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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第1章 魔国蠢動編

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 僕は寮で朝を迎えた。

 昨夜、女王陛下との謁見が終了した。
 無事……無事、終了したよね? 虚空に問いかけても答えは帰ってこないけど。

 これで〈影〉としての義務は果たせたと思う。

 僕は女王陛下の〈右手〉とはいえ、王都は僕のテリトリーではない。
 大っぴらに行動して、他の〈影〉に目をつけられたくない。

 なので、目通りした後はゆっくり(・・・・)するつもりである。
 ただし、安心できない案件はひとつだけあったりする。

「前回は商業街で戦闘になっちゃったからな。それだけは気をつけなきゃ」

 三年前、父さんとともに王都へ来たときのことを思い出す。
 真夜中、ひとりで町中の散策をしていたら、いろいろあって〈影〉と戦闘になった。

 犠牲者を出すことなく誤解が解けて(?)、その場は事なきを得たが、戦闘したことが父さんにバレて、結構ないきおいで怒られた。

 全員の膝を砕いたから大丈夫なのに、父さんから特大なげんこつをもらったのだ。

 そのまま外出禁止を言い渡され、この日は宿屋で待機させられた苦い思い出がある。
 まあ、怪我もしていたし、仕方がないのだけど。

 今回は気をつけよう。
 町に出るたびに〈影〉と戦闘になっては、身体がいくつあっても足らない。

 闇にまぎれて活動しなければいいのだが、僕の魔道は夜に出歩くほうが便利だから仕方がない。

「今日は父さんの師匠のところでもいくかな」

 師匠といっても、暗殺家業ではなくパン屋の方である。
 父さんは王都でパン作りを学んでいる。

「たしか、商業街で『ふわふわブロワール』というお店を出しているんだったよな」

 両親いわく、技国式のかなり美味しいパンを焼く店だとか。

 ネーミングセンスには、あえて触れまい。
 できれば、父さんにそのセンスを受け継いで欲しくなかった。

 前回の僕は宿で謹慎中だったので、父さんだけが訪れている。

 地上をゆっくりと歩きながらでも、行ってみるか。
 寮の購買で朝食を買い、出かけることにした。



 竜の学院は、木々に囲まれた静かな場所に建っている。
 周囲に商店や住宅はあまりない。
 開発されてない土地が多数残っている。

「越してくる人が少ないってことは、王都なのに不便なのかな」

 気になることがもうひとつある。
 早朝とはいえ、通りを歩く人をほとんど見かけない。
 ソールの町の方が、人通りが多いくらいである。

「……ん? この先は?」

 歩いていると、不意に道が途切れた。
 というか、通行止めになって進めない。
 どういうことだ? 看板があるようだが、道路を封鎖するとは穏やかじゃない。

「この先、操竜場そうりゅうじょうにつき迂回って……そういうことか」

 この道は、竜の学院と操竜場を結んでいるわけだ。
 この先から一般人は通行禁止らしい。
 どうりで人通りが少ないと思った。

 王都の中心部に行くには、どうやっても操竜場を迂回するしかないことになる。

「そりゃ、家も店もまばらなわけだ」

 操竜場はかなり広い。
 それを迂回するなんて、不便極まりない。

 今回は迂回するけど、通常は地下水路を使った方がいいな。
 考えておこう。

 仕方がないので、迂回路に沿って歩く。
 結構な時間をかけて、商業街にたどり着いた。

「ええっと、ブロワールさんの家は、四十番街だったな。まだ先か」

 王都は広いので、城からどれだけ離れているか、町の区画で大体わかるようになっている。
 四十番街なら、まだ城に近い方である。

 これは城から離れるほどに、百二十番街、百五十番街と数字が上がっていく。

 しばらく歩くと、目当ての店を見つけた。
 オレンジ色がかった漆喰しっくいの壁にちゃんと看板がかかっていた。

「間違いない……けど、何とかならないのかね、この名前。センスが悪いというか……」

 看板にデカデカと『ふわふわブロワール』と書かれている。
 ブロワールが家名なんだから、『ブロワールのパン屋』とかじゃ駄目なんだろうか。

「名前のセンスと味は関係ないけど……よく家族が許したな」

「ちょっと! 人ん家の店の名前に文句あるわけ?」

 横合いから、いきなり凄まれた。
 空のリアカーを引っ張っている少女が僕を睨んでいる。
 いや、同年代っぽいな。

「ブロワールさんとこの娘さんかな?」

「そうだけど、誰なのあなたは。ウチになんの用?」
 目つきが鋭いな。
 というか、むちゃくちゃ警戒している。

 まあ、目の前で自分の店の名をけなされていたら、いい気持ちはしない。

「ごめん。悪気があったわけじゃなかったんだ」
「それで、あなたは誰?」

「僕はレオン。父さんと母さんが昔、この店で働いていたんで、挨拶にきたんだ」

「……へえ」
 疑り深そうな目で見ている。まだ気を許してない感じだ。

「昨日王都に着いてね。真っ先に会いに来たんだ」
「そう……待ってて」

 それでも思うところがあったのか、少女は店に入ると、「母さん、お客さんみたい」と呼ぶ声が聞こえた。

 この場合の客とは、来客のことだろう。
 少女がすぐに出てきて、「コッチに来て」と、リアカーごと、裏に回っていった。

 僕が付いて行くと、少女は手慣れたしぐさでリアカーを倉庫にしまい、「父さんは、裏だから」と、作業場らしき方を指差した。

「行ってもいい?」
「どうぞ。鍵はかかってないわ」

 僕は作業場の扉をノックした。

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