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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第3章 商国陰謀編

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 僕は竜渓谷で竜を得た。
 色は黒で、大きさは中型竜を超えていた。

 竜導神官は属性竜だと言っていた。これは特殊竜の一種である。
 これは大変珍しいことだそうな。

 それはいい。それはいいのだが、その後が大変だった。

 会場まであっという間に飛翔し、いざ降り立とうとしたときである。

 突如、黒竜の咆哮が会場に響き渡った。
 会場にいた竜たちが邪魔だったらしい。

 黒竜の咆哮は会場にいた竜や竜操者、はては観客たちに大きな被害をもたらした。

 まず、気絶して運ばれたパトロンや観客たちが四十人以上出た。
 あとで謝りに行こう。

 観客席は静寂に包まれたが、直後、蜂の巣をつついたような騒ぎに発展した。

 恐怖で泣き出した子供や、鼓動が早くなって痙攣しはじめたご老人がた。
 我先にと逃げ出した観客が、出入り口で押し合いへし合いの地獄絵図となった。

 観客席に置いて行かれたのは、か弱い女性や子供たち。
 だが、出入り口の混乱に遭遇しなかったのは不幸中の幸いだろうか。
 揉みくちゃにされたら、命が危ないところだった。

 腰を抜かした者や、失禁した者も多数でたらしい。その辺は自己申告なので、詳細は分からないらしいが。

 警備兵たちだって驚いたことだろう。

 パニックになった観客を落ち着かせられなかったとしても、彼らを責めるわけにはいかない。
 悪いのは僕……の竜なわけだし。

 観客が恐怖のあまり会場から逃げ出したことで、席に空きが目立ったが、彼らが戻ってくる気配はない。

 結局、混乱が落ち着くまで、竜迎えの儀が一時中断されてしまった。

 大型竜が出た年もやはり一時中断されたらしいので、それを聞いて胸を撫で下ろしたのは内緒である。

 前例があってよかった。うん。
 やらかしたことには変わりないが。

 ちなみに会場の中央で途方に暮れた僕と黒竜に話しかける者はいなかった。
 みな遠巻きに眺めるだけである。
 竜を得た直後から腫れ物扱い。少しだけへこんだのは内緒だ。

 しかたないので、隅っこに寄ってしまった竜たちを並ばせることにした。
 黒竜の一声で動いてくれたので助かったが、竜操者の方はそうもいかない。

 竜が自分を放り出して逃げ出してしまったことにショックを受けていた。
 さもありなん。というか、すまん。

 それらの問題を強引に抑えこみ、竜迎えの儀が再開されたのは、騒動から実に一時間も経ってからだった。

「ねえ、一応確認しておきたいのだけど……というか、聞きたいことがあるの」
 リンダの顔がさっきからずっと引きつっている。

「竜のこと?」
「この状況で、それ以外にないわよね。……コレ、小型竜とも中型竜とも違うのだけど」

 やはり気になるよな。
 並んでいる他の竜と見た目がまったく違うし。

「えっと竜導協会りゅうどうきょうかいの神官は、特殊竜とくしゅりゅう、その中でも属性竜ぞくせいりゅうだって言っていたけど」

「やっぱりそうなのね。ということは、女王陛下の騎竜と同じってことよね」
「そうなるかな」

「………………はぁ。アン先輩の勝ちかしらね、これは」

 リンダがため息を吐いた。
「……ん? どういうこと?」

「さすがに私からは言えないのよ。技国の……兎の氏族と山羊の氏族の結婚式に行くんでしょ。その時に分かるわ」

「さいですか」

 よく分からなかったけど、どうせすぐにアンさんに会えるんだ。
 そのとき聞けるならば、今はいいか。

 こうしてかなりの混乱があったが、竜迎えの儀が終わった。



 学院の一回生は全員、竜を得て戻ってこられた。

 終了時間を予定より大幅にオーバーしてしまったのは仕方ない。
 僕は悪くない。原因は黒竜だ。

 それと不思議なのは、後からやってきた竜たちがなぜか黒竜を避けるのだ。

 竜操者といえども、まだまだ未熟。
 今日はじめて自分の竜を使役したのである。

 黒竜を避けるように勝手に歩き始めた竜に、同級生たちは四苦八苦していた。
 ごめん。これも黒竜が悪い。僕は悪くない……たぶん。

 一時中断したことで、時間がかなり押してしまった。
 そのため、最後の楽しみである楽団の演奏は、時間少なめになった。

 日が落ちる前に終わらせないといけないのだ。
 そういうわけで、楽団のみなさまごめんなさい。黒竜が悪いんです。

 最後は僕らが竜に騎乗したまま、競技場内を練り歩いて終わる。ミニパレードだ。

 竜操者とパトロンが乗り込んで、大歓声の中、有終の美を飾って退場していくのだが、ここでも一騒動あった。

『――我の後に続け!』

 僕がパレードの件を告げると、なぜか黒竜が号令をかけてしまった。
 すると、黒竜を先頭にずらっと行列ができたのである。

 進行役の人は涙目になっていた。
 本当にごめんなさい。黒竜を殴っていいですよ。



 今年度の竜迎えの儀の成果。

 特殊竜(黒の属性竜)……1体
 中型竜……3体
 小型竜……23体

 以上の結果となった。

 僕の名前と黒竜のことは、このあと国中に広まるだろう。

 これでまた一歩、パン屋への道が遠のいたと思う。
 でも僕は握り拳を固めて言いたい。決して諦めないと。

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