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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第3章 商国陰謀編

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サーラーヌ王女ならぬサーラと、僕は賑わう町を散策している。

「そういえば、竜迎えの儀には来なかったけど、どうして?」
 外出が好きな王女ならば、竜迎えの儀に来てもおかしくない。

 だが実際は、兄のビルドラード王子が来ていた。

「あれって長ったらしいじゃない」
「そういう理由だったか!」

 たしかに半日くらい、特等席でじっとしている必要がある。
 なるほど、ああいう長い行事は嫌いなのか。

「旗を振っている人が多いわね」
「明日が結婚式だからじゃないかな?」

 ここに集まっているのは兎の氏族の民がほとんどだが、振られている旗の紋章は山羊の氏族のものが多い。

 嫁入りしてくる氏族の旗を振っているんだから、民たちは今回の結婚を心の底から喜んでいるんだろう。

「浮かれているわね。軒下に椅子まで出してお酒を飲んでいるわよ」
「一昨日から、町に酒が振る舞われているって話しているね」

「すれ違いざまに、よく聞き取るわね」
 サーラが感心した声を出した。

 たしかにすれ違う人の会話を盗み聞いたものだ。祝い事なので、各所で酒樽が設置されて、朝から振る舞い酒が行われていると話している。

「民もご相伴に与ることで、一緒にお祝いしているみたいだね。露天も多いし、商業区域はもっと人が多そうだ。そっちには行かないようにしようね」

「ねえ、それいいかしら」

 僕の話を聞かず、サーラが振る舞い酒を受け取った。
 最初から酒かよ!

 この王女。
 なんかもう、すごいな。フリーダム過ぎる。

 サーラーヌ王女は十八歳になられたはずだ。
 酒席も多いだろうし、一杯や二杯くらいは大丈夫だろう。

 と思ったら、連続して一気飲みしていた。なにやってんだか。

「ちょっとなにうぃ、すんのよ!」
「もうろれつが回らないのかよ!」

 酒に弱かったみたいだ。
「大丈夫、頭は働いているわ。先に行きまひょ」
「大丈夫じゃないから、それっ!」

 大通りに出ると、人混みばかりが目につく。
 そんな場所には酒があり、そうでなければ誰かが楽器を奏ていて、恋人たちが肩を寄せ合うか、空いたスペースでステップを踏んでいる。

「ねえ、レオン。あの人たちはなにをやっているの?」
「荷運びだな」

 荷馬車を押している人たちが近くを通過した。

「それは分かっているわよ。でも今日はお祭りでしょ。なんで働いているの?」
「納期が近いのか、身分が低いからか。そんなところじゃないかな」

「だって、みんなでお祝いしているのよ。誰だって遊んでいるじゃない」
「それができない人たちもいるだろ。思った通りに生きるには勇気がいるし、それを押し通すには力がいる」

 僕だってパン屋の夢は諦めたくないが、周囲の環境がそれを許さない。
 好きなことをする、自由に生きるのはだれだって憧れるが、それができる人は限られている。

「ありきたりな返答ね。城の教育係みたいなことを言うわ」
「ならばそれが、経験に裏打ちされた真実だよ。人に言われる前に、人に言えるような人物になってほしいね」

 そういう王女になってほしいという僕の願望も入っている。
 いずれ手に入れるであろう権力をアテにして、今からワガママを言ってほしくないのだ。

「あなたって、お母様が言っていた通りの人だわ」
「どんな?」

「四角い」
 なんだそれは。四角いって別に顔のことじゃないよな。
 たぶん、真面目だといいたいのだろう。あと、融通がきかないとか。

 それは性格だし、言われても困る。それに僕は安定志向なんだ。

「それでは四角い僕からの忠告だけど、その酒盃はこっちに渡してもらえるかな?」

 気をつけていたけど、また貰ったらしい。
 これ以上飲むのもどうかと思うので、僕は取り上げることにした。

「もうあなたはここで良いわ。バイバイ」

 サーラは酒盃をこっちに投げて寄こした。
 中身をこぼさないように受け取る。

 その隙にサーラは、人混みの中に駈け出してしまっていた。

「……やれやれ」

 ここは氏族が住む本拠地だし、出入りはかなり厳重になっている。
 あまり変な人が入り込めるとは思えないので、危険は少ないだろうが放ってもおけない。

 そもそも僕から逃げ出して、あとでどうやって戻るつもりなのだろうか。

「何にも考えてないのかな」
 仕方がないので、僕は追うことにした。

               ◯

 兎の氏族の本拠地内。その中庭。

『……うむ、いいぞ。そこだ…………ああ、お主は筋がよい』

 シャラザードはグルルと唸る。
 周囲の竜がいま、シャラザードに群がって、身繕いを手伝っている。

 飛竜の両足は大地を強く踏みしめ、前足代わりの翼をシャラザードの胴体にこすりつけるようにして汚れを落としているのだ。
 甲斐甲斐しい世話姿である。

『だれか、背中の方を頼む』

 それに呼応するように、飛竜がクエエエといななく。
 すぐに翼をはためかせてシャラザードの背に飛び乗った。

 そして口と牙を使い、器用にシャラザードの背を掻いていく。

『ううむ……気持ちよいな』

 満足げに唸るシャラザードに、竜の世話を仰せつかった技国の使用人たちは呆然とするしかない。


「緊急事態だと聞いたが、何が起こって……って、なんじゃこりゃ!?」

 やってきたドラス隊長は、素っ頓狂な声を上げた。
 それも致し方ない。生まれてはじめて目にする光景だったのだ。

 なにしろ自分たちの竜が一丸となって、黒竜の身繕いをしている。
 前代未聞の事態だった。

「こ、これはどういうことかね?」

 技国で臨時に雇われた使用人にドラスは尋ねるが、彼らは首を横に振るのみであった。
 分かるはずがない。

『よし、ではまた上から順にな』

 ――クエエエエエ

 同意とばかり、飛竜たちが一斉にいななく。
 まるで主人と従僕である。

「………………」
 ドラスは、その様子をただ見つめるしかできなかった。



 そのことをレオンは……もちろん知らない。

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