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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第2章 技国内乱編

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 リンダとの話し合いはいろいろと衝撃的だった。
 幼少時代の自分は、パン職人になること以外、たしかに興味がなかったと思う。

「それは今でもあまり変わらないか」
 ちょっと反省した。

 さて、くだんの竜迎えの儀だが、これは一月七日に行われる。
 僕らの晴れ舞台だ。

 アークになぜ王立学校からしか選べないのか聞いてみた。

「理由は簡単さ。他国を牽制しているだけだね」

 竜紋が出た竜操者を守るため、事前の接触を禁じている。
 以前からの知り合い以外で唯一、公的に竜操者とお近づきになれるのが、『顔合わせ会』だ。

「でも竜操者の暗黒時代を避けるために、自国以外にも開放しているんだろ?」
 暗黒時代の反省があるからこそ、いまの制度があると聞いた。

「建前上そう言わなきゃいけないからね。王立学校に限定することで結果的に他国の干渉は跳ね除けているだろ? 学校を隠れ蓑した囲い込みだと思うね」

 竜の流出を防ぐため、多少強引にでも王立学校の生徒の中から選ばせた方が後々問題がないようだ。

「だから僕らはそこから選ばなきゃいけないわけか。でも、そう言われてもなぁ……よく分からないよ」
 結局そこへ行き着く。同級生たちはどうやって決めているのだろうか。



 リンダに言われた通り、王都の宿を仮で予約した。
 そのことを含めて、両親と姉さんに手紙を出しておいた。

 今日、その返事が返ってきた。

 父さんと母さんは店を閉めて見に来るようだ。
 見に来ると言っても、往復の馬車だけで十日間。かなりの長旅だ。

 王都に数日は宿泊するだろうし、それだけで半月は無駄になる。かなりの決心が必要だと思う。
 それなのに来てくれる。その気持ちが嬉しかった。

 なんと姉さんも駆けつけてくれるという。
 ただし、雑貨屋は閉められないので、その間の働き手がひとり減ってしまう。

 姉さんだけは当日到着するように来るらしい。そして一泊して帰るそうな。
 来たら義兄さんに盛大な文句を言うんじゃなかろうか。大変だな、義兄さん。

 そして手紙に書かれた一文。


 ――覚悟は決めたか?


 これは父さんの字だ。
 覚悟……それは僕に足りないもの。

 この前からずっと考えていた。そしてようやく気づいた。
 竜操者になる覚悟、パトロンを選ぶ覚悟、そして夢を割り切る覚悟。
 僕に足りないのは、現実を直視する覚悟であり、前に進む覚悟だった。

「まずは……パトロンだな」

 年内までにだれか一人を必ず選ばなければいけない。
 最後の顔合わせ会が終われば国に申請書類を提出するのだから、もう時間はほとんど残されていないと言っていい。

 これは僕が考えて、すべての責任を負う覚悟で決める事だ。
 本気で考えなければいけない。もう逃げてはいられないのだから。

 その後も忙しい日が続いた。

 休日にリンダとアンさん、そしてロザーナさんの三人と会って、長い話をした。
 パトロンについての話だ。

 そのとき、ちょっと驚くべきことがおこった。
 ちょっと? いや、僕としてはビックリの出来事だった。



 そして、十二月の十五日。
 最後の顔合わせ会が始まった。

 僕が招待したのは十人。七人はアークに頼まれた令嬢たちだ。
 彼女らからは、開始早々にアークを通して礼を言われた。

 ご令嬢方は、「何かお手伝いできることがありましたら」と、ちゃっかり宣伝していったが。

 さすがにアークが選ぶだけのことはあった。
 みな標準以上の美貌を備えて、ソツのない所作しょさだ。ある意味、完成されているといえる。

 そんな令嬢方との軽い雑談を終わらせてひと息ついたところで、見知った人物がやってきた。
 ロザーナさんだ。

 昨年この会で大醜態をみせたからか、なんとなく周囲の視線がロザーナさんに注がれている気がする。
 良い思い出がないだろうし、来てくれるか不安だった。

「レオンくん、ありがとう。まさかこうして最後の顔合わせ会まで学校に残れるとは思わなかったわ」
 ロザーナさんが目に涙をためている。本当ならばすでに嫁いで竜国を離れていた頃だろう。

「最後はいい思い出で締められましたね」
「ええ、ほんとうに……」

 ロザーナさんは今年で卒業だ。卒業後は、学者の道に進むらしい。
 その辺のことを聞きながら、楽しく談笑した。

 ロザーナさんといい雰囲気でいたら、リンダが僕の隣にやってきて笑みを浮かべた。
 待てなかったのか?

「あら、もうこんな時間。私ばかり独占してしまったわね。レオンくん、本当にありがとうね。今日は楽しんでくるわ」
 上機嫌でロザーナさんは行ってしまった。

「二年連続で竜操者に招待されたとなれば、彼女にも箔が付くんじゃないかしら」
 リンダが僕の腕に手を回した。
「そうなの?」

「一定以上の評価は得られると思うわよ。そうね、近衛隊で言えば毎年最終選考に残るくらいの腕なんて言われれば、だいたいの強さか想像できるでしょ」
「なるほど、なんとなく分かった」

 この最後の顔合わせ会は、五回行われる中でも最大の豪華さをほこるらしい。
 招待されただけでも光栄と考える子息令嬢も多いらしく、会は終始なごやかな雰囲気だ。

 昨年はよくここで大げんかできたなと思える。だからあれほど醜聞が広まったわけだ。

「レオンくん、招待ありがとうございます。今日はお世話になります」
 リンダと話をしていると、周囲の囲みを抜けてアンさんがやってきた。

「いえ、日頃お世話になっているのは僕の方ですよ」
 アンさんはニッコリと微笑むが、やや表情が硬い。

「どうしました? なにか困ったことでも?」
 アンさんは両手で頬に手を当てて、ちょっとだけ下を向いた。

「レオンくんには分かってしまいましたね。……わたくしはあと数日で実家に戻らなければなりません」

「お兄さんの結婚ですよね」
 歳年が明けた中旬に行われる。

「はい。わたくしは氏族の者と新年を迎え、そのまま兄の代わりに政務を補佐します。兄の婚儀ですが、日取りが一月十五日に決まりました」
「近いですね」

「なるべく早く、そして各地の招待客が間に合うような日程で調整したようです」

 竜国の場合、二日もあればどこへでも向かうことができる。
 だが、他の国はそうもいかない。

 同じ国内でも、遠いところは片道で五日も六日もかかる。国外ならばなおさらだ。
 十五日とは、新年を祝ったあとで移動する一番早い日程だろう。

 技国の各町でも新年の祝賀会が開かれるらしい。
 毎年お兄さんがそれに出席していたようだが、今年は婚姻の準備で忙しいのでアンさんが行く。

 準備を含めると、そろそろ帰国しないといけないという。残念だ。

「結婚式にはレオンくんも招待しましたので、ぜひ来てください」
「はい、喜んで出席させていただきます」

 招待状はいま各地に届けている最中だという。
 あと数日したら王都にも届くらしい。

「もしですけれども、レオンくんが今度の……」
「はい?」

 小声だったので、途中からよく聞き取れなかった。

「竜迎えの儀の時にですね……」

 アンさんは考えこむと、口を引き結んだ。

「申し訳ありません、いまのお話は忘れてください」
「はい? えっと……」

「なんでもありません。本当に……」
 これ以上聞いても、アンさんは答えてくれなかった。

 リンダを見ると、心配そうな顔でアンさんを眺めていた。
 何かあるのだろうが、僕には見当がつかないことだった。

 そんなこともあったが、僕は会が終わるまでアンさんと語って過ごせた。

 終わったあとは、やや物悲しくなったほどだ。

 寮に戻って、アンさんのことを考える。

 言いよどんでいた何かについて、リンダは原因を知っているらしい。
 アンさんが話したがらないならば、リンダも言わないだろう。

 何にせよ、パトロンの申請書を書いてださなければならない。
 それが終われば、竜迎えの儀だ。


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