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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第3章 商国陰謀編

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 披露宴は会場をふたつに分けて、立食のパーティ形式で行われる。

 サーラーヌ王女と一緒に会場に到着すると、先客たちがよい気分で談笑していた。
 先に一杯引っ掛けているようだ。

「主賓が来るまで時間はあるわ。好きにしてなさい」
「護衛はどうしましょう」

 ドラス隊長や竜国から連れてきた護衛たちは下のガーデンの方にいる。ここにいるのは僕だけだ。

「心配ないわ。というか、あなたが近くにいたら話しにくい人もいるんだから、少しは察しなさいよ」

「……はい」

 ここは内向きな政治の話をする場所ではなく、広く交友を求める場所だ。
 王女も同年代の女性と話をする機会も多いだろう。

 僕が後ろでじっと立っていたら、やりづらいのかもしれない。

「だったら、下に行ってもよさそうだよな」

 会場内は若い人たちが多い。
 各氏族は、この機会にたくさんの人と顔を繋いでおくようにと、将来有望な若者たちを送り出したのだろう。

 アンさんはまだ来ない。知り合いは皆無だ。

「少しいいかな。妹がどうしても話をしたいと言うのでね」
 と思ったらいた。

 鴎の氏族の『血煙』と『血飛沫』さんだ。またの名をウォールさんとイーナさんともいう。

「はい。ちょうど話し相手がいなくて困っていたところです」
 僕はにこやかに応対した。

「昨日はありがとうございます。とても有意義な時間でした」
「いえ、お役に立ててなによりです」

「黒い竜は噂されていたような怖い外見ではなく、とても愛嬌があっていいですね」
 嘘やお世辞ではなく、本心からそう思っているようだ。

 目の病気かなにかだろうか。
 剣士をやっているのに、近眼は致命的だと思うのだけど。

「怖がる方も多いですけど、イーナさんはそうでもないみたいですね」

「怖がるなんてとんでもない。とても美しいフォルムだと思います。我が国の機動歩兵は無骨なものが多く、とても羨ましいです」

「ありがとうございます。シャラザードにかわってお礼を申し上げます」
 僕は静かに頭を下げた。

「それで……あの」
 イーナさんの腰が揺れている。トイレに行きたいのかな?
「なんでしょう」

「じ、実はですね。レオンどのを……わ、我が領にご招待したいと思いまして」
「はい?」
 どういうことだ?

「先年、竜国と鴎の氏族は不幸な行き違いがありまして、そ、それはいいのですが、このようなよき日に友好を深めるのもまた……」
 なにが言いたいんだろう。

「妹は竜に乗って、氏族領へ戻りたいらしいのだ」
「お兄様!?」

「悶々と悩んだ末の解決策でね」
「お兄様!!」

「あー……」
 そういうことか。やっぱり脳筋が少し入っているかな。
 考えに考えた末に、自領へ招待したいって……氏族長、泣くぞ。

「その件は僕の一存では決められないのでなんとも。それに友好ならば王女を招待した方が……って、さすがに予定のない訪問は難しいですね」

 突然王女が訪問したら、竜国、鴎の氏族双方が慌てるな。
 僕くらいならばイレギュラーとしてなんとでもなるけど。

「い、一応、今回の使節団に希望を出しておきますので、ご承知くださいませ」
「はい」

 イーナさんはカクカクとした動作で一礼して、そそくさと去っていった。

「本当に妹が迷惑をかける。あれで普段はまとも……剣を握っていないときは普通なんだが」

 ウォールさんはまったくフォローになっていない言葉を発しつつ、苦笑しながら追っていった。
 各氏族の若者たちが集まっているので、そちらに合流しにいったのだろう。

「……やれやれだ」



「それでは、両氏族の益々の発展を祈念致しまして……」

「「「カンパーイ!」」」

 主賓が登場するないなや、どこからともなく司会者たちが場を盛り上げ、そのまま乾杯とあいなった。
 ここからは花嫁と花婿を交えたパーティがはじまる。

 アンさんも氏族長も同時に会場入りしている。
 そんな重要人物のもとへ、ここぞとばかりに人が殺到するのはいつものことだ。

 僕はテーブルに並べられているパンの色、ツヤ、匂いを確認して、ひとつをちぎって口の中に放り込む。

「……うん。しっとりとして口の中がパサパサしない。最適の温度と時間で焼かれているな」
 ヘタな人が焼くと、水なしで飲み込むのに骨が折れるけど、さすがに技国の一流職人が作ると違う。

 僕はこのしっとり具合が再現できるよう、できるだけ舌で覚えることにした。

 パーティに並べられた料理は、大層豪華なものだった。
 これが庭にいる人たちにも振る舞われるのだからすごい。

 いったいどんな厨房で作っているのやら。

 飲み物を片手に、周囲に視線を送る。
 兎の氏族に連なる者たちはみな上機嫌だ。

 まるでもう今日、首都が変わってしまったかのような喜びようだ。
 さすがに自重した方がいいんじゃないかと思うほど陽気な人もいる。そんなに嬉しいのだろうか。

「どう? 楽しんでいる?」
 サーラーヌ王女がやってきた。

「僕に近寄らないんじゃなかったんですか?」
「お腹が空いたのよ。ちょっと料理を取ってくれる?」

「僕は給仕ですか」
 そう言いつつも、皿を持つ。

 王女はさっきまで大人の人たちに混じって談笑していたので、疲れたのだろう。
 僕は皿にパンとパンとパン……を載せていたら目が怖かったので、肉と野菜を盛った。

「どうぞ」
「ありがと。そこに立っていてね」
「今度は壁ですか」
 便利に使いすぎる。

 王女の食事が終わるまで、なにするでもなく、周囲を眺めていると。

「ん?」
 揉めているっぽい?

 氏族の若者たちとイーナさんだ。口論している。
 イーナさんが怒り出したところで、ウォールさんが手を引いて会場の外へ連れ出す。
 絶妙のタイミングだ。

「……まったくあ奴らはたるんでいる」

 近くを通るときにそんなつぶやきが聞こえた。
 少しだけ事情が察せられた。

「もういいわよ」
「あれ? もう食べ終わったんですか?」
「つまむ程度で充分よ。これで夜まで持つわ」
「燃費のいいことで」

 王女は酒の入ったグラスを持っている。
 いつ受け取ったのやら。

「すぐにろれつが回らなくなるんですから、お酒はほどほどにした方がいいですよ」
「らにいっれんのよ」
「もうかよ!」

「冗談よ、冗談……」
「どうだか」
 すでに頬がほんのり赤くなっている。

「そもそも人が見ている前で気軽に酒に口を……ん?」
 こちらにやってくる人がいた。

 式の時、僕の隣に座っていた人だ。

「やあ、サーラ。久しぶり」
 男は王女に向かって、そう朗らかに挨拶した。


 無位無官……だよな?


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