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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第3章 商国陰謀編

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「……ふむ。ずいぶんと警戒されたものだな」

 レオンが席を立ったあと、ハリムはすぐに温かみのある表情を消した。
 酷薄そうな顔を歪め、卓の上に置き去りにされた小箱を、胸元にしまう。

「ご主人様」
「ニウスか。どうだった」

 今まで微動だにしなかった秘書のニウスが、ハリムの耳元でささやく。

「あれはかなり殺っています」
「ほう?」

 ハリムの雰囲気が少しだけ変わった。

「右手の筋肉が無意識に動いていました。不意をついたとしても、避けられたでしょう。考えるよりも早く動ける者によくある特徴です」

「ただのパン屋の息子ではないのか?」
「さて、そのへんは分かりかねますが」

「どのくらいだ」
「さすがに……負けないとは思いますが、ご主人様を守りながらですと厳しいかもしれません」

「それほどか。なんとも解せん話だな」
のろばりを打ち込みましょうか?」

「……いや、いまの時点で失敗はしたくない。そのままで」
「かしこまりました」

「しかし厄介だな。あれは職人気質だ。金では転ばんし、義理人情を大事にする。取り込むには、苦労させられそうだ。まあいい、様子をみよう。あの国はおっかないからな」

「かしこまりました。不用意に接触しないように致します」

「しかし、黒竜か。計画に支障がでなければいいが」

 ハリムが立ち上がると、護衛の面々がサッと周囲に視線を走らせる。
「……問題ないようです」
「よし、では次代の氏族に知己を得にいくか」

 ハリムの言葉に、ニウスは恭しく頭をさげた。
               ○

 商国のハリム会頭と会った翌日、僕は朝から襲撃を受けていた。
 緊急事態である。

「……えっと、困るんですけど」
「大丈夫よ」

「なにが大丈夫なんですか」
「私が言うんだから、大丈夫なのよ」
「………………」

 さっきから堂々巡りだ。

 僕はいま、サーラーヌ王女からお忍びで町の探検に行こうと誘われている。
 誘われて? 命令されてだ。

 かりにも王女が「町に抜け出すわよ」と言いにきたのだ。世も末である。

 明日は結婚式ですよと言うと、「だから今日行くんじゃない」と言われた。
 そういうことを言いたかったのではないのだが。

「外交とか交渉の仕事がありますよね」
「昨日全員と会ったから大丈夫よ」

 この王女、やたらと仕事ができる。
 本当に外交関連でやり残したことがないのだろう。

「町中は危険ですよ」
「お母様から聞いたわ。連れてきた五人の護衛を合わせても、あなたの方が強いでしょ」
「それはそうですが……」

 バレている。
 飛竜で編隊を組んだとき、同乗している中で見目の良い人たちがいるなと思ったら、王女の護衛だと言われた。
 この王女、護衛を顔重視で選んでいないか? さすがにそれはないだろうけど、腕の方は心もとなそうだった。

「ねえ、あなたも町に行きたいでしょ?」
「それはそうですけど」

「ならいいじゃない。どうせ今日一日はすることないんだから」
 なんか押し問答するのが面倒くさくなってきた。

「王女が消えたら、周囲は騒ぐんじゃないですか?」
「いつものことだから平気よ」

 平気なのかよ! それといつものことかよ!

「……ハァ、もういいですよ。行きましょう」
 たぶん、この王女は折れない。

 これ以上相手をするのは面倒くさい。
 僕は王女と出かけることにした。



 兎の氏族の本拠地へは、すでに二回も忍び込んでいる。
 入り方が分かるくらいだ、出るのはもっと簡単だ。

 いまは日中とはいえ、脱出する方法はある。
 本拠地にはちゃんと地下水路が完備されていた。

「では、しゃがんでください」
「なんで?」

 自分以外の者を闇の中に取り込むのは、僕の魔道はやや不便だ。

 王女くらいの背丈だと、へその上あたりまでしか闇に溶けない。
 そのため、しゃがんでもらう必要がある。

「外に出たくないのでしたら、別にそれでもいいですが」
「……仕方ないわね。やらなきゃ駄目なんでしょ?」
「お願いします」

 王女はその場でしゃがんでひざを抱えた。
「これでいいの?」
「ええ、では行きますよ」

 僕は王女と一緒に闇に溶けた。

 他人を闇の中に入れて運んだことはほとんどない。
 どのくらいまで物が入るか何度も実験したし、生き物ならば小動物を入れて運んだことがある。

 それで分かったが、闇の中で人を運ぶのは難しい。

 地下水路を抜けて、本拠地の外へでる。
 地上の様子が分からないので、何度か顔を出し、ようやく人目に付かない場所を見つけた。

「あなたに抱き寄せられているようで気持ち悪かったわ」

 王女は肩のホコリを払う仕草をした。ひどい言いようである。
 まあ、僕に対する当て付けだろうけど。

 今回使ったのは、『闇落とし』と『闇渡り』だ。
 それで一緒に運ぶには、僕が王女を抱えている必要がある。

 王女はそれを敏感に感じ取ったのだろう。
 それより、本当に来てしまった。ここはもう町の中だ。

「それで今回はお忍びなんですよね」
「そうよ。だから、『王女』という肩書きは使わないでね」
「……はあ、別にそれでいいですよ」

「なんかやる気がなさそうな返事ね」
「そりゃそうでしょう。……それより、僕から離れないでよ」
 ちなみにサーラーヌ王女から「町に出たら、敬語を絶対に使うな」と言われている。

「なんでよ。ひとりでも大丈夫だわ」
「それはだめ、なんでもサーラの思い通りにはいかないさ。多少不便でも従ってもらうよ」
 砕けた口調で僕はそう言った。これでいいはずである。

「ふうん、まあいいわ。じゃあ、行きましょう」
 王女、いやサーラは人混みに向かって駈け出した。


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