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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第2章 技国内乱編

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 王都に戻ってきた僕には、やることがいっぱいある。
 王宮の竜舎で竜操者と別れて、そのまま闇に溶ける。

 女王陛下に父さんの分まで報告しなくてはならない。

「父さんは報告を面倒臭がったのか、女王陛下に会いたくなかったのか」

 女王陛下が結婚をしたのを機に〈左手〉筆頭を止めて、パン屋の修業。
 その後にソールの町に行ったようだしな。
 行ったというか、母さんに連れて行かれたらしいが……。

 失恋……とはちょっと違うが、そのまま王都にいたくなかったのではないかと僕が勝手に思っている。

 というわけで、今回の報告だ。
 幸いいまは夜なので、直接行ってしまおう。

全赦ぜんしゃ』をもらっているので、取り次ぎの面倒がなくていいのが楽だ。

 気配を辿っていけば、女王陛下はテラスに出ていた。
 ひとりでグラスを傾けている。いや、〈左手〉がふたり傍で控えているが。

「ただいま戻りました」

 気配を感じなかったのだろう。〈左手〉のふたりが吃驚している。

「おかえり、レオン。首尾はどうだったのかしら」
「大山猫の氏族が駆動歩兵をすべて動員させて攻め入りました。兎の氏族の倍近くいましたので、父と僕が介入せざるを得ませんでした」

「そう。ちゃんとやったのかしら?」
「全滅させました」

 報告内容を聞いて、〈左手〉がさらに驚く。

「それはよかった。戦史報告は後で届くと思うけど……そうね、レオンから直接聞きたいわ」
 後で届くのか。きっと戦況監視用に〈影〉を派遣していたんだろうな。〈右足〉かな。

「それではかいつまんでですが、お話し致します」

 兎の氏族に着いてからの出来事を、僕はダイジェストで語った。

 とくに時間を割いたのは、駆動歩兵の性能。
 公表されている情報と僕からの報告で、おおよそのが分かるだろうし。

 それと、父さんの無双も一応入れておいた。女王陛下がどう反応するか分からないが。

「大山猫の氏族は大変なことをしたわね」
 商国を通過したことを言っているのだろう。

「あとで商国との取り引きで苦労しそうですね」

「違うわよ。本拠地に駆動歩兵を残さないで全軍で出てきたこと。あっちに派遣した竜操者からも同じ情報が入っているわ。これで妾が攻めたらどうしたのかしら」

 女王陛下がコロコロと笑う。
 そっか、竜操者を派遣してプレッシャーをかけていると言っていたし、情報は入っていたのか。
 駆動歩兵が本拠地にいなければ、数十騎の竜で攻め落とせるだろう。

 竜国は来ないと踏んで賭けに出たのか。だとすれば最低だ。
 自分や民の命を賭けるような支配者は、碌なもんじゃない。

「攻めようと考えたのでしょうか」
 ちょっと興味があって聞いてみた。多少不敬だが、『全赦』だしいいだろう。

「あそこ落ち目だし、要らないわ。それに向こうにはハルイが行っていたしね」

 父さんが向こう――兎の氏族の方にいたから?
 つまり、向かった敵は全滅するだろうと考えていたわけか。

 大山猫の氏族の本拠地を襲いたければ、もういつでも可能だと。

 なるほど。
「それで大変なことをした……ですか」

 ようやく意味が分かった。出した数だけ失うんだから、被害は大きいよな。

「来年の技術競技会よりも切実な問題ができてしまったわね」
 大山猫の氏族の駆動歩兵が全滅。兵も多数が未帰還となった。

 今後は何年もかけて軍備を揃えていかなければならない。
 たしかにやっちまった感があるが、僕や父さんがいなければそれも成功したんじゃなかろうか。

 いや、だから女王陛下は派遣したのか。
 大山猫の氏族の野望をついえさせるために。

 恐ろしい人だ。

「でも、そうね。ハルイはやり過ぎたわね」
 それは何に対してだろうか。また裏があるのか?

 普通に考えれば、殺しすぎたと女王陛下が言っているのだが、どうもそうではないようだ。

「やりすぎたとは、戦場でのことでしょうか」

「技国の戦法が変わるわね」
「…………はっ?」
 ちょっと話に付いていけない。僕が女王陛下の思考を読める日が来るのだろうか。

「数年のうちに駆動歩兵を改良してくるわ」

 女王陛下の話はよくとぶ。
 付いていくのがやっとだが、時々こうして分からない時がある。

 僕は女王陛下に説明を求めた。
 分からなければ聞くしかない。

 技国の駆動歩兵にはいくつか弱点がある。
 ひとつが連続駆動時間の短さ。

 これは戦闘時に性能をフルに使うのでどうしようもない。 
 そのため、戦いの最初から最後まで前線に出すという戦法が採れなくなる。

 もうひとつが、故障のしやすさである。
 メンテナンスは必須で、長期使用の際に部品の交換、しかもかなり貴重な物資を消費しなければならない。

 修理には専用の技師が必要で、これまた運用に制限がかかる。
 馬車で何日もかかるような距離だと、荷台に積んで移動させるのが一般的となっている。
 メンテナンスが大変なため、駆動歩兵で長距離を移動することはない。

 女王陛下が言うには、技術の革新はいつか現れる。
 連続使用か、メンテナンスの頻度減少のどちらかは実現するかもしれない。

 すでにそれを見越して、戦略をたてているのだという。

「もしその弱点が両方とも克服されたらどうなるのでしょう」
「それが分かった時点で、実装される前に竜国が総力を結集して攻めるわよ」

 なにを当たり前のことを言っているのだと、女王陛下は呆れ顔をした。

 二つの弱点が克服されたら、駆動歩兵は大陸を制するらしい。
 乗ったまま攻め入り、町や村を蹂躙できるのだから、対抗する術がないのだという。

 たしかにずっと乗ったままで修理もいらないとなれば、ただの兵に対抗する術はない。

 女王陛下が考えているのは、弱点のどちらかが克服されることで、両方ではないらしい。

「それでは、父のアレで戦法が変わるというのは、どういった意味だったのでしょう」
 まだその答えを聞いていなかった。
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