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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第3章 商国陰謀編

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 結婚式に出席する集団が出発する。

 飛竜の編隊。先頭は僕だ。
 出発前にルートを聞いてみた。

「行きは商国を通らないで、東回りでいく。帰りは北上して商国を抜ける予定だ」

 竜国の真南にアラル山脈が横たわっている。
 東回りだと、商国を経由しないで向かうことになる。

「目的地はチュリスの町ですか」
「そうだ。そこで一泊する感じだな」

 チュリスの町は竜国の最南端にあるが、今から王都を出発すれば、暗くなる前に着く。
 初日は軽めの移動で、疲れを残さないようにするのだろう。

 ちなみにチュリスの町まで行くのに、馬車だと六日かかる。

「途中で三度休憩を入れるが、進路を外れそうならば、その都度修正を入れるから、気を楽にして飛べばいいぞ」

「分かりました。よろしくお願いします」

 学院の授業で地理は頭に入っている。
 目印となる山や湖、街道なども頭に入っているので、よほどのことがない限り、ルートを大きく外れることはないと思う。

 問題は技国に入ってからだが、そこは前回の経験が役に立つ。
 かもめの氏族領を抜け、孔雀くじゃくの氏族領から兎の氏族領へと入っていくルートになるが、アンさんを連れて脱出したときに周囲の確認は済んでいる。なんとかなるだろう。

 ちなみに鴎、孔雀の両氏族には、すでに飛行許可を得ているという。

 竜国から結婚式に参加するための主賓は、サーラーヌ王女だ。
 王女は学院の入学式のときにも、祝辞を述べに来た。

 王女はまだ十八歳だが、こういった公式行事によく出席している。
 立派に王族の務めを果たしていると思う。

 竜国が用意した竜が十六騎。
 それにアンさんから特別に招待された僕をいれた十七騎の竜で技国を目指す。

「レオン操者そうじゃを先頭にする」
 今回の遠征隊長はドラス・イーゲンという竜操者だ。

 ドラス隊長は王宮に住み、女王陛下が氷竜とお散歩に出るときに付いて行くメンバーのひとりらしい。

 中年の竜操者で、軍人らしい厳しい顔つきをしている。

 このドラス隊長の言葉に、他の竜操者たちが頷く。
 事前に話がいっていたのだと思う。

 もともと僕の参加はイレギュラーなので、どこへ入れてもいいのだが、他の竜操者もまさか僕に先頭を任せるとは思わなかっただろう。

 だが、シャラザードの姿を見れば一目瞭然。
 反対者はでなかった。

 もともと先頭は名誉な役ではあるが、それほど重要視されてない。
 何かあった場合、より危険なのは先頭なのだ。

 名誉職だが失っても構わない人材。そんな位置づけらしい。
 開戦を知らせる使者みたいなものかな。よく分からないが。

 編隊の構成は、全十七騎のうち、中央に五騎、左右にそれぞれ六騎ずつ、上から見ると矢印のような形で進む。

 サーラーヌ王女はドラス操者の竜に乗り、中央の三番目になる。

 編隊を組んでの移動中は、他の竜操者と話をすることはできない。
 互いにぶつからないように、かなり距離を取っているからだ。



あるじよ、退屈だな』
 飛行をはじめて数時間。シャラザードが暇を持て余しはじめた。

 月魔獣、シャラザードに言わせるとゾックだが、それを狩るために自分はいるのだと言って聞かない。

 困ったもので、目を離すと陰月いんげつみちへ勝手に行こうとする。

「そのうち嫌になるくらい狩れるから」

 大転移だいてんいまで待てとは言わないが、陰月の路に行けばそれこそ好きなだけ狩ることができるし、人々から感謝されるだろう。

『まあいい。必ずだぞ。……しかし、この前のあれは旨かったな』

 旨かったとは牛のことだろう。
 ペロッと一頭たいらげて、おかわりを要求したやつだ。

 もっとくれないと暴れると言って鳴きはじめたのだ。
 あの時、竜舎の人は盛大に汗を流し、「確認してきます」と全速力で上司のところへ向かった。

 現場判断で二頭目の牛が与えられたが、毎回これだと餌代がどうなってしまうのか心配したので、シャラザードに聞いてみた。

『まあ、主がそう言うなら、次から一頭で我慢してやってもよい。だが、五日ごとに食わねば、身体がもたんな』

 とんでもないことを言い出した。
 五日に一頭は厳しい。

 小型竜で、三十日に一頭だ。
 中型竜ですら、七日に一頭である。

 大型竜が四日に一頭なので、それよりはマシかもしれないが。
 リンダの実家は、大丈夫だろうか。

 あとで真面目に相談してみよう。



 僕にとっては初めての長距離飛行だったが、問題なくチュリスの町に到着した。
 竜は空を飛ぶだけのことはあって、方向感覚は抜群だ。
 一度決めた方角をずれずに真っ直ぐ飛んでくれる。

 今回の飛行だが、隊長であるドラス操者に、められた。
 とても竜を得たばかりの腕にはみえないと。

 それはそうだろうなと思う。
 なにしろ、僕じゃなくシャラザード自身の判断で飛んでいるのだから。

 シャラザードは部下が持てたことを喜び、編隊の先頭で編隊を管理をしつつ飛んでいた。
 厳密では部下ではないのだが、僕は黙っておいた。

 どうやら、飛竜とは言っても、速度や高度、持久力など、それぞれ得意なものが違うらしく、飛行中に遅れたり、航路がブレたりする竜がいるようだ。
 それをシャラザードがすぐに気づいて微調整していた。

 なかなかに芸達者な黒竜である。

『昔を思い出すな。数万の編隊でゾックどもを根絶やしに向かったものだ』

 シャラザードは時々、そういった昔話を語ることがある。

 数万の編隊を率いてのあたりで、法螺だと分かる。
 だが僕は優しいので、その辺はあえて突っ込まない。

 シャラザードはよく、竜と竜操者、そしてふたつの月に関する物語を僕に語る。
 僕らが生まれるずっと前、こことは違う場所であった大規模な戦い。

 勝利と敗北。そして再生の物語を懐かしむように語る。

 僕はそれを文字におこす。
 いずれ女王陛下に献上するために。


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