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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第2章 技国内乱編

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「ハルイは駆動歩兵を転ばしたのよね」
「はい。そう聞いています」

 駆動歩兵は段差に弱い。といっても普段ならばうまく回避できるが、全力疾走しつつ器用に避けられるほどの柔軟性はない。

 父さんがしたのは、駆動歩兵の足元に『無色の盾』を出現させたこと。
 それだけで最前列の駆動歩兵が軒並みひっくり返った。

「溝を掘ろうと思ったのよね。この策はたぶん使えなくなるわね」

 幾重にも溝を掘って、駆動歩兵が進入できる路を一箇所に指定する。
 敵は罠と分かっていても進まざるをえない。

 やってくる場所さえ決めてしまえば竜でなくとも対処はできる。
 技国の駆動歩兵が攻めて来た時に使う策はいくつも考えたが、そのどれもが駆動歩兵の弱点を想定したものだったらしい。

 今回父さんがやった作戦で、『転ばし』や『溝掘り』は使えなくなった。
 女王陛下いわく、「何年かしたら、克服してくるわよ」だそうだ。

 別の策を考えなくてはいけないらしい。

「まあいいわ。戦略部に何か考えさせるから。……それで竜操者の利便性に着目したんですって?」
「はい。実際に運用したのが大きかったようです」

「それは半々ね」
 うん、分からない。

 女王陛下いわく、竜紋限界に居住する他国人が増えると税収が上がるし、経済が活性化する。
 竜紋が現れるのは運だから、それを差し引いてもいいことだと判断したらしい。

「それとディオン氏族長は、僕の正体に気づいたかもしれません。あまりにタイミングが良すぎたので」

「そう。いま兎の氏族とは良好な関係だから別にいいわ。それよりアンネロッタはどう?」
「はっ? どうとは……どういう意味でしょうか」

「こっちに呼べて?」
「いえ、まだ王立学校の方へ戻るのは難しいようです」

「バカねえ。違うわよ」
「はっ?」

「まあいいわ。まだ早いものね」
「はあ」
 戦いの後始末があるから、アンさんはこっちに来るのはまだ先になるらしい。たしかにまだ早い。

「じゃ、そのうちね」
 その言葉で女王陛下への報告は終わった。

 僕は一礼すると、闇に溶けた。
 そのとき、〈左手〉たちが驚いた顔をしているのが目に入った。
 魔道封じの結界が張ってあったのだろう。


 気づかなかったけど。

               ○

 時間は遡り、兎の氏族の本拠地。
 その奥深くにある一室。

 室内には、ディオン氏族長と孫娘のアンネロッタだけがいる。

諜報ちょうほう部隊に何度も確認を取ったが、竜の学院内部を探ることは不可能だ」
「そうですか……」

防諜ぼうちょう部隊の方は、竜国の〈影〉の名を出すと半泣きになるしな。ちなみに諜報部隊に〈影〉を探らせたことはない」

 アンネロッタは肩を落とした。

「ではあの時のことは調べられないのですね」
「未確認とするしかあるまい」

「あれは確かにレオンくんに渡したペンダントでした」

「難しいな。そう思わせることも考えられる。竜国の女王はそういうことを平気でするからのう」

 ディオン氏族長はゆっくりと噛み砕くように説明した。

 アンネロッタが兎の氏族と竜国との友好、それと本人が見聞を広める意味もあって竜国に留学した。
 これが表向きの理由である。もちろん、他にも思惑がある。

 兎の氏族としては、アンネロッタの器量ならば、あわよくば一人くらい竜操者を自国に連れ帰れるかもしれないと皮算用した。

 反対に竜国は、アンネロッタを取り込むメリットがある。
 一番いいのはアンネロッタを貴族に嫁がせること。
 次期氏族長の娘となれば、その価値は計り知れない。

 この両者の思惑はもちろん水面下でしか行われない。
 だからこそここ二年間、虚実入り混じった駆け引きが行われてきた。

「学院にいるレオン竜操者は、わしは知らん。だから敢えてそう誤認させたと考えることもできる。虚は実、実は虚として都合のよい幻を見せられているのかもしれん。目で見たものすべてが真実とは限らんからな」

「ですが、おじいさま……」
「レオンという者が竜操者で〈影〉だった場合と、おまえに対する懐柔策。これは正直半々くらいではないかと思っている。だからこの件は動いてはならん」

「どうしてですの?」

「これが策だった場合、こちらが動けば動くほど、虚実が分からなくなる。与えられる情報が増えてもそれがすべて信用できないならば、かえって混乱する。分かるな」

「はい。それは分かります」
「おまえは知らなかった、見なかった……そのくらいでちょうどよい」

「………………はい」
「不満そうじゃな」

「正直……はい」
「ならば、わしの名代として竜国を公式訪問するがよい。今回の件のお礼がまだだしな」

「えっ!? それはお父様の役目ですよね。……お兄さまですらまだ他国へ公式訪問はしていませんけれども」

「そりゃそうだ。わしは軽々しく名代を与えたりせんからの。だが、公式訪問ならばアレがあるじゃろ?」
「アレ……っ! 対話録たいわろくですか」

「うむ。話し合った内容は、双方の書記がすべて筆記する。あとでいい逃れが出来ないようにな。だからその場で問いただしてみるがよい」

「お礼を言う場で……でしょうか」
「雑談くらいはするじゃろ。どう話を持っていくかは、おまえの腕の見せ所じゃ。相手は女王だがな」

「……分かりました。そのお役目、しっかりと果たしてまいります」
「うむ」

 決意を込めた瞳に、ディオン氏族長は満足気に頷いた。



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