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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第3章 商国陰謀編

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「わたくしの両親も政略結婚でした。ですが、いまは羨ましいほどに仲睦まじいのです」
「それはよかったですね」

「はい。わたくしたちもそうなれると信じています。わたくしたち、仲良くやっていけますね」
 アンさんが僕の両手を握った。

「わたくしは思います。いまは形だけかもしれませんが、レオンくんとなら仲の良い夫婦になれそうだと」
「そ、そうですね」

「ともに夫婦の道を歩んでいきましょう!」

「良かったですね、アンネロッタさま」
「本当に、良い人に巡り会えて」

 僕が返事をする前にお付の人たちが一斉に騒ぎ始めた。
 手を取り合ってアンさんと一緒に喜び、涙ぐんでいる。

 これは何だろう。僕の思っていたのと違う。
 この違いは……温度差。そう、温度差だ。

 アンさんとお付の人たちは無邪気に喜んでいるが、ことはそう単純ではない。
 障害があるのだ。それを無視している?

 たとえば分かりやすい障害。
 アンさんはこれから氏族に連なる者たちを説得しなければならないし、僕だって父さんと母さんや……女王陛下にも話を通さねばならない。

 それにリンダ。
 リンダとは幼なじみだ。小さい頃とここ一年のリンダしか知らないが、彼女は裏表のないタイプだと思っている。

 アンさんと話が付いているならば、本当についているだろう。
 だけど、リンダはパトロンだ。無視もできない。

 単純に喜べばいい話ではない。
 だれに反対されるか分からないし、パトロンとの間に亀裂が入ったら、それこそ目も当てられない。
 そう思って聞いてみた。

「リンダさんでしたら、これから南方の開発に力を入れたいと言っておりましたわ」
「商売か!」

 リンダの家は木材を扱っているかなり大きな商会だ。
 いまは北方にある良質な木を家具などにして領主や貴族、上流階級に売り込んでいる。

 王都から北方に強いが、南方には商売の足がかりがないと聞いたことがある。
 そこでこれか。

 たくましいな、リンダ。
 というかアンさんのこと、そこまで見越していたとか?
 そうだったら僕はもう脱帽するしかない。

 いやそれより、言ってもいいだろうか。
 僕の知らないところで、また僕の人生が決まっていたよ!




 アンさんと結婚する。
 もちろん将来の話であるし、そもそも兎の氏族内で合意されなければ実現しない。
 だが、すでに氏族長が認めていることが大きい。

 僕はディオン氏族長の顔を思い浮かべる。

「あの人、海千山千のやり手なんだよなぁ」
 武力だけでなく、洞察力にも優れている。

 タイミングもあっただろうが、僕が黒衣の男だと気づいているフシがある。
 それを加味して、孫娘を嫁に出す意図はなんだろうか。

「孫可愛さだけじゃない」

 いくらアンさんが望んだと言っても、ディオン氏族長はそういうタイプではない。
 結婚を認めたのは、実利があればこそだ。

「中型竜以上ねえ」

 婿を迎えて一族をもり立てるか、他の氏族のもとへ嫁に出し、結束を深めるか。
 氏族長は、同等かそれ以上の利益が中型竜にあると判断したことになる。

 それともうひとつ。
 女王陛下が条件付きで許可したのは、どういう理由だろう。

 政治的判断を下したように思えるが、僕は政治と無縁の生活をしてきた。
 今後も関わるつもりはない。

 つまり、アンさんが嫁に来たとしても、僕は政治的に重要なカードになり得ないと思うのだが。

「……いや、忠義の軍団(ロイヤル・レギオン)か!」

 大転移を数年後にひかえて、技国との関係強化できる。それにアンさんの夫として、僕を表舞台に引っ張り出そうとしていないか?

 女王陛下の〈影〉には、側仕えのような者もいれば、市井の者もいる。
 足らないのは、便利に使える高位の者だ。

 今回の結婚式もそう。こういう表の行事に出席できる人材で、なおかつ〈影〉働きができると、その使い勝手は格段に増す。

『竜操者であり〈影〉』だけでなく、『技国とのパイプ役であり〈影〉』という役割を僕に与えたいのではなかろうか。

 青竜を駆るソウラン操者の名を出すまでもなく、竜が強ければ強いほど竜国内で発言力が増してくる。

 極端な人事や強引な引き上げがあったとしても、特別な竜を得ているならばさもありなんと非難は少ない。

 僕が出世すれば、兎の氏族との軋轢もほぼなくなる。
 なにしろ、特別な竜を持ち、本人も竜国内で地位を得ているのだから。

 加えて軍事的な問題。
「もし、この前の内乱のとき、どちらかの氏族に中型竜がいたとすると……」

 竜のタフさは人を上回る。
 つまり人さえ無事なら、何時間でも戦場を暴れ回れる。

 駆動歩兵と中型竜が戦った場合、中型竜の圧勝となる。
 ただし一対多数の戦いでは、緊張を強いられる竜操者の方が参ってしまう。

 戦場に出ていられるのは四、五時間ってところか。

 一瞬も気を抜けない戦いの只中で、つねに命令を下していないといけない立場ならば、そのくらいが限界だろう。

 戦場にいられる時間は、駆動歩兵と同じくらいか。
 だが戦えば無双できる。
 つまり中型竜一頭でもこのまえの規模の戦いならば、戦局を変えることができた。

「その辺が理由かな」
 氏族長が『中型竜以上』と条件を出したのは。

 だが、これには唯一大きな欠点がある。
 それは、僕の気持ちが反映されてないことだ。

 ――どうやったら、静かに暮らせるんだ?

 それは解けないパズルのように、僕には思えた。

『主よ、そろそろ再開してくれ』

 そんなことを考えていると、シャラザードが身体の汚れを落とすよう催促してきた。
「ああ、ごめん。忘れていたよ」

 考えに没頭していたら、アンさんたちもいつの間にか去っていた。
 忙しいはずなので、それはしょうがない。

 僕が一心不乱にブラシをこすっていると、いつのまにかシャラザードは気持ちよさそうにいびきをかいていた。

「……まったく、人の気も知らないで」

 シャラザードは竜だ。人の機微に精通するわけがなかった。

               ○

 兎の氏族領にやってきた竜国の使者たちは、それぞれが重要な会合に顔をだしている。
 こういう機会でないと、できない話もあるのだ。

 それはサーラーヌ王女とて例外ではない。
 護衛の竜操者とともに、氏族のお偉いさんたちと会談している。

 僕は暇なので、シャラザードと空の散歩に出かけようとしたら、周囲に泣いて止められた。
 いわく、巨大な竜は住民に最大限の恐怖を与えるらしい。

「いま町に御布令おふれを出している途中ですので、本当にお願いします」
 そう懇願された。

 これを伝えに来た人たちはマジ泣きしていた。

 王女を乗せていたこともあり、普通に本拠地の中まで来てしまったが、後から来た飛竜の編隊は、姿を見せないよう、かなり上空から気を使ってやって来ていた。

 先に言ってくれれば配慮したのだが、シャラザードの姿を近くで見せすぎたようだ。

 町並みが見たかったので「ちょっと低いかな?」という高度で侵入した僕が全面的に悪い。

 シャラザードの全長は、尻尾の先まで含めると三百メートル近くある。
 この世の終わりが来たのかと、絶望したご老人方が多数出たらしい。

 本当にごめんなさい。

 僕も住民を驚かすのは本意ではないので、大人しく従っておく。
 するとどうしてもやることがない。

 アンさんも忙しそうだ。
 次々とやってくる使者の応対にかりだされている。
 僕の相手をする時間はないだろう。

 そうでなくても、どんな顔をして会えばいいのか分からない。
 なんとなく気まずい。

「さて、どうしようかな」

 ブラブラと、手入れがされた庭園を歩いていると、向こうから一人の紳士がやってきた。
 それはまさに紳士としか表現できない。

 仕立ての良い服をビシっと着こなし、所作しょさも洗練されている。
 歳はまだ三十手前のようにみえる。

「失礼、竜国のレオン殿ですかな」
「そうですけど」

 この紳士は僕に用事があるようだ。ここに到着したときに僕は名乗った。
 顔と名前を知っていることから、兎の氏族の関係者だろうか。

「はじめまして、レオン殿。私は西の都五会頭のひとり、『華蜜はなみつ』のハリムと申します」
 ハリムと名乗った紳士は、気障ったらしく帽子を取って会釈した。

 技国の人かと思ったら、商国の人だった。
 五会頭って……父さんが避けた方がいいと言っていた人じゃんか。

「はじめまして……どうして僕の顔を?」

 ここに着いたのは僕よりも後だったはずだ。
 だれかに聞かなければ、僕の顔は分からない。

「先日、お見かけしました。こう見えても、記憶力は良いほうですので」

 先日というのが分からない。
 僕の行動範囲は限られているし、町に出ることはあっても、顔と名前を覚えられるはずもない。ということは……。

「竜迎えの儀を見に来られたのですか?」
「はい。たまたま近くまで来ておりましたので」

 そういうことか。
 それで僕の顔と名前を……って今日は一月十三日。
 竜迎えの儀があったのは一月七日だ。

 竜迎えの儀を見てから馬車でこっちに向かったとしても、今頃はソールの町に着いている頃だ。
 ということは、この人も竜に乗って移動したことになる。

「あのときはお恥ずかしいところをお見せしました」

 竜迎えの儀でシャラザードが勝手に振る舞った様は、あまり思い出したくない。
 あとであちこちに謝罪に行ったのだ。

「なかなか素晴らしい、そして得難いものを見せていただきました」

 このハリムという人。急に声の張りが良くなった。
 感情が声に乗っているというか、興奮している?

「僕のは、ハリム会頭が乗られる竜にくらべて、やんちゃが過ぎるようです」

「ただ、ハリムとお呼びください」
「ではハリムさんでは?」
「それで結構です」

 商人は下手に出て、相手をいい気分にさせるのがうまい。
 逆にこちらがへりくだると警戒するので、僕の呼び名はそのままにさせた。

「ハリムさんは……早い到着ですね。みな明日か明後日の朝に合わせて来るようなことを聞いておりましたが」

「ええ、実はそのつもりでしたが、王都を飛び立つ黒竜の姿を見かけましてね、つい追ってしまったのですよ」

 僕が編隊の先頭で飛翔したあれか。
 たしかに、目立っただろう。

 ということは、このハリムさん。
 僕を追いかけて……というか僕に用事があって、一日早くやってきたことになる。

 僕は改めてハリムさんを見た。

 隙のない人だ。
 商人というより、俳優を思わせる。

 怖そうな雰囲気がないので軍人には見えないが、それでもどこか不気味さをかもし出している。

「どうです、せっかく庭園にいるのですから、少しテラスでお話でも」

 いろいろ考えているうちに、ハリムさんが誘ってきた。
「ええ、退屈していましたので、いいですよ」

 僕はその言葉に乗ってみることにした。
 さあて、何が出てくるのか。

次話はハリム会頭と対決です。

それと活動報告に、書籍版『星をひとつ』新1巻の表紙情報を載せました。
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