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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第3章 商国陰謀編

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 イーナさんの食いつきに驚かされたが、竜国以外でそれだけ竜のことが好きな人も珍しいと思う。

「竜が怖いとか、そういう気持ちはないのですか?」

「どうでしょう。近くで見たらまた別の感情を抱くのかもしれませんが、あの雄大な姿を遠くから眺めるのは大好きです」

 数十年前、技国は大規模な内乱に突入して、氏族間で激しい戦いが繰り広げられたという。
 覇を唱えるために進んで他の氏族領へ侵攻し、敵対した竜操者を真っ先に狙ったと言われている。

 そのせいか、序列の上位に位置する氏族には、竜がいない。
 先の内乱でみなやられてしまったからだ。

 いまだ竜がいるのは、あまり序列の高くない氏族だと聞いている。
 内乱に深く関わらなかったゆえに、生き延びたとも言える。

「まだ式まで時間もありますし、ご覧になりますか?」
「よろしいのですか?」

 あっ、声のトーンが上がった。

「ええ、見るだけでしたら構いませんよ」
 いろいろと僕が氏族内をかき回したお詫びに……とは言えなかった。

 ウォールさんとイーナさんが乗り気になったので、僕はふたりを引き連れて竜のいる一角に向かった。

 ふたりを観察するとよく分かる。
 武を極めようとする人は、移動中の何でもない時でもまったく隙がない。

 空間の把握がうまいのか、位置取りも舌を巻くほどにうまい。
 僕が徒手で襲いかかっても、ひとりを相手している間にもう一人に反撃されてしまうだろう。

 氏族の名を持つ者は自らを鍛えて、その名に恥じない実力を身に付けるらしいが、彼らはどれだけ努力してここまで武を昇華させたのだろうか。


「これが……黒い竜」

 シャラザードを見た瞬間、イーナさんは目をキラキラさせて近寄った。
 ウォールさんが止めようとするが、途中からその必要がないと思ったのが、伸ばした手を引っ込めた。

「すばらしい」

 震えながら近づき、シャラザードの前足にぎゅーっと抱きついた。

「これが竜!」

 イーナさんが感嘆の声をあげた。どうやら、本気で竜が好きらしい。

 竜国の民ですら、シャラザードの咆哮一発で失神した者が多数出たというのに、近寄ってもまったく平気なのだ。

「しかしこれはまた……」
 対するウォールさんは、シャラザードと戦うときを想定しているのだろうか、眉間にしわが寄っている。

 大空からやってくるシャラザードに、いかに優秀な剣士だろうと、為す術はない。
 それを思ってか、苦い顔をしている。

 策としては、操縦する僕を狙うか、シャラザードに取り付くかだが、それが簡単ではないことは分かると思う。
 他の手立てを考えつつ、どうすれば攻略できるか悩んでいる風だ。

「これ、乗ってみることはできますか?」
 目がキラキラだ。

「えっと、さすがにこの場でというのは勘弁ください。僕も許可を得ないと難しいと思います」

 イーナさんが残念そうな顔をした。

「そうですね、機会がありましたら、優先的にお載せいたします。それとシャラザードではありませんが、竜国に来ていただくことがございましたら、近くの都市から飛竜に乗って王都まで飛ぶことが可能です。そのときにぜひ」

「なるほど。そうですね」

 と言ってもこの脳筋兄妹、氏族長はあまり外に出したがらないだろう。

あるじよ、昨晩ここに二人ほど入り込もうとして、つまみ出されていたぞ』
「ん? なにそれ」

『周囲を守っている者たちと押し問答して騒がしかったわ』

 シャラザードが言うには、中に入れろ、竜を見せろとやってきて、騒いだ者がいるらしい。
 もちろん警備がしっかりと追い返したらしいが。

「なるほど。竜国から余分な警備員は連れて来ていないし、ここはしっかりと警護すると氏族長が言っているけど、竜国からも警備の人材を派遣した方がいいかな」

 竜をどうにかできるような人はいないと思うが。

『我にちょっかいを出そうとすれば爪で引っ掻いてやるだけだな』
 シャラザードが笑った。うん、平気でやるだろうな。

 兎の氏族を信頼しないわけではないが、一応隊長に伝えておくか。
 僕はシャラザードの言葉を心に留めて、ふたりを伴いながら館に戻った。

 あとで聞いたら、ちゃんと報告が上がっているらしい。それと竜国からも警備の人材は派遣してあるとか。

「それに竜務員もしっかりと戦闘訓練を積んでいるから、さすがに大丈夫だと思うぞ」
 とのことだった。意外とちゃんとしているらしかった。

 安心したところで、式の準備だ。
 挨拶も済んだことだし、あとは式に出るだけだ。
 僕は自室で着替えをする。

 アンさんからもらった服で出席してもいいのだが、僕を含めた『それほど偉くない竜国の招待者』たちはみな同じような服を着る。

 僕の場合、襟広えりひろタイプの竜国式正装になる。
 同じ服を着ている人が他に何人もいるので、紛れてちょうどいいかなと思っている。

 とくにアンさんからもらった服はいろいろと危険だ。
 無用な注目を集めてしまうかもしれない。

 結婚式はナッチャ大聖堂で行われる。
 僕は少し早めに式場に向かう。
 本拠地から馬車を出してもらったら、町を見学している間に着いてしまった。近い。

「さて、結婚式だ。目立たないようにしないとな」

 というわけで、壁か柱になりきるように僕は気配を消すのだった。



 結婚式は技能神像の前で行われる。

 氏族の神前式ともなると多くの手順が必要なようで、ただ誓っておしまいとはいかないらしい。

 厳粛な雰囲気の中、式は粛々(しゅくしゅく)と進み。
 ただ参列しているだけの僕ですら信仰こそ違うものの、敬虔けいけんな気持ちにさせられた。

 モーリスさんの相手は山羊の氏族の中でも有力な家系らしく、参列者は氏族長をはじめ、そうそうたる顔ぶれらしい。

 当のお嫁さんだが、遠目にみても小さくて愛らしいのが分かる。
 17歳ということで僕と同じ歳だが、一、二歳下に見える。

 名前をミアーリアという。アンさんなどは、互いにミアちゃん、アンお姉さまと呼び合う仲らしい。
 仲が良いのはいいことだ。

 そして僕らが見ている中、両者の宣誓がなされた。神前での誓いは絶対。そう聞いている。
 これで兎の氏族と山羊の氏族が同盟し、技国は新たな時代に突入したことになる。

 万場の拍手に迎えられて式は終了した。

「いやー、いい式だったね」
 僕のとなりにいた人がそんなことを言った。

「そうですね、とてもいい式でした」
 服装は僕とほとんど変わらない。竜国のあまり身分の高くない人だろう。

 背が高く、精悍な顔立ちをしている。父さんより五つ、六つ下くらいか。

 花嫁花婿が退場し、人々が席を立ち始めた。

「さて、次はお披露目だ。ボクは先に失礼させてもらうよ」
「参加されないのですか?」

「無位無官の身でね。たまたまこっちにいたから招待されただけさ。ああいう高位の人が参加するのは遠慮するよ。……じゃ、また後で」

 その人は去っていった。

「無位無官なのに……招待されたの?」
 よく分からなかった。

 この後は、本拠地に戻って祝賀会だが、入場する順番にもいろいろ決まりがある。
 より上位の者ほど後に入場する。

 それまでの時間つぶしに、花嫁と花婿は集まった民衆の前でお披露目をするのだ。
 さっきの男の人は、パーティ会場に向かったのだろう。

 僕は早く会場に行ってもよかったが、ひとつ気になることがあったので、この場に残ることにした。

 二階のバルコニーに人が移動していく。そこでお披露目をするのだろう。


 僕も目立たないようにしつつ、彼らの後に続いた。


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