挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第3章 商国陰謀編

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

178/660

178

「い、いえ、ボクたちは……」
「あ、あの……御前ごぜん、失礼致します」

 男たちは慌てて、押し合いへし合い去っていった。
 それは駄目だろ。

「……なんじゃあやつらは」
 ディオン氏族長は首をかしげた。

「きっと用事でも思い出したのでしょう」
「そういうものかな。ではいくぞ。アンよ、サーラーヌ王女をよろしくたのむ。王女殿下、また後ほど」

 ディオン氏族長は僕の手を取って、パーティ会場をドンドンと進んでいった。
 みんなが何事かと注目するが、氏族長は一切気にしない。

「マリンネ、瑪瑙めのうの間を使う。用意せよ」

 そう叫んで、会場を出て行った。マリンネさん、秘書かな。
 しかしせっかちだな、この人。

               ○

 ディオン氏族長とは過去に会ったことがある。
 だがそれは、僕が覆面をしているときだ。
 この場合は初めましてからスタートしたのだが。

「このような書簡が届いた」

 氏族長はいろんなものを省略して、僕に竜国の紋が入った手紙を渡してきた。せっかちだ。
 いいのか? 重要なものらしいけど。

「僕が読んでよろしいのですか?」
「そこに書いてあるのはお主の名前だろ。意見を聞きたい」
 たしかに僕の名前が書いてあった。

「……拝見します」
 読み進めると、氏族長が僕を呼んだ意味が分かった。

「読めない箇所がある」
「でしょうね」

 氏族長が読めない文字。それは〈影〉の間で使われる暗号文字だ。
 解読されないようにだろうか、この〈影〉文字、僕が読んでもほとんど意味のない文字の羅列になっている。

 だが一箇所だけ、意味の分かる部分がある。
 そこだけで、すべて分かった。


 ――開示せよ


 暗号には、そう書かれていた。
〈影〉どうしでしか通用しない暗号を使って、唯一読める場所にあった文字が『開示せよ』。

 この意味はひとつだろう。
 開示するのは僕の正体についてだ。

 出発前にはそんな指令はなかった。
 僕がここに到着して今日で三日目。その間に何かあったのかな。

 これは女王陛下から僕にもたらされた指令。
 僕の情報を開示して、そこから何を?

 疑問は残るが、この書簡を届けた竜操者は、休むことなく届けにきたのだろう。
 僕は気持ちを切り替えた。

「……お久しぶりです、ディオン氏族長」
「ああ、その節は世話になったな。しかし、あれは本当におぬしの父親なのか?」

 氏族長は普通に返してきた。予想は付いていたということか。
 僕を名指しで暗号が送られてくれば、そうだよな。

「ええ。そうですけど?」
 父さんに何か?

「砦防衛戦の報告書を読んだ。あれほど頭を抱えたことは、わしの長い人生の中でもそうそうなかったぞ」
 おう? やり過ぎたことか。

「技国でも、大山猫の氏族が使う駆動歩兵は別格。序列の差が性能の差になり、それがそのまま戦力の差になる。それをあれほど見事に無力化させるとは、一体何者なのだ?」

「パン屋の主人ですね」
「………………」

 いや僕の情報は開示できるけど、父さんのは分からない。
 言ってもいいとは思うけど、僕から辿れるのは、そのくらいの情報のはずだ。

「まあいい。そこらのパン屋が一騎当千の働きをしようが、どうせ身内になるのだから細かいことは気にせん」
「そういえば、アンさんから聞きましたが、大転移の情報がもたらされたとか」

「うむ。書簡に書いてあったのだよ。魔国……いや、魔国と商国の動きについて知らせてきた」
「商国もですか? ……大転移で商国に何の動きが」

 商国に利益はないはずだ。
 すべての国が混乱すれば、一番困るのは商国。

 生産性のない商国は、自国のみでは立ち行かない。
 他国が倒れれば、共倒れになる。

「魔国が得た情報を商国に売った。それをもとに両国が共同戦線を張りつつあるらしい」

 魔国が得た情報は、この前盗まれたやつだよな。
 とすると大転移の時期について、商国に情報が伝わったとみていいだろう。
 それで共同戦線の張ったわけね。

「魔国は竜国に侵攻する予定だと思います。商国もそれに加わるのでしょうか」

「憶測になるが、竜国へ武力侵攻は難しいと判断したようだな。そもそも竜の移動速度を考えれば、国家戦など仕掛けるはずがない」

 それは僕も思う。
 敵の陣容も、後詰ごずめも伏兵も補給部隊の場所も『何もかも』空からの偵察で大バレである。
 情報を一方的に握った方が勝つならば、これはもう戦いにならない。

「ではどうなるのでしょう」

 考えられるのは流通を止めることだが、あからさまにやれば商国だけが悪者になる。
 表だってそんなことをしても、いいことは何もない。

「竜国に工場を作るらしい」
「…………はっ?」

 なんだ? いきなり話が飛んだ?

「いやはや、結婚式があって助かったわ。他の氏族と情報交換をして判明したが、商国は技国で長年眠っていた技術を買い取った。有用だが投資額が巨大すぎて、実利が出るかどうか微妙な開発だった」

 商国が買ったのは、七年前の技術競技会で発表された技術のひとつらしい。

「それを買い取ったと」
「うむ。うまく使うには、大きな工場が必要になる。すでにある工場では使えないだろうな」
「だからって竜国に工場を作るのですか?」

「商国が竜国に工場を作り、魔国の人材を使う」
「別段おかしくない話ですね。竜国の人を使わないのは気になりますが」

「上手くいくだろう。生産性もあがる。工場生産品が大量に市場に溢れ、工場の知名度もあがある。そして大転移がくる」
「はい」

「大転移で魔国の被害は大変なものになるだろう。すぐに食糧難がささやかれるはずだ。そして竜国には同胞がいる。仕事がある。ならば居場所があると考える」
「魔国の民が竜国に雪崩れ込むんですか?」

「そうなるように仕向けるだろうな。戦争ではなく、実質的に魔国の人間で町を占領してしまえばいい」
「そううまく行くでしょうか」

「魔道使いがこっそり入り込むであろうな。それと地方領主は抱き込んであればなお良い。あとは大々的に宣伝するだけだ。竜国へ行けば助かると」

「そんなことをして、商国になんの利益があるのでしょう」
「商国には、食糧を自給できる土地も人もいない。魔国から人が流れ込めば、大変なことになる」

「そうさせないために、竜国をスケープゴートに?」
「そうだ。たとえばソールの町で、人口の十倍の人間が押し寄せてきたらどうする?」

「どうにもなりません。十倍ですよね。力で追い返そうとすれば、追い出されるのがこっちです」

「向こうはもう後がないしな。かといって竜を使おうにも、大転移は始まっておる。町中に入った魔国の人間だけを排除するのは難しい。そもそも国を捨てて逃げてきた連中だ。兵士ではない。……だが、受け入れればいつしか元の住民が追い出される」

「そうですね。でも、そんな人数が入ってきたら……避難民だって飢えるでしょう」

「ならば次の町へ行くだろう。どこへ行けばいいか、竜国の民が知っているのだから、元の住民が逃げた先にそれはある」

「そうやって次々と竜国の町を……?」

 ディオン氏族長は重々しく頷いた。移民……いや難民か。
 これは難民たちの乗っ取り計画だ。


 大変なことになった。


+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ