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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第2章 技国内乱編

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「そういえば、ロザーナさんは実家と折り合いが良くないって聞いたけど」
 僕がそう指摘すると、よく出来ましたという表情を浮かべた。

「そうね。卒業後は実家に帰らずに王都に残るつもりよ」
「どうしてまた?」

「イイ子でいることに疲れたのかしら。北部の町は恵まれていなくて、帰属意識を幼い頃から叩き込まれるのよね。そのせいで従順……悪く言えば、呪縛かしら。親の言いなりな淑女ができあがるわけ」

 ロザーナさんはそれに気づいたらしかった。

「でもあえて突っ込むけど、僕のパトロンになろうとしたんだよね」
 反則かもしれないが、直接聞いてみたかった。

「王都で凶状持ちの私を本気で選んでくれるわけないでしょ? ……と言っても、マイナスの状態から私を選んでくれるならば、実家に地中深くまで頭を下げてでも関係をとり戻すわよ。噂を知らなかったとはいえ、今でもこうして普通に接してくれるレオンくんには感謝しきれないわ。リンダさんもそう。対等に扱ってくれる、他のライバルたちと同じようにね」

 いい女だ。そう思った。
 年上だからだろうか。僕に無いものを持っている。

「そうだったんですか?」
「それにレオンくんに足りないものは分かっていたしね」
 ……ん? さっき僕が感じたことだろうか。

「それは経験の差ですか?」
「ううん、違うわ」
 違うらしい。なんだろ?

「それは一体……」
「レオンくんはまだ気づいていないだけ。でも必ず気づく。それまで言わないわよ」
 どうやら教えてくれないらしい。僕に足りないものって、何なんだ?

 その後もロザーナさんと歓談して過ごした。
「古代語の研究に生涯を捧げたいわね」
 帰りしな、そう決意を表明してみせたロザーナさんは輝いていた。



 四回目の顔合わせ会が終了した。

 リンダは欠席だが、ロザーナさんが目を光らせてくれたので、僕のところに寄ってくる人は少なかった。

 会が終わって寮に戻ると、珍しくアークもやってきた。
 一次会だけで戻ってくるのは珍しい。

「どうしたんだ? いつもはいろんなご令嬢と話が弾んでいるはずだろ?」
「たしかに今まではそうだったんだけど、ついに町に来てくれる人を見つけたんだ」

 アークは地元の軍に入ることを希望している。
 パトロンを呼び寄せることになるため、条件が折り合う候補者を探すのは難しい。

 とくに表面上はうなずいておいて、あとで反故にしてしまえばと考える人もいる。
 アークはそういう相手を慎重に避けていたのだが、どうやら今回で相手を射止めたらしい。
 いや、射止められたのか?

「そうか、良かったな。ついに見つけたのか」
「かなり遠回りをしたけど、その甲斐があったというわけさ。今度紹介させてくれ」

「ああ、その時は頼むよ。……だけど今日の顔合わせ会では、いつもと変わらなかったよな」

 アークがいろんな令嬢と楽しげに話している姿を見た。
 どこでそんな込み入った話をしたのだろうか。

「目星はついていたし、あとは頷いてくれるかどうかだけだったんだ。けど、交友関係を広げておいて損はないからね。竜操者はいつどこでどんな町に行くか分からないから、できるだけたくさんの人と顔を繋いでおくほうがいいんだよ」

「もしかして、顔合わせ会ってそういう意味も含まれている?」
「それはそうさ。同世代の代表どうしの集まりなんだから、いい機会だろ」

「どうりで年に五回もあると思った」
 五回は多すぎる。

 つまりパトロンを見つける以外にもいろいろあったわけだ。
 僕の場合、あまり意味がないけど。

「きみはまだパン屋を諦めてないのかい?」
「そうだね、できれば続けたいと思っているよ」

 それはもう、アークには繰り返し話した内容だった。

「その是非はおいといて、できるといいな」
「ああ、それが許される世界がくることを祈っているんだ」

 竜操者が戦わない世界。
 国家間の争いがなく、月魔獣のやってこない世界になったら、僕はどこぞの辺境で、店のとなりに竜をおいてパン屋を開きたい。

 そんなことは夢だと分かっているが。

「それでおれは、来月登録をしようと思うんだ」
「登録? パトロンのか?」

「そう。彼女もそれを望んでいるし」
「へえー」

 パトロンの登録は、本人だけでなく竜操者を縛る。
 竜を得るまでに登録するので、アークの決断は特別早いわけではない。

「登録するとしばらく変更は利かないだろ?」
「そうだね。変更もよほどの理由がないと認められない。でもおれは決めたんだ」

「なるほど。応援するよ」
「ありがとう」

 登録時にパトロンが一定金額を国に納める。結構な大金だと聞いた。
 それはそのまま竜の餌代になる。

 二回生になっても自由に竜に乗って出歩くことができないので、学院の竜舎で餌を与えることになる。

 そのための餌代をパトロンが前もって国に支払うのである。

「そういえば最後の顔合わせ会だけど、きみはもう選ぶ人は決めたのかい? もしかすると、頼みごとをするかもしれない」

「たぶん二人、いや三人だと思うけど、急にどうしたんだ?」

「今まで声をかけた人たちがいてね。そのフォローに全員を招待したいのだけど、おれには空きがなくってね」

「招待できるのは十人までだっけ?」
「そう。最大で十人。できたらキミに何人か頼めないかと思ってさ」

「そんなことなら別に構わないよ。僕は本当に誘う相手がいないし」
「ありがとう。あまりこういう頼みはしないほうがいいと思うんだが、最後だと思うとどうしてもね」

 アークは選ばなかった令嬢を蔑ろにしたいわけじゃないらしい。

「分かった。その時は言ってくれ」
「助かる」

 アークが手を差し出したので、僕たちは握手をした。
 アークとは、この先も長い付き合いになりそうな気がする。



 顔合わせ会が終わって日常が戻った。
 僕は相変わらず早朝はパン屋で働き、日中は学院で勉強するという生活を続けている。

 それなりに忙しい日々を過ごすうち、最後の顔合わせ会の招待者を選出する日が近づいた。

 僕はリンダとアンさん、そしてロザーナさん。他にもアークに頼まれた分を入れて、最大人数の十人の名前を書いて提出した。

 一年前ロザーナさんがやらかした、あの最後の顔合わせ会、それが十二月の十五日に行われる。


 もうすぐ十一月が終わる。


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