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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第1章 魔国蠢動編

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 アルバイトが決まってから、三日が経った。
 僕は毎朝、地下水路を通って『ふわふわブロワール』まで仕込みに出かけている。

 地上の道は通ってない。
 迂回するのも面倒だし、時間もかかる。

 ただし、地下水路には感知結界が張られている。
 しかも、女王陛下に謁見した後で、だれかが強化しやがった。

「それさえなければ、楽なんだけどな」

 この結界を解除せずに進むには、かなり骨がおれる。
 だからといって、地上を行くのは負けた気がする。

『ふわふわブロワール』を訪れたあの日。
 僕は店の前で、長女のミラに会った。

 彼女は毎日、昼食用のパンを注文があったところへ届けているらしい。
 リアカーを引いて戻ってきたのは、そういう事だったのだ。

 次女のクシーノはその次の日に会った。
 ミラと違って、大人しめの印象だ。

 パンの匂いに囲まれるのが好きで、一日中店番をしてもいいそうだ。
 たしかに焼いた後のパンの匂いはまた格別だと思う。

 店の従業員はふたりいて、どちらも忙しくしている。
 ケールさんとミランダさんともすぐに打ち解けた。

 僕は開店と同時に売り出すパンの仕込みを手伝っている。
 日が昇る前からはじめて、開店ギリギリまで作業が続く。

 父さんが修行した店なので、やり方は実家と変わらない。
 技国式のパンだ。

 なので、アルバイト初日から即戦力として働けている。

「レオンくんは器用だね。一日で慣れちゃったか」

 ロブさんは今まで仕込みをやっていたが、僕が入ったことによって、パンの成形に集中できると喜んでいる。

 従業員のひとりケールさんは、裏でパンを焼いている。
 午前中は火の管理をやっていた。
 ケールさんは複数の焼き窯を使って失敗なくパンを完成させていく。

 僕の場合、焼きはまだ手伝っていない。
 さすがに実家の窯と違うので、加減が分からない。
 いつか、焼かせてもらえたらと思っている。

「レオンくんが来てくれて、かなり助かっているよ。でも、一日中いるけどいいのかい? 竜操者になるんだろ?」

 そう言われたのは、アルバイトをはじめて三日目だった。
 仕込み以外でも何でもやりますから、いろいろ教えて下さいと言ったら、そう返された。

「学院が始まったら、早朝だけになると思います」

 そういえば、何のために王都に来たのか忘れるところだった。
 僕もこのまま一生パンを焼いて暮らしたいが、それは叶わない願いだ。

 初対面であまりいい印象を持たれなかったミラだが、彼女からは「思ったよりも使えるわね」と、なぜか上から目線で言われた。

 このまえミラと呼び捨てにしたら睨まれた。僕が年下だからか?
 それでも呼び名は変えないつもりだ。変えたら負けた気がする。

 今は一日中パン屋を手伝っているので、いろいろと楽しい。

 翌日、ミラに呼ばれて何事かと思っていたら。
「今日はわたしに付いてきなさい。配達先を教えてあげるわ」
 とやはり上から目線で言われた。

 お店はロブさんの奥さんのファイネさんが担当していて、午後からは従業員のミランダさんもよく手伝っている。

 見ていると、ミランダさんは掃除や片付け、足りないものの買い出しから、接客、配達などなんでもこなしている。さすが器用貧乏。

 二十四歳で彼氏募集中だそうな。
 お知り合いのお兄さんがいたらよろしくと言われてしまった。



 この日も夕方までパン屋で働いて、寮に戻った。

「……ん?」
 部屋に、だれかいた。

「やあ、キミがボクのルームメイトかい。ボクはアーク・ロイスタ。ヒューラーの町から来たんだ」

 中から背の高い男が出迎えた。
 歳は僕よりも上だろう。十七、八歳か。

 やや薄い赤色の髪に、真っ白な肌。
 面長で北方系の顔立ちだ。

「僕はレオン、ソールの町出身だ。ルームメイトということは、僕と同じ新入生かな?」

 寮の管理人から、二回生が戻ってきたとは聞いていない。
 アークは僕より数日遅れの入寮だが、新入生だろう。

「そうさ。キミと同じ一回生だ。この竜紋をみたまえ、綺麗だろ。これがボクが選ばれた印だ」

 シャツをたくし上げて、脇腹にある竜紋を見せてきた。
 よかった。何をするのかと思ったが、別に露出の趣味ではなさそうだ。

「竜紋か。僕のとは、文様もんようが違うんだな」

「そりゃそうさ。竜が付けた印だからね。同じものはひとつとしてないんだ。もっとも、過去にいた竜が再び現れるときは、同じ竜紋が浮かび上がるけどね」

 そうなのか。それは知らなかった。
 竜紋は、竜を識別する印と考えればいいのかな。

 というか、竜紋が竜ごとに違うなんて、初めて知った。

「アークのはずいぶんと丸まっているな。僕のは大きい円の中に三つの円があるタイプだ」
 左手の竜紋を見せた。

「なるほど、あまりキミのは見たことがないタイプだね」
「そうなのか?」

「ボクのは流線型と言って、ほとんどが曲線でできている。重なった部分は尖るのが普通だ」
 ふむ、たしかにそんな感じだ。

「なら、僕のは?」

「複合型だね。ちょっと見ない形だ。円状型と交差線型が混じったように見える。一見すると、魔国の魔法陣みたいだね」
「魔法陣か、うまいことを言うな」

「ちなみに、竜紋の大きさや形は人それぞれだけど、得られる竜の種類には一切関係がないからね」

「事前に竜の種類は分からないって、聞いたことがあるな」
「分からないね。だからこそ、ワクワクするだろ?」

「どうだろ。あまり気にしたことはなかったけど」

「それはいけないね。気にするべきだよ。それと基礎的なことくらい、しっかりと学んだ方がいい。そうでなければ、竜に失礼だよ」

 ふむ。たしかにそうだ。
 今まではただ漠然と、将来は竜操者になると考えていたが、自分がどんな竜操者になるのか、想像したこともなかった。

だから竜紋が現れても、知識を集めることもしなかった。
「よし分かった。簡単な講義くらい、ボクがしてあげようじゃないか」

 アークの鼻の穴が膨らんでいる。
 どちらかといえば、話を聞かせたいんじゃないのか?


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