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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第3章 商国陰謀編

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 買い物を終えて戻ると、イーナさんが待ち構えていた。
「ありがとうございます、許可を取ってくれたのですね」

 頬が上気している。普段はクールな外見だが、竜のことになると子供のような表情をしてくる。

 とはいえ、すでに話が伝わっているということは、王女が話をしてくれたのかな。

「僕はただお伺いをたてただけですから」
「いえ、レオン様にとても感謝しています。王女殿下ももちろん」

 よほど嬉しかったのか、さっきから目がキラキラ、顔がニコニコしている。
 剣を持った姿から想像できないが、いまはとても表情が読みやすい。

 イーナさんと戦うとき、シャラザードのかぶりものをすれば、勝てるんじゃないだろうか。

「シャラザードは大きいですので、大人数になっても大丈夫ですよ」
「なるほど。ではお兄様に聞いておきます」

 小型竜でさえ、十人くらいは乗れるのだ。
 常識的な人数さえ連れて来てくれれば、全部乗せることに問題はない。

「明日の朝出発しますので、僕も鞍の準備しておきます。イーナさんの方は、荷物など乗せていくものを選別しておいてください。それと上空は寒いですので、厚着をした方がいいでしょう」

「分かりました。厚着ですね。早速買ってきます」

 一礼して足音を立てながら行ってしまった。
 あれ、『血飛沫』さんと同一人物だよな。
 双子の妹だったりして。

 その後、寝る前に鴎の氏族の人が来たので、打ち合わせした。
 聞いたところ、それほど大人数ではなかったので、御者以外の全員を乗せて戻ることになった。馬車三台で来たらしい。



 翌朝。
 イーナさんがシャラザードを指さしている。
「………………」

 目で訴え続けているが、何が言いたいかわからない。
 そこはしゃべろうよ。

 僕は昨日のうちに鞍の準備はしておいた。
 といっても、腰と足を固定するだけの鞍だ。
 下半身さえ押さえてしまえば落ちることはない。

 手綱代わりの持ち紐で上半身を支えるが、これは訓練を積んでいないとずっと耐えられない。
 そのため、途中でシャラザードの背中にへばりつくことになる。

 そうしないと握力がなくなった瞬間、バンザイしたまま仰向けの状態で運ばれることになる。

 シャラザードに乗るのはイーナさん、ウォールさんをはじめ、ぜんぶで十五人。
 御者の三人はここに含まれていない。

 ちゃんと固定さえできれば、馬車くらいシャラザードに乗るのだが、馬は無理だ。
 なので地上をゆっくり帰った方がいい。


「シャラザード、お願い」
『よしきた、あるじよ。久々の大空だ。楽しもうぞ』
「普通にね」

『ぬぉおおおお……』

 シャラザードは両足で地面を蹴り、そのまま勢いよく上昇する。
 羽ばたきひとつで遥か上空まで到達した。

「お兄様、すごい、すごい!」

 イーナさん以外は歯を食いしばっている。
 空に舞い上がる経験をしたことがないのだから当然だ。

 経験もないのに楽しめているイーナさんが異常だと思う。

「来た航路をそのまま戻ってくれる?」
『承った!』

 しばらく進むと、ウォールさんも慣れたのか、表情に余裕が出てきた。

「これはすごいね。もう兎の氏族領を抜けたのか」
「分かるんですか?」

「一度、すべての氏族領を歩いたことがあってね」

 さすが鴎の氏族の後継者だ。こういう地道な行動があとで生きてくるんだろうな。
 もしかすると、竜国にも来たことがあるのかもしれない。

 はしゃぐイーナさんと落ち着きを取り戻したウォールさん。
 なんとなく余裕綽々(しゃくしゃく)のふたりに、少しいじわるをしてみたくなってきた。

「レオン様、シャラザード様はどのくらいの高さまでいけるのですか?」
 ちょうどいい具合にイーナさんがそんなことを聞いてきた。

「僕も竜を得てまだ日が浅いので分からないですね。もっと上に行ってみたいですか?」

「はいっ!」
 即答かよ。ならばその発言を後悔するがいい。

「シャラザード、もっと高度をあげてくれ」
『了解した!』

 シャラザードが首を上げて、グンッと加速する。
 高度がぐんぐんとあがり、雲を突き抜ける。

「す、す、すごい……」
 す、す、すごい……僕も驚いたわ。

 雲が遙か下にある。どんだけ上昇したんだよ。

「シャラザード、もういい。……なんか、苦しくなってきた」
『ふむ。なるほど、ここが人の限界だな。よしこの高度を覚えたぞ』

 なんか怖いことを言い出した。
 言わなかったら、これ以上いったってことか。

 見たら、ウォールさんは目を瞑っていた。
 イーナさんは怖さと好奇心が半分ずつの顔をしている。
 護衛の人たちは……気絶している。

 うん、やりすぎた。
「シャラザード。もとの高さに戻ってくれる?」
『もういいのか?』

「何人か気絶したみたい」
『軟弱なことよ。仕方あるまい、戻るか』

 せっかく雲の下に出たのだが、道が分からなくなった。
「ウォールさん、ここがどこだか分かりますか?」

「驚いたことに、もう鴎の氏族領に入っているね。もう少ししたら私らが住む本拠地が見えてくるはずだ」

 その後はウォールさんの誘導にしたがって、無事本拠地に到着した。
 どこに着陸するか聞いたところ、北に農業試験場があるからそこへと言われた。

 このまま氏族長の住む館付近に降りると、攻撃されるかもしれないらしい。
 もっともなので、了承した。

 しかし、農業試験場か。僕にとっては思い出深い場所だ。

「足がないし、迎えがほしいな。できれば本拠地の近くを飛んでチラッと顔を見せてくれるかな」
「分かりました」

 言われた通り、本拠地をかすめるように飛んだ。

 その後、農業試験場に着陸したが、少しして迎えの馬車ではなく、駆動歩兵の集団がやってきたのはご愛敬だろう。

 ウォールさんとイーナさんが必死に止めに入っていた。
 なんにせよ、送迎ミッション成功である。

               ○

 予定外の到着に、氏族内は蜂の巣をつついた騒ぎだったらしい。
「本当に悪いけど、用意が整うまでもう少し時間をくれるかな」

「いいですよ。事前の連絡なしなのは分かっていますので」
「そう言ってもらえるとありがたい。私も妹も全力で行動するから」

 何の話かと思ったら、半年前に起こったクーデターの余韻さめやらぬといったところで、不測の事態に対処できるよう、防衛体制をかなり見直したらしい。

 にもかかわらず本拠地にやすやすと侵入され、頼りの駆動歩兵隊の動きは遅い。
 各方面の面目をつぶさないためにも、まだ警戒態勢を維持させるらしい。

 本拠地内は軍人と駆動歩兵隊が走り回っている状態らしく、とても客人をもてなす準備ができていない。

 そういうわけで、僕はいま、農業試験場でものすごく豪華な出前を堪能していたりする。
 給仕付きの出前だ。

 しずしずと僕とシャラザードのところまで持ってきてくれたのだ。

 シャラザードは牛を一頭ペロッと平らげていた。

 僕はというと……あー、技国式のパンは美味い。

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