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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第3章 商国陰謀編

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 相手は商国の会頭だ。
 僕の取り出したパン職人三級の免状の効果や、どのくらい取得するのが難しいかよく分かっている。

 若いうちから努力し、才能と運があれば僕の歳でも取れるだろう。

 僕は学院に通っている身だ。
 今回、国をまたいで免状を取得しにいったことも驚きだろうし、僕の意気込みも伝わったと思う。

 ハリム会頭は、取り込もうとした相手の夢を「冗談」と一笑いっしょうしたのだ。
 これは挽回できない失策だ。

 このあとどう出てくるのか、僕は興味があった。

「それは大変失礼致しました。ご無礼、お許しください」
 なるほど、さすが会頭。下げる頭はあるみたいだ。

「いえいえ、他人に話したら笑われるのは承知しています。ただ……そうですね。物心ついたときからもう家の仕事を手伝っていたのです。王都の学院に通っている時も、こっそりパン屋でアルバイトしていましてね。人が見てどう思うかは充分承知しているのですが、パン職人になるのが当たり前だと思っていた自分がいるのです。その思いはなかなか変えられません」

「大変ご立派な夢をお持ちだと考えます」
「先のない夢です」

 もうこの話は充分だと匂わせてみた。
 ハリム会頭は正しく意味を理解したようで、無言で頭を下げた。

 その後は将来にかんする話題を避けて、当たり障りのない会話が続いた。
 僕のことを調べたようだが、期日が少なかったからだろう。
 脇が甘い調査だと思えた。

 そろそろこの人との会話も面倒くさくなってきた。
 もうはっきりと分かる。最初から最後まで演技をしているのだ。

 目的は別にあって会話は大きく迂回している。ずっとそんな感じだ。
 はっきり言って僕は、この人が好きじゃない。

 愛想がそろそろ底をつきそうだ。

「いやはや、とても楽しい時間でした」
 僕がそろそろ席を立とうかと思ったころ、ハリム会頭がそんなことを言った。

「いえ、僕も大変有意義な時間が過ごせました」
 嘘は言っていない。
 この人とは合わないことが分かったのが大きな収穫だ。

「どうでしょうか、レオン殿。今日の出会いの記念に、私からささやかな贈り物をしたいのですが」

 ハリム会頭が服の内側から、葉巻ケースくらいの大きさの箱を取り出した。

 瞬間僕は驚いた。
 服の内側に魔道結界が張ってあったからだ。ハリム会頭の身体を覆うようにしてだ。
 そばに居て、まったく気づかなかった。

 商国の会頭ともなると、こんなにも隠蔽性に富んだ魔道結界を用意できるのか。
 箱を取り出したとき結界が少し揺れたので気づいたが、そうでなかったら、知らずに別れるところだった。

「中身は気にしないでください。今回、たまたま手に入ったものですが、あいにく私には子供がいませんので」

 僕の動きがおかしかったのを、贈り物を見て動揺したと考えたらしい。

 箱の中には三本の小瓶が入っていた。
 すべて中身が虹色に輝いている。

 虹の花の汁だ。これを適性がある者が飲むと、魔道が使えるようになる。
 魔道を使えるといってもその確率はかなり低く、よほど裕福な人以外は、なかなか飲んだりしないらしい。

 効果が出るのは、少年期から青年期のはじめくらいまで。
 二十歳を越えると、適性があっても無理だと言われている。

 虹の花の汁はかなり高価だが、魔国で普通に販売している。

 ものとしては希少過ぎず、また後に残らないため、贈り物に都合がよいと考えたのだろう。
 残念ながら、僕はもう飲んでいる。

「こんな貴重なものを……」
 遠慮する振りをして、ハリムさんにかかっている魔道を解析してみた。

 うん、見えた。

 隠蔽は超一級品だったが、その他の魔道に関しては普通のようだ。
 物理攻撃を弾く効果がついている。

「これは魔道を使えるようになるかもしれない触媒でして、混ぜものがあると、こうやって綺麗な虹色ができません。そして、飲んで魔道が使えるようになるのは十代まで。確率はかなり低いですが、試しにどうですか?」

 僕が魔道を使えるのを知らないということは、僕が女王陛下の〈影〉であることを知らない。
 もちろん教えることはしない。

「ありがたいお申し出ですが、学院の規則で、高価なものは受け取れないのです」
 規則で贈り物でがんじがらめになるのを防ぐ措置がなされている。

「なに、飲んでしまえば分かりませんよ。レオン殿はまだ十六歳ときいております。充分その資格があります」

「いえ、本当に。もうすぐ僕は二回生となって、下の者に規則を守らせる立場になります。その者が進んで規則を破るわけにはいきません」

 まあ、いらないんだけど。
 それにこれ、期日制限があって、作ってから何日間かで効果が消えるんだよな。

 虹の花は、天蓋山脈を越えたところに咲く大樹だと言われている。
 それにつけた実を鳥が食べて、フンとして天蓋山脈の中でも魔国に近い辺りで落とす。

 それが芽吹き、花を咲かせたところを収穫するのだ。

 芽吹いたあとできるのは花のみで、大樹はできない。
 花は実をつけるが、種を出さないので量産ができないのだ。
 ちなみに飲むとすごく苦い。

 山岳地方に住む部族がこの虹の花を探して天蓋山脈を歩くのだという。
 何度か押し問答したが、結局はハリムさんが折れて、その贈り物を受け取らないで済んだ。

「また何か協力できることがありましたら、遠慮無く仰ってください」
「そのときはぜひ」

 僕はハリム会頭と別れ、席を立った。

 ずっとそばに控えていた秘書らしき人は最後まで表情を変えなかった。


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