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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第3章 商国陰謀編

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 テラスに行くと、お茶の用意がされていた。
 カップからゆげが立ち上っている。淹れたてだ。
 演出? ちょっとわざとらしいな。

 先に人をやって準備させていたのは分かる。その意図はなんだろう。
 五会頭のひとりがわざわざこうやって配慮したことで、僕が感激すると思ったのかな。
 よく分からない。

「レオン殿、こちらへ」
「ありがとうございます」

 奥を譲ってくれた。面倒だな、このひと。

 僕はハリムさんを観察した。
 相変わらず動作に隙がない。

 この人は西の都のトップのひとりだ。
 そんな人が僕に用事があると言うのならば、目的は決まっている。

 ――シャラザードのことだ。

 僕が腰掛けるのを見届けてから、ハリムさんも腰を下ろす。
 座る姿もサマになっている。

 指先ひとつまで神経がかよっている感じだ。
 無意識にできるまで練習したような雰囲気がする。

 やはり役者っぽいな。

 僕とハリムさんが向かい合わせに座り、周囲を護衛が囲む。
 いかつい顔をした何人かが、テラスの外側を向いて立った。

 ハリムさんのとなりには、細目の男性が付く。
 秘書のようだ。大きめのかばんを膝のあたりで両手で持ち、そっと佇む。

「レオン殿は、ソールの町の出身だとか」
「ええ、父があの町でパン屋をしています」

「そうですか。パンは人にとって欠かせないもの。お父様は良い職を選んだと思いますよ」
「ありがとうございます。尊敬できる父です」

「なかなかそう言える若者はおりません。あやかりたいですな」
 ハリムさんは声を上げて笑った。その姿も美しい。

「いえ、僕はそんな大した人間じゃありません」

「そんなことないと思いますよ。そういえば、パトロンになったご令嬢は幼なじみだとか」
「リンダですね。ええ、小さい頃に別れたんですけど、意外なところで再会しまして」

 僕は促されるまま、リンダと会ったこと。
 月一度の会食を重ねたことを話した。

 アンさんやロザーナさんのことは話さない。
 今度は少しこっちから聞いてみようかと思ったので、僕が質問する。

「ハリムさんは、商国を代表される方だと思いましたが、商いはなにをなさっているのですか?」

「私ですか? 小さな商いですよ。蜂蜜を卸しております。『華蜜はなみつ』というのは、私の商号しょうごうでしてね」

「商号? ちょっと聞いたことがないですが、それはなんですか?」

「商号は商人仲間でしか使いませんからね。商売をしている人を的確に表した呼び名と言えばいいでしょうか。名前や家名だと直接すぎて困ることがありますでしょう。私のところのだれそれと言いにくいとか」

 なるほど。『華蜜』というのは、ハリム会頭を表していると同時にその商いの内容、もしくはそこで働く人たちも入るのかもしれない。

「なんとなくですが、分かりました。商人にとって便利な呼び名なのですね」
「おお、理解が早い。その通りです」

 確信した。この人は僕のことを知りたがっている気がする。
 どんな話題に反応するのか、好きなものはなんなのか。

 しかも僕のことを調べてきている。
 少なくとも調査はしたのだと思う。

「レオン殿は将来において、どのような展望を持っているのでしょう」
 雑談が続いたあとで、ハリムさんが切り込んできた。

 僕の将来のことを聞くふりをしているが、実は違う。
 いや違わないが、目的は真逆にある。

 叶えられそうな夢を話せば潰す。そのほうがやりやすいからだ。
 逆に、どうあがいても実現できなさそうならば、協力を申し出てくる。夢が実現できそうと錯覚させるのだ。

 ここまで話してみて、目的が分かった。
 シャラザードで間違いない。
 実に六年ぶりに現れた属性竜。

 しかも、竜迎えの儀にいたのならば、シャラザードが他の竜、中型竜までも従えさせたのを見ただろう。

 シャラザードが喉から手が出るほど欲しいのだ。
 だから直接、会頭みずから接触してきた。

 会話から僕やリンダのことまで調べてあるのは分かった。
 さて、それ以上だと、どこまで知られているのか。

「将来の展望ですか。実は小さな頃からどうしても実現したい夢があるのです」
「ほう、どういったものです?」

 うん、食いついてきた。

「どこか辺境の町でいいのですが、父さんと同じパン屋を経営することです」
 ハリム会頭の身体がカクっと傾いた。意外だったらしい。

「そ、それはまた斬新な夢ですね」

 ハハハと取り繕ったが、忙しく頭を働かせているのが分かった。
 冗談か、牽制か。
 僕が不審に思って、カマをかけているのか疑ったのだろう。

「パンを焼くと落ち着くんですよね。このまま一生こうやって暮らせたらどんなに幸せか、つい夢想してしまいます」
 続いてその理由も話す。

「……レオン殿は冗談がお上手ですな」

 いくつかの可能性を計算していまの話、冗談と受けとったようだ。
 常識的に考えれば、属性竜を得た竜操者に夢を聞いて、「パン屋になりたい」なんて答えが返ってくるはずがないもんな。

「いえいえ、冗談じゃないですよ。夏に学院の長期休みがありまして、王都から技国に赴いて免状を取得したくらいですし」

 僕は懐から、パン職人の三級免状を取り出した。

 今回もしかしたら、町のパン屋でちょっとだけでも働かせもらえるかもしれないと思って、持ってきたのだ。

 免状には発行の年月日が書いてある。間違いなく、昨年の八月に取ったものだ。
 ハリム会頭は僕の免状をまじまじと見て、失策を悟ったようだった。


 その完璧な仮面が、はじめて崩れたように見えた。


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