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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第1章 魔国蠢動編

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「よく来たね、レオンくん。久しぶりの王都はどうだい?」

 僕の前でニコニコして座っている、恰幅のいい人はロブさん。
 この『ふわふわブロワール』の主人だ。

「城の北にある操竜場に驚きました。あんなに広いとは」

「学院から来たなら、迂回してきたんだね。我々王都の民も、めったなことでは学院がある方にまで出かけないかな」

「やはりそうでしたか。家もまばらで、王都とは思えないほどですものね」

「どう迂回しても、かなりの距離を歩くから、実はわたしも数回しか行ったことがないんだ」

 なるほど、王都に住んでいる人でもそんな感じなのか。

 ロブさんと初対面の挨拶を済ませたあとは雑談をしているのだけど、僕は目的があって来ていた。
 父さんに頼んだら、自分で話せと言われてしまった内容だ。

「ところで、父さんと母さんはこのお店で出会ったと聞いたんですけど、詳しいことは教えてくれなくて」

「そうなのかい。たしかにきみのご両親は、ウチで働いていたね」
 ロブさんは思い出すように、顎に手を添えてしばし考え込んだ。

「ハルイくんは店員を募集したときに、フラッとやってきて働くようになったんだ。魔国から行商で来たんだけど、商隊が解散しちゃって、帰るアテがなくなったと言っていたな」

 行商というか、暗殺だよな。
 しかも解散って……父さんが潰したんじゃないか。

「その辺のこと、少しだけ聞いたことがあります」

「身元はなぜか城が保証してくれてね……大きな交易商人だったんだなと思ったのを覚えているよ」
「そうですね、城に知り合いもいたようですし」

 知り合いというのは、女王陛下だけど。
 きっとその時はもう〈影〉として働いていたんだろうな。〈影〉はみんな、ほかに仕事を持つようにしているって聞いたし。

「きみのお母さんは、時々手伝いに来ていたんだ。王立学校に通っていて、実家がパン屋だから、私の父と交流があったようだね」

「そうだったんですか。それで出会ったんですね」
「キミのお父さんは器用で、すぐになんでも吸収してね。それを見たお母さんの方が実家に連れ帰った感じかな。もともと国立学校では、経営などを学びたかったらしいし」

 母さんは不器用ではないが、父さんにはまったく及ばないし、あまりパン作りに興味はない。

 かといって、せっかく地元に根ざしたパン屋を潰したくないらしく、父さんにお店を任せて、母さんは店番に徹している。

 父さんと母さんの馴れ初めには、そういう経緯があったのか。
 聞いてみるもんだ。

「それじゃあ店が暇になったら、家族と従業員を紹介しよう」
 ロブさんは、従業員のケールさんとミランダさんを紹介してくれた。

 ケールさんはロブさんと同じく仕込みをしている。
 ただし、パンを次々と焼いていかねばならないので、途中からはずっと火の番をするようだ。

 ミランダさんは仕込み、火の番、店番、配達、帳簿までこなす。
 多彩だと言ったら、逆に専門的なものはなにもできないと言われてしまった。

 器用貧乏なのだろうか。
 話だけなので、本当のところは分からない。

「ミラはさっき会ったよな。ふだんは近所の学校に行っているが、夕方からは店番と配達をやってくれている。17歳だ」
「僕よりひとつ上ですね」

「ああ。その下にクシーノがいる。14歳で、店番をするのが好きらしい。逆にミラはあまり店には出たがらないのだがな」

「そうなんですか?」
「ミラは何度か客と揉めてね。ちょっと勝ち気なんだな。だれに似たのやら」

 そういえば、ついさっきも、やたらと睨まれたような。
 あまり怒らせない方がいいタイプのようだ。

 少しして、ロブさんの奥さんであるファイネさんが戻ってきた。
 娘と交代したのだとか。どっちの娘だろうか。

「いらっしゃい、レオンくん。ハルイさんから聞いているわ。パン屋を継ぐんですって」

「はじめまして。そのつもりだったんですけど……」
 左手の甲を見せる。

「あら、竜紋よね、それ。とすると、王都には……学院へ?」
「そうなんです。人生設計が狂ってしまって、どうしようか悩んでいる最中です」

「王都だとうらやましがられるものだけど、悩んでいるの?」
「パン屋になるつもりでずっといましたので」

「そういうこともあるのね。でも、無理よね」
「そうなんです。できれば竜の学院にいる間だけでも、ここで働かせてもらえないでしょうか」

 僕がここへ来た目的は、『ふわふわブロワール』で働くこと。
 二年間の学院生活で、竜操者になる勉強だけしていたら、息が詰まってしまう。

 やりたいこと、好きなことをするにはどうしたらいいか。
 そう考えて父さんに相談したら、ここでアルバイトすればいいだろうと教えてくれた。

 ただし、自分で話せと。
 父さんの言い分は分かるので、こうやって話したわけだが、唐突過ぎただろうか。

「でも、ここから竜の学院は遠いわよね」
「そうだな。どうするんだ?」

「身体を鍛える必要もありますので。それに実際に来てみて大丈夫だと思えたから、こうして話しています」

「まあ、そうか。それで、何がやりたいんだ?」
「家では仕込みから焼きまでをやっていましたから、できれば同じことをしたいです」

「職人の方か。たしかに仕込みができるんなら願ったり叶ったりだが、キツイぞ」
「物心ついたころから、毎日やってますけど」

「だったら大丈夫か。朝も早いが」
「日の出前に起きないでいる方が難しいですね」

 パン屋の朝は早い。
 なにしろ、みなの朝食に間に合わせるために作るのだから。

「よし、なら無理しないで来ればいい。仕込みが一人増えれば、ずいぶんと楽になる」
「そうね。朝の戦場のような忙しさが少しは緩和されるのは歓迎だわ」

 ロブさんとファイネさんが賛成してくれて、俺はここ『ふわふわブロワール』で働くことが決まった。

「じゃ、さっそく明日からお願いします」
「おう」
「待っているわね」

 王都でもパン屋で働ける。
 これは幸先のいいスタートを切れたのではなかろうか。

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