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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第3章 商国陰謀編

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 竜迎えの儀が終わった日の夜、僕はコッソリと女王陛下のもとへ赴いた。
 今日あった出来事を話すためである。

 女王陛下は騒動についてすでに聞いていたらしく、僕からの報告でも大爆笑していた。
 まあ、この報告はおまけだ。ここへ来た目的は他にある。

 黒竜――いや、シャラザードについてだ。
 ちなみに『ワガママ黒竜さん』と呼んだら怒った。

『我のことはシャラザードと呼べ』とうるさいので、そう呼んでいる。
 竜に名前を付けることが多いので、僕の行動はおかしくない。

 それで、シャラザードがなぜ僕と会話ができるのか。
 リンダに話していることが分かるかと聞いたら、「ただ唸っているだけよ」とそっけない。

 頭大丈夫? とまで言われた。
 なので他の人には話していない。僕だけがシャラザードの言葉を理解できるのだ。

 学院でもそんなことは習ってないので、他の竜操者に聞くのもはばかられた。
 というわけで、同じ特殊竜を持つ女王陛下に聞いてみようとなったわけだ。

「過去に竜と意思を通わせた竜操者はいるのよ。いちばん新しいのでも百五十年くらい前かしら。その前だと、三百年くらいは遡らないと出てこないわね」

 驚いたことに、過去にもいたという。聞きに来てよかった。
 いま現在、竜と会話できる人はいないことも分かった。

「その意思を通わせたというのは、どの程度なのでしょうか」

「簡単な会話はできたみたいよ。あと、そうね……この地に現れる前の話も少しだけ聞けたとか」

 まだ少し話しただけだが、シャラザードから聞いた話は驚くべきものだった。
 それは僕一人が抱えるには大きすぎる内容だ。

「黒竜は、自らをシャラザードと名乗りました。そして、自分はゾック――月魔獣を狩る存在だとも」

「ゾックね、その言葉は過去の文献にも出てくるわ。カイダの月を滅ぼした侵略者ゾックのことね」

 女王陛下は古い文献にも精通しているようだ。
 カイダとは、天頂にあるふたつの月の片方。

 もうひとつの月がエイダノ。
 月魔獣はエイダノから鋼殻になってやってくると言われている。

 シャラザードが言うには、かつてカイダには人と竜が住む大地があったらしい。

「侵略者ゾック……シャラザードも同じことを申してました」

「そう。百五十年ぶりに竜と意思を通わせられる竜操者が出たことになるのね。ではレオン」
「はっ!」

「そのシャラザードから聞いたことをまとめ、わらわに報告なさい。期限は問わないわ」
「かしこまりました」

「それと、兎の氏族へ赴くときの編隊を一部変えます。王宮の竜舎に竜操者がいますので、明日にでも打ち合わせをなさい」
「はい」

 そんな会話があった。

               ○

 学院にある竜舎。
 本来はパン屋のアルバイトをしている時間だが、いまはこうして竜の世話をしている。

 世話は専門の人を雇えばいいのだが、信頼できる人がすぐに見つかるわけもなく、さりとて学院の授業前に世話を済ませないといけない。

 専門の人を雇う前にまずは自分ですべてできるようにしないといけないのだが。
 というわけで、いまはみんな早起きして竜の世話にかり出されている。

「なあ、シャラザード。僕とおまえは、なんで話ができるんだ?」
 ひと段落ついたところで、僕が一番聞きたかった質問をしてみた。

『知らん……とはいえ、あるじが特別なわけではない。昔はみなできた』

「昔? 昔っていつさ」

『我の他に多くの竜がいた時代だ……もう、戻ってくることのない、我らと人が光り輝いていた時代のことだ……すまんがこれについては、話したくないわけではないが、いましばらく時がほしい』

 最後は言いにくそうだった。
 もっと暴君かと思っていたが、そうでもなさそうだ。

「分かった。話したくなったらでいいよ。別にすぐに知りたいわけじゃないし」
『すまんの』

「気にしないで。……それで不思議に思ったんだけど、シャラザードはなんで僕のことをあるじって呼ぶわけ?」

『それはな、主がいない竜は、確固たる意思のないものだからだ。理性よりも本能を優先させ、複雑な思考ができない。我らは、人を主と定めて契約を結ぶがゆえに、人と似た思考を得ることができる。人はさらにその上をゆく思考をする。人は複雑怪奇な思考の果てに、行動をおこす。我らにはできんことだ。ゆえに我らは、理性を優先させ、複雑な思考を与えてくれた者を主と呼ぶ』

 人と竜の契約には、人だけでなく竜にも恩恵があるってことかな。
 それだけでもなさそうだけど、深く聞くことでもなさそうだ。

「だったら、僕と契約できて、シャラザードは満足?」

『もちろんだとも、主よ。長く果てしない時を経て、ようやく探し当てたのだ。満足に決まっておろう。逃しはせんよ』

 おもわず、竜迎えの儀に行かなくて、竜が勝手に現れた話を思い出した。
 すべての竜が同じ思考ならば、たしかに逃げられるものではないのかな。

「じゃあ、途中で契約を変えたりはできなんだね」

『無論だ。主は他の者とは全く違う。闇の中でも光り輝いて見える。どんなに離れても、光の元を見失うことがないようにな。だから、契約は無二にして絶対。途中で変えるようなことは考えられん』

 聞いた感じだと、ものすごく強固なつながりにみえる。

「そうだ、これも知りたかったんだけど、シャラザードが言っていたゾック。あれは……」

『ぬぉおおおおおお、ゾック。あやつらは、我や我の同胞をみなごろしにしよった。憎き、憎き存在ぞ。ゾックは根絶やしにせねば、我は安らかに眠れん』

 突如唸り始めたシャラザードに、同じ竜舎にいる他の竜たちは、恐れおののいた。
 興奮したのか、シャラザードが足を踏み鳴らす。

 外から何事かと、複数の足音が聞こえる。

「落ち着いて、シャラザード。ここにはいないから。静かに。みんなやってきちゃう」

『ゾックめぇええええ……いまに、いまに目に物見せてやるわ!』

 このあと、シャラザードを落ち着かせるのにしばらくかかり、僕は竜舎の管理人にこってりとしぼられた。

 シャラザードにゾックの話題は禁句だということは分かった。

 同時に、質問は一時中断である。
 どこに怒り出すポイントがあるか分からないので、少なくとも竜舎で質問はしない方がいいと思った。

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