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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第2章 技国内乱編

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 アンさんが技国に戻ってから三日が経った。
 もうすぐ年が明ける。

 竜操者に国境まで送ってもらったのだから、もう家に着いているだろう。
 年末年始はやはり氏族の人たちと一緒に過ごすのだろうか。

「だけど、駆動歩兵の隊長なんだよなぁ」
 内乱があったばかりだし、訓練に明け暮れるのかもしれない。

 そういえば僕ら一回生に、年末休みはない。
 年明け早々に竜迎えの儀があるので、休んでいられないのだ。

 今日も準備とリハーサルに駆りだされている。

 それがやたらと忙しいのだが、ふとしたひょうしに、アンさんのことを思い出す。
 アンさんが最後の顔合わせ会のときに言いかけた内容。

 リンダは何か知っている。最後の顔合わせ会のときにそれとなく聞いたのだが、「いまあなたに言ってもしょうがないことだから」と目を伏せられた。

 僕にはどうにもならないことらしい。
 でも、どうにもならないって、どういうことだ?

 この事を考えると、思考が堂々巡りしそうになる。
 もう気にしないことにしよう。

 そしてついに、パトロンの申請期間が始まった。
 王立学校の生徒の名前を書く場合は簡単に済む。それ以外だと色々と必要書類を書くらしい。

 僕は学院の事務局に向かい、書類を提出することにした。
 やり方はくどいほど習っているので、問題ない。


「以上で申請は完了します。よろしいですね」
「はい」

 必要事項をすべて記入し、その場で用紙を提出した。
 パトロンの欄にはリンダの名前を書いた。

 あの話し合いの日に決まった内容。
 それを僕は生涯忘れないだろう。

 パトロン申請は国の審査に数日かかる。それでも破格の速度らしく、問題がなければそのまま通る。
 もし何か不備があったり、問題のある人物の名前が書いてあったりしたら、呼び出しがある。

 リンダは王立学校に入学しているので、事前審査も通過している。
 すぐに結果が出ると思う。そうしたら本人と家族に連絡がいく。

 そして重要なこと。
 パトロンになれば、もう煩わしい手続きをしなくてもリンダと会うことができる。

 リンダからも好きなときに手紙を出せるようになる。花屋を介さなくてもいいのだ。

 ちなみに僕のパトロンになっても、リンダは学院の中に入ることはできない。
 それは絶対だ。

 一度、学院に張り巡らせている魔道結界をすべて調べたが、それほど難解なものではなかった。

「よくこれで難攻不落だと言えるレベルだよな」

 個人的にはもっと魔国のスパイあたりが潜入してきてもおかしくないのだが、その気配はない。
 不安になって学院の敷地内をくまなく調べたが、侵入された気配は微塵もない。

「興味ないのかな」

 そう結論付ざるを得ない。

 さて、そんな些事さじはおいといて、あと数日で年が明ける。

 最近、僕の竜紋にちょっとした変化があった。
 竜紋の色が赤黒くなってきているのだ。

 学院の授業で習ったが、竜迎えの儀をしないで放っておくと、竜の聖門から勝手に竜が飛び出して、竜紋を辿ってやってくるらしい。怖いことだ。

 竜紋が現れた者に拒否権がないとは、そういう意味だ。

 遠方にいるとか、怪我で動けないなど、何らかの事情で竜迎えの儀ができない場合、竜紋の色がだんだんと赤くなるという。
 危険な兆候らしい。

 そのまま放っておくと、しびれを切らした竜が目の前に……そう言われている。

 竜迎えの儀はまだ先なのに、なぜが僕の竜紋が赤くなってきてる。

「ある朝目覚めたら、竜が目の前にいたとかないよな」

 竜操者にとって、竜紋が現れても竜を放っておくのは恥ずかしい行為らしく、竜に追いかけられた者は過去にほとんどいないらしい。

「でも確実に濃く赤くなっているよな」

 アークに聞いてみたところ、アークの竜紋はそんなことはないという。
 こっそりマーティ先輩にも聞いてみたが、やはり首をかしげていた。

「気にしなくていいと思うよ」

 竜紋の色が赤く変わるのは、早く迎えに来いという印らしいが、竜紋が竜操者に悪さをした例はないので、思い悩まなくていいだろうとマーティ先輩は言ってくれた。

 学院が尻を叩くようにして僕らを教育しているので、あまり気にする時間はないのだが。

 ちなみに今、学院外での活動が増えている。
 ナントカという団体の何やらの壮行会などに出席するのだ。
 これから竜を得る竜操者を称えるような会が、毎日のように開かれる。

 ひとりひとり激励されるものだから、時間がかかってしょうがない。
 そうアークに言ったら「おれたちが主役なんだ。こういう時こそ、楽しまなきゃ損だよ」と笑顔で返された。

 どうやら僕には、お偉方が多数出席するような会は楽しめないことが分かった。

 壮行会だけでなく、本職の竜操者がいる操竜場そうりゅうじょうにもよく出かけている。
 いままで二回生の竜に乗ることはあった。

 今回はそうではなく、熟練の竜操者らのやり方を学び、最初の数ヶ月を乗り切るための訓練をしている。

 訓練? いや、特訓かな。
 本職の竜操者が乗っていない竜にまたがり、移動する訓練だ。

 いままでは二回生の操る竜に同乗していた。今回は自分ひとりで乗る。
 違いはそれだけだが、内容は大きく違う。

「竜は竜操者がそばにいるからこそ暴れたりしないんだ。一定以上離れたら振り落として、踏み潰すからね」

 竜に乗る前、真顔で怖い忠告を受けた。
 ひとりで乗るからといって、勝手できると思うなよ。
 やりたいならやってみろ、そう言っているのだ。

 もちろんだれも試してみようとは思わない。
 言われたとおり、おっかなびっくり操縦する。

 勝手に列を離れて遠くに行ってしまえば、振り落とされて踏まれる。
 心理的重圧は相当なものだ。

 その中で、一般的な竜の操縦方法を学ぶ。大変な作業だ。
 だがこれができないと、竜迎えの儀を迎えられない。

 やるしかない。
 僕らは毎日数時間、ひとりで竜に乗ってとにかく慣れる。
 これを特訓と言わずして、なんと言おう。



 みな必死な顔で操縦を覚えているうちに年が明けた。
 ハッピーニューイヤー、新年である。
 めでたい。けれど忙しい。

 新年最初の三日間は学院も休みである。つかの間の休息だ。
 このところストレスが溜まる活動ばかりだったので、僕としても休暇は嬉しい。

 久しぶりに、一日中パン屋でアルバイトだ。
 ……と思っていたけれども。

「休みなんだよなぁ」

 さすがに新年早々から店を開くつもりはないらしい。
 まあ、分かっていたけど。

 このままだと、パン焼きの禁断症状が出そうだ。



 竜迎えの儀は一月七日の朝から行われるので、僕らは前日の六日に会場入りすることになっている。
 会場はふだん円形競技場として使われていて、多数の観客が収容できる。

 そこから竜の聖門がある竜渓谷りゅうけいこくまで連れて行ってもらう。

 どうも複数の竜紋持ちが、竜の聖門に近づくのはよくないらしい。
 アークいわく、中で順番待ちをしているので混乱するとか。

 これはアークの言う、運動場みたいなところにその年の竜が集まっている理論である。

 さて僕らの特訓だが、年が明けても継続して行った。
 そのおかげでなんとか全員、最低限の技量を得ることができた。

 一回生全員そろっての合格だ。
 そして竜迎えの儀の前日、僕らは意気揚々と会場入りを果たした。

 この日は、王都にやってくる家族との面会をしていいことになっている。
 明日の竜迎えの儀が終われば、僕らは竜の世話をしなければならない。

 慣れるまでは、竜に乗って長距離移動もできないし、竜を放って何日も出かけることもできない。
 その前に家族と再会できるのは、一年間僕らが頑張ったご褒美と言ってよい。

 僕の家族はどうだろうと思ったら、面会予約が入っていた。
 すぐに会えるらしいので、僕は久しぶりの家族に会いに行くことにした。

「といっても、父さんとはつい最近会ったんだけど」

 しかも戦場で。

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