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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第3章 商国陰謀編

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「やあ、サーラ。久しぶり」
「これはフィロス義叔父さま。相変わらずお元気そうで」

 結婚式のとき、僕の隣に座った人だ。
 いまの会話からすると、王女とは縁戚関係にあるらしいが。

 男性と王女はひとしきり親しげな会話をしたあと、男性の方が僕に向き直った。

「そういえば、自己紹介がまだだったね。私はフィロス・シラーム。ただの医者だ」
「竜の学院一回生、レオン・フェナードです。お会いできて光栄です」

 互いに竜国式の挨拶を交わすと、フィロスさんは目尻をさげて僕の肩を叩いた。

「さきほどは済まなかったね。堅苦しい挨拶は抜きにしよう」

 初対面では結婚式ということもあり、互いに名乗りは控えた。
 そのため、フィロスさんのことはほとんど知らない。

 僕の視線に気づいたのか、王女が説明してくれた。
「叔母さまと結婚された人よ」
「なるほど……」

 と言いつつ、なんのことだと、王家の家系図を思い起こしてみた。

 女王陛下は二人兄妹で、若い頃に兄を失っている。
 王配は表舞台にはでてきていないが、妹がひとりいたはず。

 ――そっか、その旦那か。

 無位無官なんてとんでもない。
 王女が義叔父と言うことから分かるとおり、フィロスさんの奥さんが王配の妹にあたるわけだ。

 ただし、公的な役職は得ていないのだろう。

「治療の相談役として招かれたのだけど、しばらく国に戻してもらえそうもなくてね」
 フィロスさんが苦笑している。

 聞くところによると、モーリスさんの怪我が思いの外ひどく、兎の氏族の優秀な医師団が総出で治療にあたった。

 視野狭窄にならないためにも、他国から医師の派遣をお願いしたらしい。
 こういうところは、万全を期す技国らしい発想だ。

 モーリスさんの怪我が良くなったわけだが、問題は招聘した医師たちである。

 すぐに帰国されては傷の具合が他国に筒抜けになってしまう。
 さすがにそれはマズイということで、技術交流の名目で留め置かれているのだという。

「だから結婚式に参加したのですね」

 王配の妹を妻に持っているから、竜国ではそれなりの敬意をもって接せられるだろう。
 だが、他国ではそうもいかない。
 これで結婚式に出席した理由が判明した。

「半年くらい動けないかな……まあ、五月か六月頃には帰れるだろう。それまで羽根を伸ばそうかと思っているよ」

 半年も経てば、モーリスさんの怪我の情報は意味を成さなくなっている。
 そうすれば竜国に帰れるとフィロスさんは言った。

 高貴な人たちはいろいろ大変そうだ。

「そうそう、サーラ」
「なんですか、義叔父さま」

「キザ男に注意した方がいい」
「それはどういう?」

「ここに来る前に危険な噂を小耳に挟んでね。気にしておく程度でいいと思う。念のためだ。……じゃ、これで。パーティを楽しむといい」

 来たときと同じように、フィロスさんはさっそうと去っていった。
 マイペースな人だったな。言いたいことだけ言って。

「……ふう。まったくあの人は」
 王女がめずらしく、公の場で大きく息を吐いた。

「キザ男って?」
 危険とか聞き捨てならない言葉を聞いたけど、だれに注意すればいいんだ?

「キザ男は……血縁のある伯父さまよ。ちょっとカッコつけの人なので、私が小さい頃にそう呼んだことがあるの。それを揶揄しているのよ。まったく」

「へえ?」

「思い当たる人物がいないって顔ね。ウルスの町の領主って言えば分かるかしら」
「……リトワーン卿!?」

 副王の名を冠するリトワーン・ユーングラス。先王の妹君の子だったはずだ。

「そう。七大都市のひとつで、魔国への防波堤ウルス。彼がいるからこそ、竜国への道は閉ざされている……聞いたことがあるでしょ?」

「ルクストラ王家を除いて最大戦力を保有していて、竜見台りゅうみだいの考案者だって学院で習ったかな」

「もし魔国が竜国に侵攻するならば、ウルスの町を避けるとまで言われているわね」

 魔国の監視に飛竜しか降りられない塔を建てた人だ。
 そして竜国に二頭しかいない大型竜の一体を保有している。

 竜国にある陰月の路の三分の一は彼の管轄だと言われているすごい人だけど、キザ男なんだ。

 昨年、魔国十三階梯が学院生を襲った際、陰月の路を移動したのは、竜見台の監視を避けたからだと思う。それほどまでにリトワーン卿は魔国に恐れられている。

「それが危険?」
 なにが危険なんだ?

「気にしなくていいわよ。いい加減なことを言って惑わす人だから。……私ももう少し楽しんでくるわ」

 王女はグラスを僕に押し付けて行ってしまった。
 さっきまで酒が入っていたグラスはカラになっていた。

 僕は考える。
 王配アルヴァータ・ルクストラ。

 噂では機密文書を扱う部署で働いているため、他の領主や貴族との接触を絶っているという。
 その妹と結婚したのがフィロスさんで、技国に招聘されるほど優秀な医者らしい。

 そして彼が危険と言ったリトワーン卿だが、医者でしかないフィロスさんと政治的な接点はないはず。足を引っ張りたいから戯れ言を言ったとも思えないんだよな。

 王女は気にするなと言ったが、先ほどの忠告はなにを意味するのか。
 僕が悩んでいると、アンさんが人の波をぬってやってきた。

「楽しんでいますか、レオンくん」

「ええ。顔合わせ会と違って注目されないので、気が楽でいいですね」
 本音だ。王立学校で行われた顔合わせ会では、どうやって会話をいなそうか頭を悩ませたものだ。

 それに比べれば、その他大勢のひとりになれるこの会場は、かなり気分が楽だった。

「レオンくんらしいですわね」
 アンさんは苦笑している。

 アンさんもずっと大勢の若い男性に囲まれていたので、僕の気持ちが分かったのかもしれない。

「顔合わせ会ももう終わってホッとしています」
「それはわたくしもですわ」
 アンさんがニッコリと笑った。

「そうだ。アンさんは王立学校にいつ戻りますか?」

 こんな席で聞く話ではないが、これが終われば僕はすぐに戻ってしまう。
 聞けるときに聞いておかないと、あとで悶々(もんもん)としてしまいそうだ。

「そうですわね、今月いっぱいには戻りたいと考えていますわ」
 やはりそうか。いろいろと忙しいのだろう。

「……と言う所ですが、実はそれほどかからないかもしれません」
「そうなんですか?」

「はい。氏族内の説得が思いの外早く終わりそうなのです」
「それは……」

 今日まで結婚式の準備で忙しかっただろう。
 そんな会合を開いている暇はないはずだ。

「このことを見越したのでしょうか。竜国の女王陛下より書状が届きました」
「…………?」

「内容はここでは申せませんが、数年後に起こることについての報告書です」
「まさか、大転……っと!」

 思わず口に出してしまうところだった。危なかった。

「はい、そのことです。それで氏族の方針が根本から見直されました。兎の氏族は竜国と協調していくことになりましたの。そのための親善大使にわたくしが選ばれたのです」
「それは……」

 前回の大転移で呪国じゅこくが滅んだ。
 今回、月魔獣の大量降下がどの規模になるか分からないが、魔国が滅亡の淵に立たされている。

 竜国は魔国を助ける余裕はない。他の国も同様だろう。

 大転移が始まってから収まるまでの数年間で、どのくらいの被害が出るか分からない。
 その前に兎の氏族が竜国と歩調を合わせたいと考えるのは、正しい政治判断だと思う。

 アンさんが親善使節団を率いれば、竜国も技国は本気だと思うだろう。
 なるほどと思う。僕の知らない裏でいろいろあったようだ。

「そういえば、ひとつ相談に乗ってもらえますか?」
「なんでしょうか、レオンくん。なんでも聞いてください」

 顔を近づけてきたアンさんに苦笑しつつ、僕は鴎の氏族からの提案について聞いてみた。

「……というわけで、僕だけ招待されたようなんです。シャラザード込みで」

 そこまで話したとき、アンさんはとっても複雑な表情を浮かべてた。

閑話の情報です。

以下の予定で5本の閑話を『設定集』の方に投稿します。
明日の朝からですね。

これは本編とは別投稿ですので、本編はそのままです。
11日と12日は1日4本となるわけです。

投稿予定
11月11日06時 【閑話11】自称看板娘の心配事
11月11日18時 【閑話12】次年度の入学者
11月12日06時 【閑話13】ドラス隊長 チュリスの町まで
11月12日18時 【閑話14】ドラス隊長 チュリスの町から
11月13日06時 【閑話15】農夫ヨーランの決意

以上になります。よろしくお願いします。
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