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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第2章 技国内乱編

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 十二月に入った。
 学院の生徒たちはそろそろ浮き足立ちはじめる。

 来月早々に、僕らは竜を得る。猶予期間はもう少ない。
 その分、やるべきことは多い。

 たとえば、竜迎りゅうむかえの儀の前後は物入りだ。世知辛い話だが先立つものがいる。
 竜操者の晴れ舞台なので、家族や親類が王都にやってくる。

 学院生の場合、王都までの費用は国がもってくれたが、家族が来る場合は違う。
 馬車で何日もかかる場合、往復の旅費はかなりのものになる。

 さらに王都の滞在費がバカ高い。新年でこの時期ならばなおさらだ。
 それが家族全員、親類を合わせてとなると、事前に貯めていたとしても間に合わないこともある。
 借金をしてやってくる家族もいるらしい。

 パトロンに諸費用を出して貰えばいいという話もあるが、最初からそれでは竜操者とパトロンの良い関係が築けない。
 旅費ひとつとっても難しいのである。



「というわけで、もうすぐ最後の顔合わせ会よ。準備はできていて?」
 リンダが唐突にそんなことを言った。

 場所はいつものレストラン。
 ここももう、定番になりつつある。

「準備って、なんのこと?」

「もしかして、家族に手紙を出してないの? 新年の王都は人でごった返すわよ。いまから宿泊場所を確保しないと……って、本当にまだ予約していないのかしら」

「えっと、宿の予約って、僕がするの?」
「ハルイさんたちが王都に出てきてから、宿を探せばいいいと考えているのかしら?」

 ……無理だな。その頃にはとっくに埋まっている。
 なるほど、リンダが言うことが正しい。予約は僕がするべきだ。それも今すぐ。

「そうだね。すぐに手配しておくよ」

「あなたの晴れ舞台よ。来たいって人は他にいるかもしれないわ。人数だって増えるかも。実家に手紙を書いておいたほうがいいわよ」

 知り合い程度の関係でも、その姿をひと目見たいとやってくる場合もあるらしい。王都見学にかこつけてだが。

「そうすると、姉さんも来るかな。ドロドフおじさんや、ヨーランおばさんも来るかもしれない」
 考えてみれば、いまから連絡をしないと間に合わない。

「そういえば、アンさんと学校内で会ったりしている?」

 僕は僕で、学院での生活があまりに忙しく、強引に機会を作らないとだれにも会えない。
 今日リンダと会うのだって、かなり無理をしたくらいだ。

「アン先輩とはたまに会って話すわね。もうすぐ最後の顔合わせ会だし、何か用があれば伝えるわよ」

「とりたてて用事があるわけじゃないんだけど……」
 そう言うと、リンダの目がスッと細まった。

「アン先輩だけどね……あなたのパトロンになって、こっちにくるのは難しいわよ」
 鋭い。リンダは僕の考えていることが読めるのか?

 リンダはアンさんの本名を知っている。
 氏族長の直系ということで、ライバルになる可能性は低いと考えているようだ。

 実際、僕が竜ごと技国に行くのは不可能なのだけど。

 しかもリンダは、アンさんの出自を調べただけでは満足せず、しっかりと氏族の内情についても定期的に調査しているらしい。

 たとえば、アンさんがもし竜国に輿入れする場合、親族の多くが反発するであろうことも掴んでいた。

「これでアン先輩の兄弟があと二、三人いたら分からなかったわね」

 いま氏族長直系の孫はふたりしかいない。
 その状況でひとりを外に出すのは無理だとリンダは言った。

 僕もそう思う。そう思うのだが、なんだか釈然としない。
 だから、つい思っていることを言ってしまった。


「だからと言って、僕がリンダを選ぶとは限らないよ」


 口の端に上ってからしまったと思った。が、もう遅い。
 リンダは凍りついた……と思ったら、「分かっているわよ」と小声で言った。
 動じていなかった。

「……リンダ?」

「だって私は、あなたに何度もフラれているもの。……覚えていないでしょうけど」
「…………」

 覚えていない。いつの話だ?
 僕の表情を見てリンダは「やっぱりね」と続けた。

「私がソールの町にいた頃ね。はじめにプロポーズしたのは、あなたに会ってしばらくしてからかしら。パパが中々帰ってこないから、よくあなたのお家で遊んでいたわよね」

 ウチは両親がパン屋をやっていたから、住居の方には姉さんと僕しかいなかった。
 だからリンダがウチで遊んでいたのは覚えている。

「あなたはいつだってそうよ。私が結婚の約束を迫っても、『うーん、どうかな』っていつも煮え切らなくて。あなたのお姉さんなんか、一生恋愛できないって言ってたわよ」
「知らなかった」

 姉さんがそんなことを言っていたのも、僕がリンダのプロポーズ(?)に煮え切らない態度を取っていたのは、あまり記憶にない。

 思い出してみるが、そんなシーンあっただろうかと思えてくる。
 どうやら、いろいろと都合よく忘れているみたいだ。

「私が一方的に好きになるのは構わないでしょ。だからもういいの。あのとき……最後だって」
「最後? 最後ってリンダが引っ越すときだよね」

 たしか絶対手紙を書くから返事ちょうだいって……リンダが顔をくしゃくしゃにして、泣いて別れたんだっけか。

「あなたはちょっと困ったような顔をして、『そうだね、たまには書くよ』って答えてた」
「…………」

 そんな失礼なことを言ったのか。
 小さかったとはいえ、我ながらひどいことを言ったものだ。

「あなたはあの頃からパンにしか興味を示さなかったし、私だけでなく他の女の子にも同じ態度だったから、そういう性格なんだなと思ったわよ。だからこっちで再会したとき悩んだわ。すでに何度もフラれているわけだしね」

 脈はないと思ったそうだ。
「ごめん」
 昔のことだけど、謝るしかない。

「あなたはきっと今も変わらないと思ったの。だからどうすればあなたに振り向いてもらえるか、すぐに考えたわ。だってあなたは周りに流されないし、私が変わるしかないもの」

「リンダ……」

「あなたは変わらない……かわりにその場しのぎの優しい言葉も使わない。恋愛はできないけれど、人を縛ったりもしない。恋愛に夢をみないかわりに、心の中にだれも住まわせない。でもだからこそ他の人にはできないことが、私にはできるわ」


 ――私たちの関係に恋愛を持ち込まないこと


「それがあなたの望んでいること……当たっているわよね」

 そう言ったリンダは、なんだか泣き笑いのような表情を浮かべていた。

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