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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第3章 商国陰謀編

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「そういえば名前を聞いてなかったわね。臨時雇いの警備兵さん。わたしはサーラよ」
「オレはヨーランだ。その臨時雇いってのは、やめてくれ」

「まあいいわ。ここには初めて来たのだけど、どこか面白いところはないからしら」
「近いのは、ナッチャ大聖堂だな。明日の結婚式でも使われる。眺めがいいのは、空中庭園のあるリドリックの橋。ただし、両方とも今はおすすめしない」

「どうして?」
「巡回中に近くを通ったが、人であふれていた。サーラじゃ、人の後頭部を眺めに行くだけだろうぜ」

「むう、それは嫌ね。どこか人がいなくて、眺めがよくて、面白いところないかしら」

「ないな。これっぽっちも思いつかねえ」
「なによ、使えないわね!」

「田舎の農夫に何を期待しているんだ。……そうだな、この先に池があるが、そこの中央に博物館があるぞ。船でしか行けないから、人は多くないだろ」

「船でしか行けない博物館か。面白そうね」

「ただし、池を渡るのに金がかかる。しかもバカ高い」
「それくらい大丈夫よ。行きましょう」

 結局、王女とヨーランは博物館を見て回り、その後も行政庁舎やいまは使われていない旧本殿の宮殿群を見学したり、駆動歩兵が失敗して半壊させた建物や、近代的な集合住宅群、巨大な工場、数十年前にあった内乱終了を記念して建てられた塔、技術の粋を集めて作られた機械式大時計など、目につくものを片っ端から見て回った。

「楽しかったわ」
「そんだけはしゃいだんだ。これで楽しくないなんて言われちゃこっちが堪らない」

「次はどこに行こうかしら」
「もうオレが案内できるところはないな。それより腹が減ったんだが」

「そうね。暗くなってきたし、どこかレストランで食事をしましょうか」
「レストランね……それだけ使って、よく金が持つな」

「たくさん持ってきたもの。さあ、行きましょう」
「酒が出る店がいいかな……どこかあったかな」

 王女とヨーランが道を歩いていると、前方が騒がしい。

「喧嘩みたいね」
「別の道をいくか」

「そうね……あっ、あの子!」

 王女が見つけたのは、幼い少女が男たちに足蹴にされているところだった。
 母親らしき人がかけつけようとするが、残りの男たちに押さえつけられている。

「タチの悪いのがいるな……お、おいっ!」
 王女は駈け出し、少女を抱え上げる。

 少女の身体を触って調べたが、骨が折れた感じではない。無事だ。
 王女はホッとする。すると、理不尽な怒りが持ち上がってきた。

「ちょっと、あなた達! なにしているのよ!」
 怒りの矛先は、少女を蹴りあげた男に向く。

「なんだてめえ!」
 男が王女の腕を取る。酔っているらしく、息が酒臭い。

「おっと、そこまでだ」
 ヨーランがその腕をひねりあげた。

「痛ててて……て、てめえ」
「悪いが先手必勝でいかせてもらうぜ」

 男のみぞおちに膝を入れる。
「ぐえっ!」と声を発した時にはもう、別の男のもとへ走っていった。

 母親を掴んでいる反対の手を蹴りあげる。
「くっ、こいつ!」

 男が向かってくるが、ヨーランの方が体格がいい。

 男は押し合いになっても、ヨーランのバランスを崩すことができなかった。
 反対にヨーランは余裕をもって男の顔に掌底しょうていを打ち付ける。

「やった!」
 王女が声をあげるが、ヨーランはそれには構わず周囲に目を走らせる。
「バカッ、逃げるぞ」

「えっ?」
「いいから来い!」

 ヨーランは少女と母親を両脇に抱えて駈け出した。
 王女は後についていく。

「どうしたのよ」
「あの手のは仲間とつるんでいる場合が多い。いくら祭りの最中だといっても、たった二人だけで気が大きくなったりしない」

 角をいくつか曲がり、無事だと分かると少女と母親を開放した。
 話を聞いてみると、因縁を付けられたので無視したらしい。
 それであんなことになったという。

 ひとしきり礼を言う母子と別れてから、あらためて店を探す。

「ここなんかいいんじゃない?」
「古風なレンガ造りの建物だな」
 ヨーランが呆れた声をあげた。

「反対意見はないわよね」
「反対はしないが、また高そうな店を選んだな」
「わたしが出すから気にしなくていいわよ」

 二人が入ったレストランは、この本拠地でも五指に入るほどの評価を得ている店だった。
 そこで出された食事に、王女もヨーランも大変満足することができた。

 もちろん値段もそれ相応だったので、支払う金額を見てヨーランが目をむいたのだが。



「暗くなってきたわね」
「そうだな。オレは勤務明けで、帰って寝ようと思っていたんだが、さてどうしよう」

「どういうこと?」
「明け方からまた勤務なんだよ。いまから帰って寝たら、起きられそうにもない」

 もうすぐ夜になる。いま警備をしている同郷の者と交代しなければならないとヨーランは言った。

「そう。だったら、警備の人にわたしが言ってあげ……!?」

 王女の足元に大きな石が飛んできた。

「さっきは世話になったな。ずいぶんと探したぜ!」

 母子を助けるときに倒した男がいた。しかも人数が増えている。数は十人以上。
 どこで揃えたのか、だれもがナイフや剣、そして槍までも持っている。

「……まずいな。オレが時間をかせぐから、サーラ、おまえは逃げろ」
「だめよ! 勝てないわ」

「わかってるよ。だからおまえを逃がすんだ」
「ちょっと、ヨーラン」

「時間がない。背を向けて全速力で走れ」

 男たちが包囲しようと動いたので、ヨーランは拳を固めて走りだした。
 敵は全員刃物を持っている。

 訓練を受けたとはいえ、もとは農夫である。
 刃物を持った多数の男たち相手に勝算はまったくない。

「へっ、ばかめ! 喰らえ!」
 一人の男が剣を突き出した……はずが、出した腕が途中で止まった。

「うらぁぁああああ!」
 ヨーランの拳は、男の顔面に炸裂した。

「おいっ、ヒデブ!? どうしたんだ?」
 殴られたヒデブは吹っ飛んで壁に頭を打ち付けて倒れる。

 ヨーランは勢いそのままに、もうひとりに殴りかかる。
 ナイフで迎え撃とうとした男の足がなぜか動かない。

「な、なんだぁ!?」

「おらぁあああ」
「ぶへらぁ!」

「ア、アベシ……おまえもか!?」

 足が縫い付けられたような形で地面に叩きつけられらアベシの身体が痙攣けいれんする。

 その後も、なぜが男たちが急にコケたり、棒立ちになったり、よそ見をしたりする奇妙なことが続き、ヨーランの拳が次々と男たちを打ち倒していく。

「な、なんだ?」
「おかしいぞ、これ」

「に、逃げろ」
「まってくれ、おれも……」

 残った男たちはヨーランを恐れて、逃げ出してしまった。

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