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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第3章 商国陰謀編

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 ナッチャ大聖堂の二階バルコニー。

 結婚式を終えた花嫁と花婿が顔を出すと、群衆が興奮の渦へとつつみ込まれていった。

 二人の姿をひと目見ようと、彼らは朝からずっとここに集まっていたのだ。

 バルコニーから顔を現したのは二人だけではない。
 両氏族長をはじめ、主だった氏族の者たち。

 他にも、各国の代表者たちが顔を見せている。
 もちろんアンさんもいる。

 この後のパーティまで時間がある人たちばかりだ。
 歓声を挙げる群衆たちの熱気がここまで届く。

 司会者が声を張り上げているが、人の声にかき消されて、僕の耳にも届かない。
 バンザイする者、花びらを巻き上げる者、旗を振る者など、みなこの結婚を祝福しているのが分かる。

 司会者が手を大きく振った。
 何かの合図らしい。

 すると花嫁のミアーリアさんが、持っていたブーケを民衆に向けて投げた。

 ブーケは弧を描いて、民衆の中へ落ちる。そこへ人が殺到する。
「ああ、これがそうなのか」

 これは技国独自の風習で、結婚式のときに身につけたものを祝福してくれる人たちに向けて投げるというものだ。

 こうすることによって、富と幸運を集まった人たちにおすそ分けする意味がある。
 こんな大勢が集まった中でやるのか。

 ミアーリアさんの行動はそれだけではない。
 次に肘まである絹の長手袋を外し、それも投げる。
 民衆が右へ、左へと殺到する。

 さらに顔を隠していたベール、首に巻いていたチョーカー、ドレスの飾りになっていたサッシュも投げた。

「大判振るまいだな」

 それだけこの結婚が嬉しいのだろう。
 幸せな顔をしている。

 花嫁が終わったからか、今度は花婿のモーリスさんがタイ、カフス、胸元の飾りを次々と投げた。

 あれひとつで一財産になるものだ。
 だが、技国の民はそれを決して売ることはしないだろう。
 代々子々孫々まで伝えるに違いない。

 花婿が終わると、氏族長家族、そして国賓へとその風習が伝わっていく。

 竜国の番が来た。
 国賓の場合は、手袋やリボンなどが多い。

 この風習のためにわざわざ投擲用のものを用意した貴族もいる。

 サーラーヌ王女は、手袋を外して投げる。
 それで終わりかと思ったら、右手人差し指にある指輪を外した。

「……まさか」

 指輪にスカーフを結んだ。
「……いや、ちょっと待て!」

 そして大きく振りかぶると、空高く投擲とうてきした。


 ――うわぁああああ


 群衆の声がひときわ大きくなる。
 指輪を結んだスカーフはまるでほうき星のように尾をひいて……。

「……!? そうか。でも、ちょっと足りないな」
 僕はその軌跡を予想する。

 放物線を描いて落ちかけた指輪は、空中でなにかに当たったかのように一度跳ね返り、周囲を警備していた者の手元にすっぽりと収まった。

 王女の大盤振る舞いに鼓舞こぶされたのか、その後も装飾品を群集に投げ入れる者がポツポツと現れ、このお披露目は大盛況のうちに終了した。

               ○

 引き上げる途中、サーラーヌ王女が僕に近づいて「ありかとう」とだけ言った。
 見えたのか? いや、結果から判断したのだろう。

「あの指輪、ルクストラ王家の紋章が彫られていたのではないですか?」
「いいのよ。どうせもう取り返せないし」

 この行為が問題になったとしても、群衆に向けて投げてしまったのだから、どこへ行ったか分からない。

 王族の持ち物、その中で価値あるものはすべて財産目録に記されているが、あの指輪は紛失物として扱われることだろう。

 ちなみに、指輪の軌道を変えたのは、父さんの魔道を見て思いついた、僕の投擲術だったりする。
 何の事はない、透明なガラス玉を指で弾いただけだ。

 父さんと対峙したとき、見えない攻撃に散々苦労させられたので、なんとか再現できないかと思って開発したものだ。ガラス玉は今でもいくつか所持している。

 何人かは気がついただろうが、僕がやったとは思わないだろう。
 さすがに瞬間を察知されるほど僕も落ちぶれていない……と思う。

 ちなみに僕は何も投げていない。
 というよりも、バルコニーに並んだ人たちの後ろで控えていただけだ。

 その後、高位の人たちは用意された馬車に乗って、氏族の本殿まで向かう。
 パーティに出席するのだ。

 今回の式典は、身分などによって大きく三つのグループに分けられているらしい。

 ひとつは言わずと知れた結婚式に招待されたグループ。
 僕やサーラーヌ王女をはじめ、大聖堂で式典に参加した人たちだ。

 この後も、結婚記念パーティに出席する。

 次は、パーティのみに参加するグループ。
 大聖堂には人数制限があり、希望者全員が入ることはできない。

 そのため、パーティ会場で結婚を祝いつつ、大聖堂から移動してくる招待客を待つ形になる。
 パーティは高位の人たちと一緒に行われるので、このグループの方が気が楽だったりする。

 最後は、庭園までしか参加できないグループ。
 パーティ会場ですらすべての人を収容しきれないため、庭に設置された第二会場で結婚を祝う人たちだ。

 第二会場と言っても、料理の格が落ちるわけではない。
 みな平等に扱いたいが、人数の都合上会場に入れないので、仕方なくそのように配置したに過ぎない。

 僕はアンさんに招待されているので、最初のグループになる。
 個人的には庭園でゆったりとしたいのだが、そうもいかない。

 道中はサーラーヌ王女の護衛も兼ねているので、同じ馬車に乗る。

「式のとき、魔国の高官がいなかったのは覚えている?」
「いえ、僕は隅の方にいましたので。そういえばケープ姿はほとんど見かけませんでしたね」

 上座の三分の一は技国の人たちで埋まっていた。
 国賓で呼ばれた王女の周囲を思い出してみたが、それっぽい服装の人はいなかった。

 魔国もまた独特な礼服があるので分かるのだ。
 ゆったりとしたケープを着ていればだいたい魔国だと分かる。

「魔国王の後継者と目されている人がいるのだけど、欠席みたいね。あの国、どういうつもりかしら」
「ふむ……」

 慶事に欠席するというのもおかしな話だ。
 人を出すだけで友好を演出できるという、とても安上がりな外交のはずなのに。

「魔国内でなにかあるのでしょうか」
「さあ。だとしたらウチに侵攻を考えているくらいかしらね。でもウルスの町を抜けられるとも思えないのだけど……」

 王女は考えこむしぐさをした。
 そういうところは、母親にすごく似ている。

「パーティのときにでも調べましょうか?」
 魔国の関係者は何人か見かけている。

「いいわ。かえって藪蛇になるかもしれないし。接触はしないでちょうだい」
「分かりました」

「魔国王の後継者は穏健派なのよ。対話派といった感じね。それが来ないなんて、何かあったと言っているようなものなのに……」

 つぶやく王女を乗せて、馬車はパーティ会場のある館へ向かっていった。


結婚式が終わり、次話からパーティがはじまります。
この物語を通して、各国が一同に会するのは今回が最初で最後になります。
そのため、登場人物が多少増えますがご了承ください。

レオンくんが竜を得て、ようやく物語が動き出すのと同時に、交友関係や移動距離が広がりました。

これまでのようにソールの町と王都だけでなく、世界の情勢もレオンくんの耳に入ってくることでしょう。
また今後は、〈影〉ではないレオンくんが活動するようにもなります。(竜込みで)

この後の物語に出てくる人たち、とくに若い人たちが登場したりします。
いまは物語を決める重大な転換点という感じでしょうか。

というわけで、レオンくんたちが竜国に戻るまでもう少しかかりますが、キャラ勢揃いのこの時期しか書けない話もありますので、いましばらくよろしくお願いします。


それと、結婚式まわりの【閑話】がたまっています。
といってもまだ、パーティが始まってません。。。

閑話の方で「物語を先取り」するのもあれなので、明後日(11日)から閑話を投下していきたいと思います。
詳しい流れは、明日(10日)の18時投稿時にお知らせします。
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