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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第3章 商国陰謀編

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 ウォールさんとイーナさんのふたりから、鴎の氏族に寄ってくれないかと言われている。

 僕が竜で訪問することで、竜国との友好をアピールするのが狙いだ。
 イーナさんの狙いは竜に乗ることだけど。

 これについてアンさんに聞いてみた。

「技国全体を考えれば、いいことだと思います。実益のある提案です」
「やはりそうなんですか」

「はい。いま技国は安定しておりません。クーデターにつづき、内戦がありました。国内が荒れたことで、他国の目は厳しくなっています」

 政治的に乱れた国に資本を投資したくない。
 国と国の大事な交渉をしても、クーデターでご破算になるかもしれない。
 戦禍が飛び火するかもしれない。
 技国にいる自国民が危険にさらされる可能性がある。

 このような考えが浮かぶだけで、国政としてはマイナスらしい。

「そこで友好をアピールするわけですね」

「そうです。竜国との国境は安定していると宣伝できるでしょう。発表があれば、鴎の氏族領に住む民も安心します。それに他の氏族もこれ以上ゴタゴタは嫌でしょうから、明るい話題に飢えています。いい宣伝材料になるのかと思います」

 アンさんに聞いてみれば、すぐに政治的な見地から答えがかえってくる。
 なるほど、僕にはない発想だ。

「ですが」
「なにか気になることでも?」

「わたくし個人としては、少し……心配です」
「どうしでですか?」

「氏族長のグエンさまは、いま積極的に竜国との関係を改善しようと考えております。イーナさまもわたくしから見てとても凛々しく、美しい人ですので……レオンくんの目にとまってしまうのではないかと心配です」

 最後は消え入りそうな声で、アンさんは言った。

「イーナさんですか。確かに美人ですね」
『血飛沫』だけど。

「レオンくんもそう思いますか?」

「武を極めようとしているからでしょうか、若駒のような躍動感、それに他の女性にはないキビキビとしたところを感じます」
 だけど『血飛沫』だ。

「そ、そんな……」
 アンさんが愕然とした表情をする。
「どうかしましたか?」

「いえ……わたくしも個人的にお話させていただいた限りでは、性格も裏表のないまっすぐな方でした」
「そうですね。まっすぐですね」
 まっすぐ竜に視線がいってた。

「レ、レオンくんは、イーナさまのような凛とした美人の方が、その……好みなのでしょうか」

「それはないです」
 だって怖いし。

 真正面からだと勝てる気がしない。
 とにかくあのふたりとは、闇に覆われた場所以外で戦いたくない。

「そ……そうなのですか」
 あからさまにホッとしている。

「そもそもイーナさんはシャラザードに夢中のようで、とにかく竜に乗りたいだけらしいんです。そのために知恵を絞って、外交とか友好とかひねり出した感じみたいですよ」

「まあ……」
 だったら気にすることはないのかしらと、アンさんは小声で呟いている。

「それにシャラザードは編隊行動が退屈らしいのです。どうやら、飛竜と一緒だと遅いみたいで」
「遅い……のですか?」

「そうみたいですね。もっと速く、とにかく気持ちよく飛びたいと言っています」
「そういえば、レオンくんだけ先に到着したのでしたわね。王女さまを乗せて……」

 少しだけ上目遣いで僕を見る。
 最近アンさんの感情の動きが分かるようになってきた。

「王女殿下は新しい物が好きなようですね。やはりシャラザードに興味があったようです。もう大丈夫だと思いますが」
「そうだったのですか」

「失礼、少々よろしいですか?」
 若い男がアンさんに話しかけてきた。
 なんだこいつ、人が話しているのに失礼な奴だな。

 顔を見たら思い出した。
 イーナさんと口論していた連中だ。「なってない」と怒られていたが、こういう性格なのか。

「はい、なんでしょうか」
「アンネロッタ様、宜しければ我々とお話し致しませんか。歳を同じくする者どうし、なにかと共通の話題もあるでしょう」

 男たちの服装はどれも一流の仕立て職人が作ったものと分かる。

 アンさんと僕の間に入り込めると本人が思っている。ならば他の氏族の上位者たちかな。

 兎の氏族は次の競技会で序列一位に手が届きそうだ。よし、今のうちに取り込んでおこう、そんな感じだろう。

 さてどうしよう。邪魔をしてもいいが、恨まれるのは得策ではない。
 重要な情報を知らされていないレベルの連中に、アンさんをかっさらわれるのはしゃくさわる。

 ふと見ると、サーラーヌ王女がいた。僕と目が合ったので、ここは借りを返してもらおうか。

「アンさん、どうぞ。話の途中でしたが、僕ばかりが独占するわけにもいきませんですしね」
 言外にいろいろ匂わせておいた。

「レオンくん……」
 アンさんは困っている。

 その間に僕は王女に視線を送る。
 察してくれたようだ。さすが、こういう席に慣れている人物は違う。ゆっくりとこっちに歩いてきてくれた。

「たしかに交流を深めるのは重要ですしね」
 僕が言うと、アンさんを誘いにきていた二人の男性がその言葉に乗っかる。

「そうですよ。ではキミ、悪いね」
「そうそう。ボクたちと話した方が有意義さ。さあ、こっちへ」

「レオン、どうしたの?」
 いいタイミングで王女が話しかけてきた。ナイス。

「サーラか。どうだ、楽しんでいるか?」
「……まあまあよ」

 僕はフィロスさんの呼びかけとか、口調とかを真似てみた。
 王女は一瞬、鼻にシワを寄せかけたがこらえたようだ。

「不満がありそうだな」
「パーティ自体に不満はないわ。ただ、環境が悪いかしら? あなたの方は?」
「似たようなものだ」

 王女の視線はアンさんの周りにいる男たちに向けられた。

「………………」
「………………」

 男たちが固まっている。
 僕がサーラと呼んだ女性が、すぐに竜国王女であることに気づいた。

 当たり前だ。今回、魔国は来賓に王族を派遣していない。
 序列一位の大山猫の氏族長が来ていない以上、来賓で一番位が高いのはサーラーヌ王女だ。

 それを呼び捨てにした人物。つまり僕はいったい何者だということになる。
 加えて僕と王女の会話から、どうも不満に思う部分があり、それがパーティではないことも匂わせてある。

 これで少しでも考える力があれば、パーティを台無しにしている存在が自分たちだと気づくだろう。

 自分たちは、主催者の顔をつぶす存在になってしまったのか?
 竜国の王族を不快にさせてしまったのか?

 いま頭のなかはグルグルと回っているはずだ。

 これで、用事を思い出して目の前から去りでもすればまだ救われる。
 だが、彼らはどうしていいか分からず、動けないでいる。

「探したぞ」
 重低音の声が聞こえてきたと思ったら、ディオン氏族長だった。
 なぜか僕のもとにやってきた。
 ここにきて、大御所の登場だ。だけどどうして?

「本日はおめでとうござ……」
「そんな話は別にいい。それより奥で話そう」

「はあ……えらく急ですね」
「おぬしはここにいる必要はあるまい。ここは下の者が交友を深める場所だ」

 だったら、僕はいる必要があるんじゃなかろうか。
 僕が若い男たちを見ると、ディオン氏族長もはじめて気づいたようだ。

「おぬしらは何じゃ?」

 ディオン氏族長はそう問いかけた。
 氏族長の鋭い目が、男たちを射抜く。

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