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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第2章 技国内乱編

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 四回目の顔合わせ会がもうすぐはじまる。

 今回はくじ引きが行われた。

 抽選と何が違うのかというと、くじ引きは学生が主導して行うのだという。

 あの広い講堂に希望者が集まり、順番にクジを引いていって、各学年百名ずつ。合計で三百名が選ばれた時点で終了。そういうシステムらしい。

 気合いでクジが左右されないことが証明されたのか、はたまた気合いが足らなかったのか、リンダは当たらなかった。

 ロザーナさんの動向は分からない。
 聞いてみようかと思ったけど、ロザーナさんについては、リンダが裏でなにやらやっているので、それが終わってからが良いだろう。


 十一月に入ってすぐ、アンさんが王都に戻ってきた。
 すでに内乱終結の噂は王都に届いている。

 大山猫の氏族が敗北し、保有戦力のほとんどを失ったことも一般に知れ渡りはじめた。
 僕は早速アンさんと会うことにした。

「クジに間に合わないなんて、とても残念ですわ」

 開口一番、アンさんはそんなことを言った。
 くじ引きの話が最初に出るとは思わなかった。

 兎の氏族がどうなったか、大怪我をしたお兄さんの容体とか、そういうのはいいのだろうか。
 僕が知らないことになっているので、言わないだけかもしれないが。

 もちろんこちらから話を振るようなこともしない。
 いつボロが出るとも限らないのだ。

「おかえりなさい、アンさん」
「ただいまですわ。レオンくんもおかわりなく、何よりです」

 アンさんと会う場所だが、今回は僕に指定させてほしいと伝えた。
 さすがに技国の重要人物が使う会館に連れて行かれると、生きた心地がしない。

 僕が指定したお店は、古風レトロな雰囲気のレストランだ。
 店内では、楽隊が静かに音楽を奏でてくれている。

 個室にしようかと思ったが、いきなりそういう店はどうかと思って、ここにしたのだ。
 と言っても、自分で探したわけではない。

 リンダにおすすめの店を聞いたら、「一度行った方がいいわよね」と、ついこのまえ連れて行かれた。
 だからここは二度目である。

「落ち着いた雰囲気のお店ですね。こういう感じのお店は、技国にはありませんですわ」
「ここは『無駄』にこだわったお店らしいので、竜国以外では流行らないでしょうね」

 広いスペースと、静かに奏でる楽隊。
 テーブルごとに給仕が付く。

 どれをとっても、「別になくてもいいよね」というものだったりする。

 それをあえてするのがここの美学らしい。
 合理性を重んじる技国では、「もったいない!」と客から文句が出るんじゃなかろうか。

「王都では兎の氏族が大勝したと噂されていますが、どうだったのでしょう」
 結果を知っていたが、さり気なく聞いてみた。
 ボロが出ないために情報を共有しておきたいのだ。

「そうですわね。おそらくですけど、その通りだと思います。ですが、決して一方的に勝ったわけではありません」
 言葉を選ぶように、アンさんは語りはじめた。

 アンさんのお兄さん、モーリスさんが怪我をしたこと。
 その怪我がいまだ治らず、今月行われる結婚式は延期になったことを話してくれた。

「こんな時ですから、慶事けいじを執り行って、嫌な記憶を払拭ふっしょくしたいのですけど……」

 お兄さんの怪我の回復の件もあるし、町には友人や親類を亡くした人もいる。
 いまだ喪に服している人も多いという。延期はその辺を配慮してのことだろう。

「先日、今回の内乱で亡くなった人の合同葬儀が執り行われました。ようやく一区切りつきましたが、戦乱の爪跡は、いまだ至るところにあります」

 それを目にする民の顔は晴れないという。

「今回は内乱という大きな出来事でしたし、延期もしょうがないですよ」

「そうですね。山羊の氏族も同じことを言ってくれました。ですが、準備のこともありますので、なるべく早く……年明けの一月中旬に行う予定で進めています」

 年が変われば、そう言った事にも抵抗がないらしい。
 そのため、細かい調整をいましているところだとか。

「レオンくんにも招待状を出しますので、絶対に来てください」
「分かりました……一月中旬というと、僕が竜を得た後ですね」

 竜迎えの儀は、一月七日と聞いている。
 一月の中旬といえば、僕が竜を得た直後になる。

「そうですわね。いま氏族内はいろいろ……いえ、これはレオンくんにお話しすることではないです」

 途中まで言いかけて、アンさんはかぶりを振った。ちょっと必死な顔だ。
 気になったが、そこは流すことにした。

 今日のアンさんは、最初から少し様子がおかしかった。
 やたらと元気だったり、途中で言いよどんだり。
 会話もずっと言葉を選んでいるような印象を受けた。

 まるで、口止めされて言えないことを多数抱えていて、どうしていいか判断が付かないような。

 そのかわり、内乱については、かなり詳しく教えてもらった。
 大山猫の氏族はもはや立て直すことは不可能だろうということ。

 このままいけば、婚姻によって強化された兎の氏族が、来年の技術競技会で序列一位を取りそうだということも話してくれた。

 序列一位。
 それはつまり、アンさんの住む都市が技国の首都になることだ。

「今回の顔合わせ会については残念ですけれども、十二月の……最後の顔合わせ会はぜひ招待してくださいませ」

 そう言ってアンさんは帰っていった。

 最後の顔合わせ会は、僕ら学院生が推薦することで出席者が決まる。
 王立学校の生徒を十人くらい推薦して良いらしい。

 僕の場合、交流がほとんどないので、アンさんとリンダくらいしか推薦できる人はいない。

 ロザーナさんも呼びたいのだが、どうなるか分からない。
 一応結婚の話は流れたとは聞いているが、このまま王立学校に留まるのかすら分かっていない。

 そんなことを考えながら寮に戻った。

 ふと思い出したが、今日アンさんは内乱で会った黒衣のこと、戦場でレオンくんと呼んだこと、そしてペンダントについて、最後まで言及しなかった。

「聞かれたら否定するつもりだったけど」

 別段、僕が女王陛下の〈影〉だと知られたからといって、その相手を殺さなければならないなんて物騒な掟はない。

 ただ、これからも女王陛下の〈影〉として生きるならば、そのことを知っている者は少しでも少ない方がいい。僕はそう思っている。

 確かめて否定されるのを恐れたのか。
 それはいくら考えても分からない。

 だから僕も話を振らないし、もう二度と黒衣の姿でアンさんの前に出ないようにする。
 アンさんもいつか、あれは勘違いだったのだと考える日が来るだろう。

 それは、そう遠くない日だと思う。

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