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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第3章 商国陰謀編

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 お昼を食べてゆっくりしたところで、イーナさんが迎えに来た。
 ようやく準備ができたらしい。

 本拠地の外苑に降り立っていいという。
 館の近くだけど、本当にいいのだろうか。

「一緒にいくんですよね」
「よろしくお願いします!」

 乗る気満々だった。

 イーナさんを乗せて飛び立ち、指定の場所に降りる。
 驚いたが、兵士が二百人ほどが整列し、駆動歩兵も五十機ほどが並んでいた。

 そして着陸に合わせて、一斉に敬礼してくれたのだ。
 歓迎してくれたらしいが、なんだこの豪華な出迎えは。

『ふむ。ここは我も返さないとな』
「待て!」
 何をするつもりだ。嫌な予感しかしないぞ!

『ぎゃぁおおおおおおおおん』

 咆哮一発。

 兵士の半分は尻餅をつき、駆動歩兵がひっくり返った。

「……やっちまった」
 戦争にならないよな、これ。

 出迎えたみなさんに平謝りをして、僕は鴎の氏族の客人になった。
 半年前に忍び込んだときは、まさかこうして堂々と表から入れるとは思わなかった。

 シャラザードとともにもてなされる立場になったわけだが、僕は貴族でも文官でもない。
 政治的な話はできないし、なにか権限をもっているわけでもない。

 氏族の人たちと交流し、顔と名前を売っても、今後この人たちとつきあいがあるとも思えない。

 それでも人々は集まってくる。
 慣れない応対に僕が辟易していると、ウォールさんがやってきた。

「急なことだったから、父と祖母がまだ戻ってきていなくてね。晩餐には間に合うはずだけど、それまで暇だと思ってね」

 なんだろ。ウォールさんがニコニコとしている。
 手に持っているのは……鍵?

 イーナさんの目が輝いた。
 なんだろ、嫌な予感がする。

「それは訓練場の鍵ですね、お兄様」
「うん。竜国の竜操者は文武に優れた人物ばかりとうかがっている。どうだろう、手合わせを願えないだろうか」

「お兄様、その役目はぜひ私に」
 イーナさん、『血飛沫』の目だ。

「えっと、僕は一介のパン屋でして……」
 断ろうと思ったが、思い返してみた。

『血煙』さんと手合わせ? 絶対に勝てない。それはいい。分かっていることだ。
 だけど、この人がどのくらいの力量を持っているか知っておけば、逃げるときに役に立つ。

 ここでいくら負けても死ぬことはない。
 ならば、実力を測らせてもらって、経験を積ませてもらった方が得じゃなかろうか。

 ウォールさんもイーナさんも超がつくほど一流の剣士たちだ。
 こんか機会はめったにない。

 今後も〈影〉として活動するならば、そういう手合いとぶつかることも考えられる。
 命の危険がない状態で剣を合わせる機会があるなら、積極的に活用すべきだな。

「……分かりました。まったく相手にならないと思いますが、よろしくお願いします」
「そうか。こちらこそ、竜操者のお手並み拝見といこう」

 場所を訓練所に移動して、革の防具を身につける。

「出入り口以外、壁で囲われているんですね」
 外から見えないように? それとも音が漏れないようにかな。

「訓練で死者が出たら、その方が隠蔽しやすいからね」

「……えっ?」
「冗談だからね」

 ウォールさんがにこやかに言うけど、冗談だよ……な。
 その辺の土を見たが、掘り返した跡はなかった。

 さて、その模擬戦だが、イーナさんの腕だと万一があるので、先にウォールさんが相手をすることになった。

「木刀を使うけど、好きなのを選んで」

 立てかけてある木刀はみなそれなりの重量があった。
「一番軽いのは……これかな」

 細身のものを選んだ。

「それでいいのかい」
「ええ」

 ウォールさんが持っているのは僕のよりだいぶ長い。
 この場合、間合いの関係で僕が不利になるのだけど、使い慣れてないものを使うよりはマシだろう。

「じゃ、はじめようか」
「よろしくおねがいします」

 軽く木刀を合わせてみる。
 何合か打ち合ったが、互いに本気は出していない。
 これだけでウォールさんの強さが分かった。

 木刀を振る速度が速い。軌道を予想できるから防いでいるけど、本気で来られたら一合も持たないかもしれない。

 予想以上に僕と実力差があった。
 僕の場合、幼少時から魔道や身を隠す訓練ばかりしていたから、剣はそれほど使っていない。

 積み重ねてきた時間が違うのだから、勝てないのはしょうがない。
 苦手な位置取り、死角となる場所、反応が遅れる攻撃でも見つけられればいいのだが、いまのところそれもない。

 なにしろ真正面からいくと、どこに打ち込んでも届かせられる気がしないのだ。
 父さんだったら、どう攻略するだろうか。

「なかなかやるね」
「ご謙遜を」

 まいった。ウォールさんは全然本気になってない。
 このままじゃ、何のために模擬戦を引き受けたのか分からなくなる。

 かといって、魔道は使えない。
 父さんから教えてもらった暗殺者の型や体術、それに目を惑わす歩法なども使ったらバレる。

 基礎技能だけで、相手の力を引き出させなければならない。
 苦労しそうだ。だが……。

「いくしかないか」
「おっ、ついに本気を出してくるかな」

 ウォールさん煽ってくるな。だけど気にしない。

 ダッシュで間合いを詰めて、小刻みに木刀を振るう。
 ときおりフェイントを混ぜながら密着状態で突きを何度か放ったが、身体ごと避けられた。

 剣先を身体で隠して突いているんだけど、どんな反射神経しているんだ、この人は。
 今のを避けられるともう手がない。

 あとはじり貧になって、最後は肩口に打ち込まれ、よろけたところに喉元へ木刀を突きつけられた。
 負けである。

「まいりました」
「さすがだね。型にはまらない攻撃だったから、何度かヒヤッとした」

「ぜんぶ避けられましたから」
 勝てるビジョンが思い浮かばなかった。

「これなら、妹といい勝負になりそうだ」

 選手交代である。イーナさんは木刀を振って、やる気をアピールしている。
 この『血飛沫』さん、そんなに戦いたいのか。

 このままじゃちょっと悔しい。
 ただやられてお終いだろう。

「木刀を二本、壊していいですか?」
「壊して? いいけど」

 僕は腰にある小刀で木刀を三分の二の長さに切った。
 ついでにもうひとつ。

 それを両手で持って振ってみる。うん、ちょうどいい重さだ。

「二刀流かい? 珍しいね」
「見よう見まねですけど」

 手数の多い父さんとの訓練で痛い思いをしないために、必死で覚えた技だ。
 それに僕の戦い方は背後から急所を狙うので、大剣は必要ない。

 二刀流は僕に向いていると思っている。
「鋭い切り口ですね。これは油断なりません」
 イーナさんは変なところに注目していた。

「じゃ、互いに怪我をしないように……はじめ!」

 ウォールさんの合図とともに、僕は駆けだした。
 剣の間合いが短いから、近寄らないと当たらないのだ。

 最初から激しい剣戟の応酬が続いた。
 腕は今のところ互角。

 イーナさんも全力を出していない。その分、なんとかやり合えているが、僕の方はいっぱいいっぱいだ。

 ウォールさんと戦った後だから、剣筋が読める。
 微妙な差があるが、イーナさんの剣は同じだ。そのせいか、僕の実力以上に渡り合えている。

 だが、決め手に欠ける。二本の木刀をもってしても、イーナさんの身体に届かせることはできない。

 つまり、ウォールさんのときと同じく、じり貧になって負ける未来が待っている。
 連続で負けるのも何だか悔しいので、一矢むくいることにした。いや一刀かな、この場合。

 僕は緩急をつけて突っ込み、イーナさんに間合いと目的を読ませないようにし、素早く横凪に木刀を振るう。
 イーナさんは一刀を避け、もう一刀をはじく。だが構わない。

 体当たりできそうなほど近づいて下から振り上げる。もちろん阻まれる。少し遅れて上から叩きつけたが、それも弾かれた。さすが防御は固い。だが……。

 弾かれて僕の手から離れた木刀は、回転して壁に当たる。
 はねっかえった木刀のきっ先がイーナさんの後頭部を直撃した。

 スコーンといい音をさせて、イーナさんがくずおれた。

 僕の負けである。その前に木刀が僕の喉元に突きつけられていたのだ。

「それまで!」
「…………うっ」

 制止の合図のあと、イーナさんが後頭部を押さえながら立ち上がった。
 目には涙が溜まっていた。


 これも勝負だから、恨みがましい目で見ないでね。

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