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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第3章 商国陰謀編

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 魔国は戦争に持ち込むのではなく、先に労働者を入れて、あとから難民を入れる。
 そういう戦法を採るらしい。

 それを後押しするのが商国。
 魔国の人間に仕事をあてがい、大転移が起こる前までに工場をアピールし、移住者の基盤を作っておく。

 いざ難民が発生したとき、工場がある町は魔国の民がかなりいる。
 そこに難民が流入するのだ。町ごと乗っ取られるかもしれない。

「大変なことになりそうです」
 いやらしい方法を採ってくる。これはだれの発案だ?

「竜国だけで抗うのは厳しい。ゆえに技国と手を取り、ともに乗り越えよう。そう言ってきておる」

「情報を開示できない状態……いろいろ難しいですね」

 かといって事実を公表すれば、すぐにでも魔国民にパニックがおこる。

 おそらく僕なんかよりもずっと頭の良い人たちが散々考えただろう。

 魔国で首都が滅び、穀倉地帯が壊滅することが確実になった場合、魔国の民はどういう対応を取るだろうか。

 どう考えても、大転移前に大規模な戦争がおこる。
 生き残るために戦う生存戦争だ。

 勝ったほうがその土地を手に入れる。分かりやすくていいが、一国を手に入れるまでに数年などすぐに経ってしまう。
 つまり決着が付かない状態で大転移だ。

 戦争は泥沼。戦力は半減。民は疲弊して、物価は高騰。
 そんな状態で大転移なぞ来たら、それはもう目も当てられない状況になる。

 やはり大転移の情報は、一般に開示できない。

 とすると、この工場を起点とした侵略はどう対処すればいい?

 最悪、難民を武力で排除しなければならなくなる。
 だが、それは可能なのか?

「商国は生き残りのために魔国と手を組んだのかもしれん。それはひとつの政治的な判断だ。是非は問うまい。だが、魔国の民をかけのチップにするのは許せんな」

「戦えない民を盾にも人質にも使っていますね」

「そうだ。ゆえに魔国と商国の動きを監視し、馬鹿なことをしでかさないようにせねばならん」
 ディオン氏族長の目に光が灯った。

 魔国は混乱を最小限に抑えるのではなく、生き残るため、他国で混乱をおこす道を選んだ。
 それが許せないらしい。

 そして技国と竜国が協力するには、新たな絆が必要だろうと。
「アンさんが氏族会議をする必要がなくなったと話していましたが」

「うむ。すでに孫娘とはいえ、その去就きょしゅうは政治問題となった。竜国との友好のためのな。だが、まさかおぬしが黒竜でやってくるとは思わなかったわ」

 氏族の一部は、大賛成だそうだ。他は分からないが、技国に竜操者が少ない以上、このつながりが重要であることは分かっているという。
 そしてあわよくば、竜操者ごと引き込めるのではないかと。

「いい方向に行ったわけですね」
「早めに跡継ぎができねばな。それだけが頼みだ」

 今日結婚したモーリスさんとミアーリアさんに子供が生まれれば、それもたくさんいれば、アンさんが国外に嫁ぐことに反対する人は皆無となるようだ。

「なに、反対している者もおるが、時間はある。そこは、説得していくしかあるまい」
「説得材料は黒竜ですね」

「そうだ。聞けば、五日に牛一頭とか。さすがに食べるな」
「ええ……僕も驚きです」

 その後はひとしきり、黒竜について話をして、僕と氏族長の会話は終わった。



 僕はパーティ会場に戻る気にもなれず、庭園を散策していた。

 すると近づいてくる気配があった。
 どうやら、遠くで見かけて僕を追いかけてきたらしい。

「レオン様でいらっしゃいますね」
 話しかけてきたのは、淡い色のスーツに身を包んだ長身の女性だ。

 パーティ会場で見た気がする。
「はい、レオンですけど」
「私は東の会頭フストラ・エイルーンの秘書をしております、ルルラ・キーアと申します」

 東の会頭か。
 ハリム会頭との会話の後で、気にはなっていたんだよな。

 今回の結婚式には、東西の会頭がひとりずつ参加している。
 できれば避けたい相手だけど、さっきの氏族長の話を聞いた後だと、会っておいた方がいい気がする。

「ルルラさんですか。僕になにか?」
「主人がぜひお会いしたいと申しておりまして、よろしければご足労願えないでしょうか」

「そうですね、僕は構いません。……といっても僕は一介の学生でしかないのですけど」

「ご謙遜を。いま話題の方の言葉とも思えません。ではこちらへ」

 ルルラさんに先導されて館の中へ入っていく。
 せっかく庭園に出たと思ったら、また逆戻りだ。

 パーティ会場とは別の場所、奥まった場所に連れてこられた。
 重要な会談を行う部屋か、高貴な人が使う貴賓室だろう。

 フストラ会頭もいま着いたらしく、秘書と打ち合わせをしていた。

 ルルラさんが僕を見つけた時点で話がいって、すぐに切り上げてここに来たようだ。
 それとなく耳を澄ますと、他の客へのフォローの話をしている。

「やあ、待たせたね」
 フストラ会頭は僕に向き直ると、にこやかに手を広げた。歓迎の挨拶だ。

「はじめまして、竜国竜操者のレオン・フェナードです」
「商国商会で東の会頭をしている『麦野ばくや』のフストラだ」

 屈託のない笑顔を向けてくるフストラ会頭の年齢はいくつくらいだろうか。
 父さんよりも若そうだが、ちょっと年齢不詳だ。

「楽にしてくれ。いまお茶を入れよう。何がいいかな?」
 すでにルルラさんもいない。全員退出している。
 気を利かせたのか、それとも秘密の話をしたいのか。

「ありがとうございます。僕はなんでも」
「ならば、香茶でいいかな」

 奇をてらわずにオーソドックスなものを選ぶあたり、場慣れしている気がする。
 ハリム会頭だと、珍しい茶葉が入ったからと、ここぞと出してきそうだけど。

「ここはすごい部屋ですね」
 贅を尽くした部屋だ。豪華さが違う。

「しばらく借りたのさ。こんなものは金で解決できるからね」

 フストラ会頭は僕に茶を入れて、ソファに座る。
 マイペースだが、決して不快ではない。


「……ほう、パン職人の免状をね。その年で優秀だ」
「ありがとうございます。そう言ってもらえると、長年の努力を認められた気分です」

「いやいや、あれは実力があれば取れるものじゃない。そもそもレシピ通りに作るのはだれでもできるからね。目でパンの状態を確認して、手で生地の重さを計る。そういった熟練の技が身についているかを試しているんだ」

「だからあんなに試験時間が短いのですね」

「そういうこと。そこに気づかないと通らないようになっているだ。だから初見で通過できるというのは凄いことだよ。普通は師匠となる人が何度か失敗した弟子にコツを伝授するものなんだ。身に付けるというのは、言って分かるものでもないからね」

「そうですね」

 フストラ会頭との話はおもしろい。
 なによりパンについて語りあえるのがいい。

 ノックの音が響き、ルルラさんが入室すると、フストラ会頭にそっと耳打ちする。

「……様が来られたようです」

「そうか、分かった。……ざんねですが、知人が訪ねてきたようです」
「ああ、僕も長居してしまったようですね。ではこれで失礼します」

「私も楽しい時間を過ごせました。もしパンについて考えがあるようでしたら、私に一声おかけください。お力になれると思います」

「はい、ぜひ」

 僕とフストラ会頭はがっちりと握手をして別れた。
 久々に有意義な時間だった。話の分かるいい人だ。

 そういえば、最後までシャラザードの話題はでなかったな。
 そのことについて話をしたかったと思ったのだけど。


「まあいいか」
 僕は先ほど途中になった、庭園に向かって歩き出した。

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