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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第3章 商国陰謀編

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 庭園に出ると、今度こそ本当に人気のないところへ行く。

 暗くなってきたからか、テーブルや周囲にランプが設置されていく。
 町ではまだお祭り騒ぎが続いていることだろう。

 庭園の出席者も減ったようには見えない。
 まだまだ宵の口……そんな気分でいるに違いない。

 僕は庭の隅、木々の立ち並ぶ一角でゆったりする。
 出発は明後日の朝と聞いている。

「明日、サーラーヌ王女に聞いてみるかな」

 僕だけ鴎の氏族に寄ってもいいのだろうか。
 駄目なら駄目で、そう伝えればいいから気が楽だ。

 ドラス隊長たちを探したが、庭園は広く、見当たらなかった。
 竜の世話に行ったのかもしれない。

 少し何かお腹に入れようかと思っていたところ、向こうから誰かがやってくる。
 周囲に人はいない。あきらかに僕がターゲットだ。

「あれは魔国のローブ。……今日は本当に千客万来せんきゃくばんらいだな」

 僕は花婿の妹の友人だ。
 なのにどうしてこう、次から次へ人がやってくるのだろう。
 ただの竜操者であって、政治的な影響力は皆無のはずだが。

 まだ戦ったことはないが、シャラザードの強さはその大きさから推し量れる。
 他国が警戒する人物リストの、上位に名前が挙がったかもしれない。

「そうすると、こういうのも想定しなきゃいけなかったのかな」

 やってきたのは、魔国式のローブをまとったふたり組だった。

「竜国の竜操者だな」
「ええ、そうですけど。あなた方は?」

「私は魔国の外交官ノイネンだ」
「そして私はクルラッハ。統括とうかつ長官をしている」

 外交官は他国に赴くか、常駐する役職だったと思う。
 統括長官というのは聞いたことがないな。

「レオンです。僕になにか僕に用でしょうか」

 外交官と名乗ったノイネンは五十代くらいか。
 口ひげを生やしているが、あまり似合っていない。
 四角い顔に四角い体型だ。運動は得意ではないだろう。

 一方、統括長官と名乗ったクルラッハの方は年齢不詳だ。
 肌が青白く、背が高い。
 病的な感じがするが、目つきが鋭いので、普段から何か考えていそうが雰囲気がある。

「珍しい竜を捕まえたそうだな。見せてくれんか」

 珍しいのは正しいが、べつに僕は捕まえていない。
 無知なのか、わざとなのか。どちらにしても嫌なタイプの人間だ。

「申し訳ありませんが、まだ不慣れなもので」
「不慣れでもなんでもいい。連れて行ってくれ」

 他国の竜操者にその態度はないだろ。
 相手が十代と思って舐めているのか?

「怪我でもされたら大変ですのでお断りします」
「なんだと? そんな危険なのに乗り込んで来たのか? これは強く抗議せねばならんぞ」

「そうですな。ぜひそうするべきです」

 二人の会話から、外交官の方が身分が上であることが分かった。
 クルラッハがノイネンの言葉に追従している。

「いえ、全然危険ではないですよ」
「では嘘をついたのかね」

「まさか。ただ竜は月魔獣と戦う存在です」
「それがどうした」

「竜に月魔獣とそれに近い人間の区別がつくか分かりませんので」
「どういうことだ?」
 ノイネンがクルラッハに尋ねる。

「さあ、月魔獣に似ている人間のことでしょうか」
「なんだそれは?」

 うん、鈍いな。もう少し直接的に言ってやらないと駄目かな。

「人の皮を被った月魔獣なんてのもいるかもしれませんしね」
「……き、きさま、私らを愚弄するつもりか?」

「いえまったくそんなつもりはありませんが?」
 何か心当たりがあるのですか? という顔をしてみせる。

「では私らが竜を見るのも問題なかろう」
「そうですね。では一筆書いていただいてもいいでしょうか」

「なにをだ?」
「竜に襲われてもそれは自業自得だ……でどうでしょう」

「………………」
 ノイネン外交官が怒っている。顔を真っ赤にしてだ。
 唇がプルプルしはじめた。

 こんなことなら、来賓者のチェックくらいしておけば良かった。
 招待された状態で、夜中にうろつき回るのはどうかと思って止めたんだけど、こんなのが来ているとは思わなかった。

「ふざけるのもいいかげんにしろ!」
 外交官を名乗るにしては、あおり文句に弱いな。

「用がなければもう行きますけど。それで、見たいのですか? それとも襲われない自信でも?」
 来たら本当に襲わせるけど。

「……ふん! せいぜい気をつけるんだな」
 安い台詞だ。ノイネン外交官の語彙は乏しいらしい。

「もう、演習みたいな幸運はおきないでしょうな」
 クルラッハの言葉に、僕は固まった。

 魔国の襲撃を指した言葉だよな、いまのは。

 僕は考えた。
 ノイネン外交官とクルラッハ統括長官は、あの時の真実を知っている。

 演習、つまり宿泊施設を襲った連中とその目的について知っているのだ。

 クルラッハが知っているとすれば、上司らしいノイネンも当然知っていることになる。

 僕ら女王陛下の〈影〉が多数死んだあの襲撃。僕はあの時の感情を忘れていない。
 事前情報がなければ、同級生はほとんどが死んでいただろう。

 ちょっとだけイラッとした。ちょっとだけだ。

「そうですね、あんな霧しか出せない無能が率いるなんて幸運はもうないでしょうしね」

 喧嘩を売りたいんだよな、そうだよな。
 だったら、買うよ。僕だって、あれは頭にきているんだ。

「なっ、貴様」
 ノイネンがあからさまに驚く。

 襲撃の事実は公表されているが、襲撃者がどんな能力を使ったのかはつまびらかにされていないはずだ。

「どうしてそれを……」

 クルラッハも驚いている。心の声が駄々漏れなんだが。
 この魔国の二人を、僕は敵認定した。

「そういえば風のうわさで、ちょっと小耳にはさんだのですが、魔国は素晴らしい穀倉地帯があるそうですね。なんでも魔国の胃袋を満たす生命線だとか。大事にするといいですね。今後もずっと……」

「…………」
 ノイネンは呪い殺しそうなほど僕を睨んでいる。

「では僕はそろそろ行きますね」
 竜国式の礼をして、僕は踵を返した。



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