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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第2章 技国内乱編

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 僕が王都に戻ってから数日が過ぎた。
 十月も下旬だ。

 大山猫の氏族が兎の氏族の領地に攻め込んだという話は、すでに広まっている。

 そんな中、僕はいつものレストランでリンダと会った。

「兎の氏族ってアン先輩のところよね。大丈夫かしら」
 リンダの心配はもっともで、何も知らなければ僕だって心配しただろう。

「正確な情報は入ってこないからね。正直、どこまでが本当か分からないよね」
 軍事関連ならばなおさらだ。

 肝心の部分が秘匿されたりするので、噂ばかりが先行することも多い。
 今回もすでに都市は落ちたとか、小競り合いが続いているとか、いろんな話が飛び交っている。

「リンダのところに出入りしている商人からは話がないの?」
「わたしのところは北方面に強いのよ。南はだめ。情報が入らないわ」

 なるほど、そういえば北で取れる木材を扱っていると以前言っていた。

「ならもうしばらく待った方がいいよね。噂に踊らされてもいいことないし」
「それはそうなんだけどね……でもあなたは随分落ち着いているわね」

「アンさんのことは心配だけど、ここからじゃ、何もできないから」
 本当はもう決着がついていると言いたいのだが、そうするとなぜ僕がそれを知っているのかと追求されてしまう。なので言えない。

「まあね。……そういえば、ハルイさんが病気で実家に戻ったって聞いたけど」

 さすがリンダ。情報が早い。
 こっそりパン屋に行っているらしいので、そこから聞いたのだろうけど。

「あれは誤報だったんで、父さんは元気みたい。小麦の値が上がったので、直接商国に買い付けに行ったんだ。ずっと店にいなかったんで、周りの人が勘違いしたみたい」

 病気だという噂が広がって、だったら学院に知らせなきゃいけないって先走った者がいたらしい。そんな説明をリンダにした。

「そう。ハルイさんは元気なのね」

「そうみたいだよ。僕も途中の町で聞いて、勘違いに気づいたんだ。そのまま王都に戻ってきたんで、実際に会ってはいないけど」

「会わなくてよかったの?」
「父さんは商国に行っていたからね」

「そうだったわね」
「だから僕が使ったのは、往復七日程度かな。学院の授業を休んでいるわけだし、とてもじゃないけど、家まで行けないよ」

 僕がそう説明したら、リンダは納得してくれた。
 これで下手に追求されることもないだろう。
 七日くらいの欠席で、技国に行っていたとは考えないと思う。

 さてそのアンさんだが、まだ王立学校には出てきていない。
 王都までは飛竜を使うので、すぐのはずである。
 なのでまだ技国にいると考えられる。

「さて、次の顔合わせ会は十一月よ」
「そうだね。リンダは出席するの?」

 顔合わせ会は王立学校との合同行事。
 僕ら学院生は参加必須で、リンダたちは希望制だ。

 そして希望しても、各学年百名、全体で三百名までしか許されない。
 リンダいわく、毎回倍率が厳しいらしい。

「今回はくじ引きね。希望者が集まってクジを引いていくの。当たりクジの交換は不可。先輩方に言わせると、クジ箱の前で静かなバトルが展開されるらしいわ」

 引いた順番で当たりやすいとかはないらしい。
 だが、ハズレが続くと、そろそろ当たりが出るだろうと牽制しあうのだとか。
 意味が分からない。

 前回の顔合わせ会でリンダは顔が売れたので、今回は余裕らしい。
 それでも気合いを入れてクジを引くだろう。
 たぶんだが、気合いでも当たりハズレは決まらないと思う。

「それはそうとロザーナ先輩なのだけど」
「気になっていたんだ。どうなったの?」

「あなたが帰省している間に進展があったわ。依頼した組織はしっかりと仕事をしてくれたみたい」
「へえ、どんな?」

 きっと僕が調べた内容だろう。ただし、量が多かったのですべてを知らせることはしなかったと思う。世に出せない情報もあったし。

「思った通り不正が見つかったわ。小さく商いをしている人たちに近づいていろいろ融通をつけるのね。で、これまでの関係を絶たせてから乗っ取りにかかるわけ。もちろん抵抗するけど資本が違うでしょ」

「そうだね。商国商会がバックについているんじゃ、小さな商会は戦いにもならないだろうね」
「孤立無援の状態にさせといて、別の商会が近づくのよ。話をつけるからって……見返りも要らないからって」

「ずいぶん都合のいい話だよね、それ」
「怪しいわよね。実際だれも信じないんだけど、とくに契約しているわけでもないし、勝手に動くならばとそのままにさせておくと、少しして話がついたって連絡がいくわけ。これまで通りですよ、何も心配ありませんよって……ただ、商国商会に加入した方がいいですね、そうしないとまた同じ事になりますから」

 そうやって身内に引き込むらしい。第三者を介した自作自演だ。
 一旦入ってしまえばあとは身内の問題になるので、話は外へ漏れない。
 最終的には大きな商会の、子飼いのような扱いに落とされてしまうらしい。

「なるほど……表には出ないやり方だよね」
「契約で縛ってしまうのね。その追い込みのかけ方がまた巧妙だったりするのね。破落戸ごろつきを使ったり、商品を届かなくさせたり、取引先に圧力をかけたり……そうやって傘下を増やしているわけ」

 リンダが言うには実行過程で法を犯しているだけでなく、そういう商会を追い込むやり方は、竜国で禁止されているのだとか。
 近づいて相手をボロボロにするまで離さず、その地域を手に入れるためにすべての商会を巻き込むため、『野焼き』と言われている。

 焼け野原を作り、そこへ大資本の商国商会が入り込むのだ。

「パパに頼んで、匿名で告発してもらったわ。ウチの商会の名前は出ていないし、大丈夫だと思う」
「そうか。効果はあった?」

「動きはあったわね。ロザーナ先輩にも聞いたけど、スルヌフは商国に戻ったわ。結婚は白紙? とりあえず話はなくなったみたい」
「それは良かった。そんな悪徳商人のもとに嫁ぐんじゃ、ロザーナさんも可哀想だよ」

「まあ、ほとぼりが冷めるまで自国にこもっているだけだと思うわ。影響力が大きすぎるから実際に罪に問えるかどうか分からないし。でも、一度でも捕まれば信用を落とすから、それを嫌って逃げたのね」

 ロザーナさんとの結婚はスルヌフが竜国に来てからという話だった。
 いま商国にいるのならば、しばらくは安泰だろう。

「でもまだロザーナさんの問題は解決していないよね」
「それについては、いま鋭意努力中よ」

 リンダが人の悪い笑みを浮かべた。
 なにか企んでいるのか?

 突っ込んで聞いてみたら、「努力中だからまだだめ」と言われた。
 結果が出たら教えてくれるらしい。

 最後に少しだけ謎を残して、僕とリンダの話は終わった。


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