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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第2章 技国内乱編

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 竜迎えの儀は、式次第しきしだいに沿って、つつがなく進んでいる。
 お偉いさんの挨拶も半ばがおわり、観客の数も増え始めた。

 学院の入学式には、サーラーヌ王女が参列していたが、今回はビルドラード王子が貴賓席に座っている。
 より重要な式だからだろうか。

 つい先ほど、二回生が竜に乗って会場入りしてきた。
 その瞬間、会場が沸いたので何がおこったのかと思った。

 千五百人の王立学校の生徒たちも、すでに特別席についている。
 全員が制服を着ているので、そこだけ目立っている。

 観客もいよいよと理解しているのだろう。
 段々と観客が騒がしくなってきた。彼らは分かっているのだ。

 ついに僕らが竜を得る時間がやってきたことを。

 手順はこうだ。
 僕らの名前が呼ばれたら、競技場内の指定された場所へ向かう。

 続いてこの一年間ずっとパートナーを組んできた二回生が竜に乗って登場する。
 僕の場合、マーティ先輩がその役を務めてくれる。

 最後にパトロンとなる者の名前が呼ばれる。
 僕の場合、リンダが観覧席の一番前に来る。

 当然競技場の地面は、観覧席よりも低い位置にあるので、そこから降りることができない。

 僕ら一回生が竜の背に乗り、パトロンを迎えにいく。
 そんな感じだ。

 そのあとはパトロンを競技場に残し、竜を得に竜渓谷へ行く。



 ひとりずつ名前が呼ばれる。

 竜渓谷に行って帰ってくるまでに三十分くらいかかるらしい。
 次々と時間をおいて出発するが、ここからは長い。

 僕ら一回生は、男性十七名、女性十名の計二十七名だ。
 一時間に六、七人が竜を迎えに行くので、全員が竜を得るまでに四時間以上かかる。

 見に来る方もそれが分かっているから、前半の退屈な時間は外して、今頃からやってくる人もいる。

 始まって一時間もしたら、ぼつぼつと竜を得て戻ってくる生徒が増えてくる。

「……また飛竜だ。今年は飛竜が多くないかい?」
 順番を待っていると、アークがそんなことを言った。

「ここまで飛竜が三体、走竜が一体、地竜はゼロだね。だけど、まだ序盤じゃないか。多いか少ないかは分からないよ」

「そうか。……はやく自分の順番が来ないかね。ドキドキだよ」
 周りの学院生もアークと同じなのか、ソワソワしている。

 とつぜん、会場が沸いた。

「おっ、中型竜だ」

 会場に入ってきた竜は、今までの数倍の大きさだった。
 今年はじめての中型竜である。

 小型竜だって大きい。竜の個体は、他の動物の追随を許さない。
 だが、中型竜はその比ではない。

 明らかに大きさと威圧感が違う。

「くぅ、格好良いな。中型竜なんて羨ましい」

「餌代は大変そうだ」
 かなり大食らいだと聞いている。

「キミはどうしてこう、夢がないのかね」
 真っ先に餌代を気にした僕に、アークは大きく息を吐いた。

 そうか? 餌代は重要なことだと思うが。
 周りに話を振ってみたが、賛同は得られなかった。

「続きまして、ソールの町出身のレオン・フェナード様!」
 僕の名前が呼ばれた。

 立ち上がって、競技場の中へ歩いて行く。ちょっとドキドキだ。
 招待席を見ると、両親と姉が手を振っていた。少しだけ落ち着く。

「補佐をするのは、レオン様の同室であるマーティ・ギル様!」

 マーティ先輩が走竜に乗って入ってきた。

「やあ、緊張していないようだね。緊張をほぐすためにどう声をかけようかと悩んでいたのに、無駄になったかな」

「こんにちは、マーティ先輩。内心ではドキドキですよ。今日は、よろしくお願いします」

「とてもそうは見えないよ。さあ、乗ってくれ」

 僕はマーティ先輩の操る走竜に飛び乗った。
 いつも乗せてもらっていたので、もう慣れたものである。

 次はパトロンの紹介だ。

「レオン様のパトロンは、王立学校一年生リンダ・ルッケナ様!」

 王立学校の生徒が集まっている観客席の中で、ひとりの女性が立ち上がった。

「さあ、迎えに行くよ」
「はい、お願いします」

 マーティ先輩の操る走竜が観客席のすぐ脇に寄った。

「さあ、リンダ。渡ってこられるかい」
「大丈夫よ」

 僕が差し出した手をとり、リンダは楚々(そそ)とした動作で竜に乗り移った。
 相当練習したな、これは。

 マーティ先輩が竜を競技場の中央へ移動させる。
「さっき見つけたのだけど、東門のそばに旗が立っているでしょ。あの近くにパパがいるわ」

「どれどれ……」
 リンダが言う辺りに目を凝らした。たしかにリンダのお父さんがいる。

「見つけた? あの踊っているのがそうよ」
 たしかに踊っている。でもなんで?

「なにかのまじない?」
「いや……嬉しくて、居ても立ってもいられないみたい」

「そうなんだ」
 まあ、悲願とか言っていたしな。
 でも身体をくねらせるのはどうかと思うが。

「アン先輩は、いま技国よね」
「うん。もうすぐお兄さんの結婚式だしね」

「おととい、手紙が届いたの。元気みたいよ。あと、今日のこと、知らせてほしいって」
「そっか。アンさん元気か。よかった」

「そりゃ元気でしょ。手紙にはなにも書いてなかったけど、忙しく動いているんじゃないかしら……あっ、わたしはもう降りるね」

 話しているうちに所定の場所に着いた。
 ここにリンダだけを残し、僕らは竜を迎えに行かねばならない。
 いや、迎えるのは僕ひとりか。

「じゃ、はやく戻って来てね、あ・な・た」
 リンダが投げキッスをする。会場がわいた。

「……行ってくるよ」
 僕は苦笑して、マーティ先輩にお願いした。

「じゃ、行こうか」
 マーティ先輩の操縦で、竜は見事な走りをみせた。



「よし、飛ばすよ」
「はい、お願いします」

 走竜は王都を抜けて、竜渓谷を目指す。

 向かう途中、やってくる一体の地竜とすれ違った。
 同級生だ。

「アークは、複数の竜紋持ちが竜の聖門に来ると、順番が分からなくなって混乱すると言っていましたけど、どうなんでしょうね」

「さあ。でも僕もキミを下ろしたらすぐに戻るように言われているからね、案外そうなのかも」

 竜の聖門の向こうがどうなっているか誰も知らない。
 こちらで勝手に想像するしかないのだ。

 竜はいつでもだれでも人を背中に乗せるわけではない。
 そこに竜操者がいればこそだ。

 それだけ竜と竜操者の絆は深いといえる。
 僕らは竜のことを知っているようで、何も分からない。

 本当のところはどうなのか、いつか聞いてみたい。

 そんなことを考えていると、走竜の速度が落ちた。
「もうすぐ竜の聖門だよ。そこに竜導教会りゅうどうきょうかいの神官がいるからね」

 たしかに法衣ほういを着た人が立っていた。
 マーティ先輩は僕をそこに下ろすと、「会場で待っているからね」と言い残して去っていった。


「レオン様ですね」
「はい、レオンです」

「このたびは、竜迎えの儀を迎えられたこと、大変嬉しく思います。……おや、その竜紋は」
 神官が僕の左手の甲を見て、声をあげた。

「なんか、だんだん赤くなってしまったんです。他の人はなんともないんですけどね」

「竜紋が赤くなるのは、竜が聖門から早く出たがっていると言われています。では急ぎましょう」

 少し歩くと、垂直に切り立った崖があった。
 とても大きい。見上げると首が痛くなるほどだ。

「見えますか?」
「光っていますね」
 崖が光っていた。発光している。

「そうですか。竜紋がないわたしには、黒い膜のようにしか見えませんが、光って見えるならば、問題ありません。そこに手をかざしてください。しばらくすると、竜が現れると思います」

 神官がそんなことを言っている間にも、光の膜の内側から、ドンドンと叩くように何度も膜が盛り上がっている。

「竜がしびれを切らしたようです。……ですがあの高さ」

 まるで赤子の胎動のようにうねる膜に、僕は手をかざした。
 すると竜紋が光り輝き、少しだけ手が膜の中に入る。

 何かが近づいてくるのが感覚で分かった。
 ドンドンと勢いを増してやってくる。

 これが竜なのか?
 そう思っていると、光の壁が大きく膨らんだ。

「……これはっ!?」

 膜の内側から何かが出てこようとしている。
 見上げた僕の頭上が陰った。

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