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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第3章 商国陰謀編

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「一体なにがおこったんだ?」

 あまりに不自然だった。
 自分が急に強くなった? ヨーランは自問したが、そんなことはありえない。

 男たちの動きは、明らかにおかしかった。
 まるで戦いを途中で止められたかのように。

「今のうちよ、逃げましょう!」
「あ、ああ」

 二人して手を繋いで、人混みの方へ駈け出す。


「……ふう、ここまでくればもう平気ね」
「そうみたいだな。だけど、さっきのあれは一体……あいつらの動きがおかしくなかったが」

「腹痛でも起こしたんじゃないの?」
「そんなんじゃなかった。なんかこう……」

「いいじゃない、結果的に無事だったんだし」
「まあ、無事だったのはたしかだが」

「だったらそれを喜びましょう」
「それもそうだな。……なあ」

「なあに?」
「サーラ、もしよかったら、オレと一緒に来ないか? オレの町は田舎だけどいいところだ。オレはおまえとなら……」

「そうね、そういうのもいいわね」
「ほんとうか? だったら」

「でも駄目なの」
「どうして?」

「自由に生きるのは勇気がいるのよ。だからわたしは勇気を持って生きてきたの」
「おう?」

「でもね、それを貫き通すには力がいるの。わたしには、力がないわ」
「力? 農作業のことを心配しているのか? 大丈夫だぞ」

「ううん。わたしが言っているのは、腕力じゃないの。権力ね。それが今のわたしにはないの」

「権力? そんなもん、オレにもないぞ」

「ごめんなさい、ヨーラン。気持ちは嬉しいわ。だけどわたしは行けない。いまのわたしは自由を貫き通すだけの力がないもの。できるのは少しのワガママだけ」

「よく分からないけど……そうか。残念だな」
「もうお別れね。楽しかったわ。ここからはひとりで大丈夫。あなたは明日に備えて」

「だって、ここじゃ」

「平気。心配いらないわ。明日は……そうね、もし明日の警備の場所を選べるのならば、大聖堂の外、左手側に配置してもらってくれる?」

「…………? サーラがそう言うなら、そう頼んでみるよ」
「ありがとう。じゃ、楽しかったわ。本当に……あっ、膝のところ、なにか付いてない?」

「どれ?」

 ヨーランが屈んだとき、そっと頬に触れるものがあった。

 いまのは――もしかして?

 視線をやると、王女の端正な顔がゆっくりと離れていくところだった。

「えっ?」
 なにがおこったのか理解し、ヨーランが短く声をあげ、頬に手をやった。

 その隙に王女はきびすを返して歩き去ってしまった。

 王女はヨーランと別れてしばらく歩く。

「ねえ、いるんでしょ」

 すると、足元の影からするすると人影が現れた。

              ○

「ずっと足元の影にいたの?」
「暗くなってからは、そうですね」

「全部見ていたのね、変態」
「ひどい言われようだ」

「でもさっきは助かったわ、ありがとう」
 この王女、ちゃんと礼が言えるらしい。

「大したことはしていませんよ」
「敬語は禁止って言ったでしょ」

「もうお忍びは終わりかと思いましたので」
「ふうん。いいわ、帰りましょう、またしゃがむんでしょ」

「はい。ではお願いします」

 僕は王女を抱えて闇の中を進み、もとの部屋まで運んだ。

「満足しましたか」
「わたしを連れだしたことで叱られるあなたを見たら満足するかも」

「なんてひどい!」
 部屋の外からかすかな殺気が漏れている。護衛のひとりだ。

「えっと、普段はどんな無茶を?」
「なんで無茶が前提なのよ」

「護衛の方が怒っているようですので」
「ああ。お母さまが手配した人ね。わたしがよく抜け出すんで、いつも張り付いているのよ」
「あー、お忍びのときの護衛がいるのね」

 だったら声をかけてから出れば良かったかなと思うが後の祭り。
 護衛に〈左手〉がひとり紛れているのは知っていたけど、そんなものかと気にも止めなかったのだ。

 王女が堂々と部屋から出て行くと、隣の部屋にいた護衛たちの視線が僕に集まる。

 王女の脱走劇はよくあることらしいが、今回は護衛のだれもが気づかなかった。
 事情を知っている手前、騒ぎ立てることはしなかったようだが、今回の責任者であるドラス隊長には知らせたらしい。

「というわけで、叱られて来てね」
「なんてひどい!」

 ちなみにドラス隊長は、王女が消えた報告を受けても、本拠地内から抜け出せるはずがないと思っていたようだ。
 下町を散策したと聞かされて青い顔をし、僕が連れだしたと分かった途端、顔を真っ赤にして怒らせた。

 その間王女は、何食わぬ顔で着替えを済ましてしまった。
 面会の追加予約を見て、さて誰と会おうかと呟きつつ、部屋を出て行ったのだから侮れない。
 完全に王女モードである。

 一方僕はというと、言い訳と弁解と自己弁護をしたのだが、ドラス隊長に耳を引っ張られた。
 そのまま別室でお説教コースと相成った。

 なぜか知らないが、シャラザードのことも含めての説教である。

 でもあれは不可抗力だと思うのだけど、通用しそうにもない。理不尽だ。

 その結果、僕は夜中までドラス隊長からありがたくもない小言を延々と食らった。
 僕は悪くない。悪くないのに……。


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