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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第3章 商国陰謀編

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 チュリスの町で一泊した翌朝。

 さあ出発しようかという段になって、問題が生じた。
 ドラス隊長は頭を抱えている。他の竜操者も同様だ。

 意味が分かってないのは、どうやら僕だけらしい。

「……?」

 訳が分からず、ぼーっとしている間に、サーラーヌ王女がやってきた。
 昨日は姿を見ただけで、王女とは話をしていない。

 周囲の者がぽっと出の僕を近寄らせたくない感じだったので、その通りにしておいた。
 僕は空気を読むのだ。

 王女は僕の前に立ち、胸を張ってニヤァっと笑った。

「さあ、行くわよ!」

 王女の声が昨日と違う。活き活きとして、やる気がみなぎっている。
 昨日はもっと生気がなかった。

「サーラーヌ殿下、どうか考えなおしを……」

 ドラス隊長が懇願するように頭を下げるが、王女はどこ吹く風で、さっさと僕の横を通り過ぎた。
 僕の後ろにはシャラザードがいる。

「レオン」

 振り返った僕を、大きな瞳で見つめる王女。

 母親譲りの端正な顔に、意思の強そうな瞳。
 そして最高のおもちゃを見つけたような表情。

「……なんでございましょう、王女殿下」

「今日はあれに乗るわ」

 サーラーヌ王女は、シャラザードを指した。



 王女の性格は、どうやら僕が思っていたのとずいぶん違うらしい。
 元気というか、無茶というか、好奇心旺盛というか。

 王宮外の公式行事によく出席するなと思ったが、なんのことはない。
 外が好きなのだ。

 そのため、機会があればそういった職務を進んで引き受けている。
 王宮の目がなくなると、本性を現すらしい。

「気持ちいいわね。もっと速く飛びなさい!」
 僕にしがみついた王女は、耳元でそう叫ぶ。

 すでに他の竜をはるか後方に引き離している。
 いま王女はシャラザードの背中に乗っている。

 ドラス隊長でさえ王女のワガママを阻止できないのだ、僕が逆らえるはずがない。

 飛翔した瞬間に僕の耳を掴み「全速力で飛ばせなさい」と叫んだ王族は初めてではないだろうか。

「絶対に嫌です」そう言ったとしても、聞きはしなかっただろう。両耳を引っ張ったに違いない。
 だからこれは不可抗力なのだ。

 振り返ると、もう飛竜の編隊は見えなくなっていた。

『いい気分だな、主よ』
 上機嫌なのがもうひとりいた。いや、一体か。

「もっと速く飛べって言っているけど、どう?」
『我は構わんぞ。なんなら、我の凄さを見せてやろうぞ』

 ここにもストレスの溜まっているのがいた。王女とシャラザードの相性はいいかもしれない。

「王女も言っていることだし、好きにしていいよ」
『承った!』

 シャラザードは、僕を最初に乗せたときと同じ、曲芸飛行に切り替えた。

 ――ギュウウウウウウンンンン

 ――ヒシャァアアアアアア

 ――ゴォオオオオオオオ

 よく分からない音が耳元で唸りをあげる。
 もう、どこが大地でどこが空なのか分からなくなった。

 半分気を失いかけた僕をあざ笑うかのように、シャラザードは速度をあげた。
 耳元で風を切る音がさらに激しくなる。

『主よ、これが我の力だ!』

「分かった、分かった」
 だからもうやめてくれ。

『そうか、分かってくれたか』
 シャラザードは嬉しそうだ。

「……分かったけど、伝わってないかな。何しろ、それを見せる相手は……ほら」

 サーラーヌ王女は気絶していた。
 それはもういい笑顔のままで。

 王女は気絶する直前まで笑っていられるのだ。
 根性だけはあると思う。

               ○

 結局、他の竜操者を大きく引き離して、兎の氏族の本拠地に着いてしまった。
 編隊の順番とか、一緒に行動することにこだわっていたアレは、一体何だったのだろう。

 シャラザードが降りた場所は、氏族の本殿がある敷地の中だ。
 竜国ならば、王城の庭に相当する。

 ちゃんと竜が降りられるように印が書いてあったので迷うことはなかったが、やってきたのは竜が一体。
 しかも巨大な黒竜である。

 到着を待っていた者たちの驚きは凄かった。
 降りてきたのはまだ若い竜操者と、サーラーヌ王女。

 何事か、途中で襲撃にあったのかと、血相を変えた人たちをよそに、王女は「とても楽しい旅でした」とにこやかに微笑んだ。大物である。ある意味。

 だいぶ遅れて到着した編隊から事情を聞き、王女たっての願いで先行した旨が説明された。

 のん気に空を見ていると、ドラス隊長がやってきて、「あとでこってり絞るからな」と凄まれた。
 僕のせいじゃないのにと言いかけたら、目で黙らされた。
 理不尽だ。

 王女は着替えをしたら兎の氏族との交流が待っている。
 僕は竜の世話をしつつ、ゆっくりできる。

 そう思っていたら、周囲がガヤガヤとしはじめた。

「……なんだ?」

 ここは氏族が住む本殿だ。
 騒ぐような人がいるとは思えないが。

 竜舎代わりに空けてもらった庭の一角でシャラザードの汚れを落としていると、人の話す声が近づいてくる。

「ここですか? ここですね」

 植え込みの反対側で、なにやら聞いたことのある声がした。
 そう思っていると、多くのお付きを連れたアンさんがやってきた。

「アンさん……おひさ」

 お久しぶりです、そう言おうと思ったら、アンさんにいきなり抱きつかれた。

 周囲も驚いている。
 僕も驚いている。

 アンさんはといえば……目に涙をためて、ずっと僕を強く抱きしめるのだった。

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