできそうだ。

 その後はおとなしくなったグエンさんに代わり、ウォールさんが僕にいろいろ質問をして晩餐の席は終了した。



 星が瞬く夜。
 僕はシャラザードに寄っかかりながら、ともに星を見ていた。

「綺麗な星空だね」
『うむ。昔の我は、こんな夜にゾックどもを襲いに行ったものよ』
「昔って、あの月に住んでいたころ?」

 時間があるときに、少しずつだがシャラザードから話を聞いている。
 あまり込み入ったことを聞くと興奮するので、本当に少しずつだ。

『我が生まれた頃はもう、大地の多くが奴らの住むところに変わっていた』

 地上に落ちた月魔獣は長い時間活動できない。
 それは僕らの常識だったが、シャラザードが言うには違うらしい。

 土地が支配され、地上が月魔獣で溢れると、月魔獣の活動限界が伸びるという。
 最終的には核を壊さない限り、月魔獣は不死となる。

 活動限界がくると鋼殻こうかくの状態になり、動く力が溜まるまでそのままで過ごす。
 シャラザードがいう核とは、僕らが月晶石と呼んでいるもののようだ。

「またそのうち、話を聞かせてね」
『うむ。今度は地を這う奴らをみな殺しにした話をしてやろう』

 僕が話を切り上げたのは、こちらに歩いてくる人影があったからだ。
 シャラザードも気づいていたようだ。

「こんばんは、イーナさん。シャラザードを見に来たのですか」
「は、はい。恥ずかしい話ですが、もう一度よく見たくなって」

 イーナさんは竜国に生まれれば、幸せになれただろうか。
 いや、いまが不幸だと思えないけど。

「シャラザードに触っても大丈夫ですよ」
「そうですか……でしたら遠慮なく」

 イーナさんは最初は手のひらで。しだいに大胆になり、首筋に抱きつきはじめた。
 僕なんかより、よっぽど竜操者に適性があるんじゃなかろうか。

「レオン様、少々お話してもよろしいですか?」
「はい? なんでしょう」

 珍しいな。シャラザードのことかな。
 でも抱きつきは辞めないんだ。

「いま我が氏族は難しい決断を迫られています。それは父が責任をもって下すことですが、次代を考えると、私にも無縁な話ではありません」
「……はあ」

 アンさんもそうだけど、氏族の話になると、難しすぎて意味が分からなくなってくる。
 パン屋の息子に的確なアドバイスを期待しているなら、ちょっと困る。

「兄が氏族を継いで私が補佐をする。それはいいのです。ただ、グラロス家の血は武に偏り過ぎている。そう祖母が言うのです」
「分かります」

 分かりすぎる。脳筋親子だし。

「祖父は自分にないものを祖母に求めたのでしょう。我が氏族繁栄の礎を築いたのは、祖母の手腕に寄るところが大きいのです」
「なるほど」

 ベアさん、やり手だもんな。それは理解できる。
 というか、グエンさんがちょっと……アレだ。

「兄は氏族内から婚姻相手を選びます。私に劣らず武の優れた人です。ゆえに祖母は私に外から血を入れるよう強く薦めてくるのです」

「結婚相手を勝手に決められるのが嫌ですか?」

 まずウォールさんの結婚相手。
 イーナさんと同等の腕を持つ女性ってだけでヤバそうだけど、それは流すことにしよう。
 脳筋氏族のことだ、年がら年中そんなことばかりしているのだろう。

「魔道使いの血を入れるようにと言われています。優れた魔道使いの血を入れ、兄を助け、次代の希望とせよと」
「…………」

 言いたいことは分かる。
 同時にイーナさんの悩みも分かる。

「毒の沼地に王冠を落とした。レオン様ならどうされます?」
「はい?」

 ちょっと何言っているのか、分からない。

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