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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第1章 魔国蠢動編

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 その日、女王陛下の〈左手〉の面々は、緊急会議を開くことになった。

 不寝番をする四名を除いて、王城にいるすべての〈左手〉が招集された。
 議題はひとつ。

「ソールの町から来た〈右手〉のレオンに、全赦ぜんしゃが賜れた。それについての意見を聞きたい」

 同じ〈影〉でも、レオンのような〈右手〉とヒフたち〈左手〉では、その任務に違いがある。
 女王陛下個人を守る〈左手〉に対して、〈右手〉は町に住み、暗殺や潜入などを中心に行う。

 つまり城外で活動する〈右手〉は、〈左手〉と直接仕事でかち合うことはない。

 逆に〈左手〉は城の中向きの仕事しかせず、外で働く〈右手〉を一段下に見る傾向がある。

「全赦の理由が知りたい」

 発言したのは、壮年の男である。
 名をヒトクという。

 ヒトクは女王陛下に仕えて、もうすぐ二十年になる。

「我々では、レオンを阻止できないからだ」

 どんなに守りを固めても、レオンがその気になったら無駄である。
 ならば、はじめから警戒するのはやめよう。そう女王陛下は仰ったとヒフは告げた。

「それほどなのか?」

「ヨツヤが詳しい。話せるな」

「はい。地下水路に設置しました最新の感知結界をくぐり抜け、城の中庭に設置したすべての結界にも引っかかりませんでした」

「……『闇渡り』であったな」

「どの感知結界も意味をなさないと証明されました」

 城を守る感知結界は、最高のものを使用している。
 それがことごとく意味をなさなかったのだ。
 それ以上のものを設置することができない以上、どうしようもない。

「ならば我らの手で守りぬくしかあるまい」

「どうやってだ? 『闇渡り』の魔道を我々が感知できないのに、どうやって守るというのだ?」

「魔道封じの札があるではないか。あれがあるかぎり、『闇渡り』を使っても入り込むことはできん」
「それについてだが、ハチナ、続きを」

「はい。謁見の間から魔道で消えたのを見ています。その時、魔道封じの札はまったく機能しませんでした。術者の力が圧倒的であったため、札が意味をなさなかったようです」

「…………まことか?」
「誓って。女王陛下もそのことを理解していたようです。その場で魔道を使ってみよと仰って」

 いかに気を張って控えていても、護衛対象のすぐ隣にいつもいるわけにもいかない。
 もちろん、女王陛下がひとりになる時もある。

 つまり、もしレオンが女王陛下を害しようとすれば、機会を待つだけでいいのである。
 そしてふたつ名持ちの〈右手〉ならば、仕損じることもない。

 つまり、レオンに〈左手〉と女王陛下の間に立たれた時点で負けなのだ。

「それで全赦か」

「〈影〉専用の通用口に、突然現れたそうだぞ」

 通常は、どこから忍び込もうと、探知結界に感知され、その存在は〈左手〉に伝わる。
 今回、それがまったくなく、突然味方の来訪を告げるシグナルが聞こえてきたので、大いに慌てたらしい。

「対策は?」

 全赦を与えたのは女王陛下である。
 それを覆すことはできない。

 だが、女王陛下の〈左手〉たる自分たちが、なにもしなくて良いわけではない。

「女王陛下の身代わりを用意するのはどうでしょうか」
 ヒフはそのくらいしか思いつかなかった。

 事が起こってからならばいかようにも対処ができる。
 だが、全赦がある以上、事前に動くことはできない。

「無理だな。すぐに気づく。それに女王陛下が納得しないだろう」

「では……」

「当面、様子をみるしかあるまい。不審な行動があれば、そのことを女王陛下にお伝えしよう」
 なんとも場当たり的な対応になってしまったが、事実、それしか手がないのである。

「分かっているだけだが、レオンの能力について情報を共有しよう。そのうえで、対策が立てられるならば、それを推し進めればいい」

 ヒフの言葉に全員が頷く。

「しかし、全赦とはやっかいだな」
「一応言っておくが、あ奴の父親も全赦を賜っているぞ」

「なんと!?」
「そんな」

「たしか、『死神』でしたな」
「そう。ソールの大粛清を行った暗殺者だ。暗殺は必ず成功させ、失敗知らずという話だ」

「そんな危険な者に全赦などと……」

「若い者は知らんだろうが、『死神』は陛下が王女時代からずっと付き従ってきたのだ。陛下に仕えるという意味では、あ奴がいちばん古い。それと魔道の実力は噂以上だぞ。魔国十三階梯(かいてい)にも引けをとらない。不用意に敵対しようとは考えるなよ」

 ヒフはブルっと身を震わせた。
 女王陛下の〈影〉どうしでは、戦うことはおろか足を引っ張り合うのも禁止されている。
 破れば粛清が待っている。

「もちろんだとも」
「ああ、そんなことはしない」

「ならばいい。我々は、女王陛下をお守りする。ただそれだけを考えるのだ」

「すべては女王陛下のために……」
「女王陛下のために」

 こうして〈左手〉の緊急会議は終了した。

 全赦に対してどう動けばいいのか、そのための集まりであったが、有効な策は結局なにひとつ出なかった。
 ただ、『闇渡り』レオンの名は、〈左手〉の心に深く刻まれることとなる。


 もし、この日のことを当のレオンが知ったら、「いや、ぜんぜんそんなこと考えてないし。というか、面倒なことはするつもりもないから」と言ったであろう。

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