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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第3章 商国陰謀編

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 アンさんが抱きついてきた!?
 しかも目に涙を溜めて。
 何が起きたんだ?

「ちょっ、ちょっと、どうしたんです?」

 アンさんは僕を強く抱きしめ続ける。
 お付の人がそろそろ剥がしにかかるんじゃなかろうか。

 チラッと見ると、お付の人も涙ぐんでいた。あれ?
 しかも「良かったですわね」とか呟いているし。

 何なんだ? だれかこの状況を説明してくれ。



 とにかくこのままではマズイので、離れてもらった。
 シャラザードがいるからここは目立つし、そもそも屋外だ。
 だれかに見られていないだろうか。

 サーラーヌ王女といい、アンさんといい、高貴な血を引いている人たちは、僕とは考え方が違うのか?

「落ち着きましたか、アンさん?」
「は、はい。申し訳ありません。ここまで走ってくるうちに感極まって……」

 またアンさんが涙ぐんだ。
 嗚咽おえつこらえているんだけど、本当に大丈夫だろうか。

「あの……?」
「すみません、もう大丈夫です。おそらくですけど……」

 アンさんは鼻をすすり上げて、うるんだ瞳で僕をまっすぐ見た。

「このたびは兄の結婚式にご足労いただきまして、誠にありがとうございます。ラゴス家を代表いたしまして、お礼申しますわ」

「ご招待ありがとうございます。アンさんに会えると思って、駆けつけてきました」
「まあ」
 アンさんの顔がほころんだ。

あるじよ、いつまで我を放っておくのだ?』
「ああ、悪い。ブラシの途中だったな」

 僕は、ふたたびブラシを手に取った。
 シャラザードの汚れを落としていた途中だったのだ。
 巨体すぎて、長いブラシでもほとんど届かないのだけど。

『違うわ!』
 身体を擦ろうとしたら、否定された。

「じゃあ、なんだよ」
『その者を我に紹介せい。主の大事な人なのだろう』
「ああ、なるほど」

 そっちか。

「あの、レオンくん。その竜ですけど」
「すみません、紹介がまだでしたね。ついこの前、僕が竜迎えの儀で得たシャラザードです。特殊竜の中の属性竜になるみたいです」

『見知りおき願おう』
 シャラザードが唸った。

 アンさん含めて、お付の人たちが数歩下がる。
 僕以外にはシャラザードの言葉は唸り声にしか聞こえない。

「大丈夫ですよ。いまのはシャラザードの挨拶です。よろしくって言っただけです」
「そうですか。アンネロッタ・ラゴスといいます。よろしくね、シャラザードさん」

 アンさんは礼儀正しくシャラザードに頭を下げた。
『うむ。なかなか礼儀をわきまえておるな』

「おまえ、偉そうだぞ」
 満足気に唸ったシャラザードに、僕は突っ込んだ。

 アンさんは僕とシャラザードのやりとりが珍しいのか、ひとしきり目を見張っていたあと、クスクスと笑いはじめた。

 兎の氏族から派遣された人も竜迎えの儀を見ていただろうけど、その情報はまだここには届かない。
 馬車を急いで走らせてもソールの町を抜けたかどうかくらいだ。

「それで、さっきのはどうしたんですか? いつものアンさんらしくないというか」
 昨年末あたりから、アンさんの様子が変だった。それに同調するようにリンダも。

「そうですわね。レオンくんにはお話しできなかったことがあります。そして、今ならば言えるかと思います」
「はい?」

 アンさんの顔が引き締まった。決意した何かを告げる。そんな表情だ。
 お付きのひとが、生唾を飲んだ音が聞こえた。なぜ生唾?

 アンさんの表情はまるで、戦場で総攻撃を告げる将軍のようだ。
 これから何を言い出すつもりだろう。

「兄の結婚で山羊の氏族と同盟を結びます。すでに詳細な部分まで、確認が終わっています」
「はい」

 今回の結婚は、新たな同盟締結のためだ。
 それは何度も聞いたので知っている。

「昨年は大山猫の氏族との抗争がありましたが、運良く勝つことができました」
「はい。アンさんが無事で良かったと思います」

「今年の技術競技会では、兎の氏族が序列一位となるでしょう。いまから準備をすれば、ほぼ間違いないと思います」

「大変よいことだと思います」
 魔国寄りの大山猫の氏族が一位から転落する。それは竜国にとっても良いことだ。

「氏族に連なる者の務めは多岐にわたります。序列一位となればそれはもう大変なことでしょう。これまでは祖父と両親が中心になっていましたが、今後は兄も兄嫁も積極的にかかわることでしょう」

 アンさんのお兄さんはまだ勉強中ということで、自分を高めることを優先していたらしい。
 結婚してからは、両親が受け持っていた多くの責務を肩代わりしていくのだという。

「もちろんわたくしもいまだ勉強中の身。将来は兄を補佐し、民が幸福に過ごせるために邁進まいしんしなければなりません」

「立派な考えだと思います」

「ですが、わたくしにはもうひとつの道がありました。兎の氏族のために、他の氏族へ嫁入りに行くことです」

 それは分かる。今回、山羊の氏族から兎の氏族へ嫁入りに来た。これと同じようにアンさんが氏族の発展のためにどこかへ嫁ぐことも、務めのひとつなのだろう。

「兄の婚姻で一番大きな同盟が結ばれますので、その可能性はなくなりましたが」
「なるほど、そうですね」

「ですが、それは別に他の氏族に限ったことではないのです。氏族の発展のためには、他国へ嫁ぐことも視野にあります」

 だがそれはどうだろう。他の国が迎え入れるかどうか。
 兎の氏族と親密なのは竜国だ。

 だが竜国は、おいそれと他国と婚姻を結ぶことはしない。
 どちらかと言えば、他国の影響力を排除しようとするきらいがある。

「ですが、竜国のビルドラード王子はすでに国内に婚約者がいると聞いております」
 アンさんは少し笑ったようだ。苦笑だろうか。

「違いますわ、レオンくん。私が嫁ぐ可能性があるのはたったひとり。それはレオンくんです」

「…………はい? 僕?」
 アンさんは、しっかりと頷いた。

 大事なことなので、もう一度言う。
 アンさんは、しっかり頷いたのだ。しっかりと。


 ……あれ?


各国のイメージなどを

竜国
王政を執っています。
後継者は今のところ王子と王女が有力です。ほかに王族もいますので、跡継ぎには困りませんし、王都が壊滅しても、地方の有力領主をやっている他の王族がすぐにでも王位を宣言することでしょう。
万一王族が壊滅しても、やはり武力を背景としたどこかの領主が王位につくかと思います。
その場合、竜国の名はそのままですが、○○王朝と言う風に呼ばれます。(いまはルクストラ王朝)

魔国
王政で、極端な中央集権体制です。
首都が滅べば魔国は機能しなくなります。そういう意味ではいまの日本に近いです。東京が占領されれば日本全土が占領されたのと同じです。
その分魔国は、魔国王を頂点としてよくまとまっているとも言えます。軍事も政治も一箇所に集中しているので、大規模な運用が可能となっています。(唯一総力戦ができる国でもあります)

技国
各氏族がそれぞれの領土を独自に守っています。
米国の『州』のイメージがあるかもしれませんが、日本の戦国時代がそれに近いと思います。
織田家、武田家、上杉家、北条家みたいな感じで、氏族長は武を持って治めるのが常識となっています。
古代のテマ制なども近いかと思います。将軍が軍事権と行政権を持っているところなど、そういう側面をもっています。

商国
都を中心とした巨大な商業ギルドのような国です。
成り立ちは、技国から離れた商人たちの集団が作った国で、最初は完全に独立していなかったので、藩王国のようなイメージが近いと思います。豪族とか、武装商人の発展形と言えばいいでしょうか。
いまの商国はそれを組織化させて都を頂点として連合自治会のような形を持っています。
商国の一番の財産は人ですから、土地を侵食されても人と物と流通で反撃するような感じです。全員でどこかに移住すれば怖くないという感じです。

以上簡単ですが、各国のイメージでした。
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