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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第2章 技国内乱編

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 帰りの旅は順調だった。
 ソールの町に差し掛かったとき、父さんは「じゃあな」とだけ言い残し、飛竜の上から飛び降りてしまった。
 もちろん、飛行中である。

「えええっ!?」

 かなりの高度から身をおどらせた父さんに、竜操者が驚いた声をあげる。
 途中で『無色の盾』で勢いを殺せるから、どの高さからでも問題ないのだけど、知らない人が見たら、飛び降り自殺したとしか思えない。

「……しかし、危なかったな」
 氏族長が引き留めるのも構わず出てきたけど、結果的にあれでよかった。

 竜操者の人に聞いたが、どうやら今回の内乱で飛竜はかなり重宝されたらしい。

「いまこの仔、お腹いっぱいですよ」

 帰るときにそう言っていたので、何の話かと思ったら、美味しい肉をたらふく食わせてもらったそうな。

 僕らを運ぶ目的があったものの、表向きは女王陛下からの使者。
 そして急あらば異変を竜国に伝える役目も負っていた。

 と言っても、なにもなければ暇を持て余す。
 さらに、砦を含めた戦況がどうなっているか、兎の氏族の人たちはまったく分かっていない。
 危険があれば竜国に知らせる役目があるから、情報が入らないのはマズイ。

 ――ちょっと見てきましょうか?

 そう言ったかどうか知らないが、女王陛下に詳しい報告のためにも、戦場の様子を見に飛び立ったのだ。

 僕も何度か上空を飛翔する竜を見ている。
 あまりに高い場所を飛んでいるので、気づいた人がいたか分からないが。

 そして戻ってくるたびに、刻々と変わる戦況を氏族に伝えたそうな。

 とくに迎撃に出た氏族長の息子が負傷したというニュースは、真っ先に伝えたらしい。
 かなり後になって伝令がやって来たため、防衛を任されていた将軍は「遅いッ!」と伝令を怒鳴りつけたそうな。
 大事な情報を敵に捕まらずに届けてそれでは浮かばれないが、それだけ飛竜がもたらす情報は早くそして正確なのだ。

 ちなみにその頃はもう、飛竜は砦を襲わんとする敵の集団を見つけて戻ってくる最中だった。
 伝令の直後に、無事に砦に入ったことを伝えたら、大層感謝されたとか。

 結局調子に乗って、何往復もして情報を正確に伝えたようだ。

 ではその感謝をどう表せばいいか。
 竜操者は女王陛下の名代であるため、物は受け取れない。
 代わりに、飛竜に大量の餌が与えられたらしい。ご褒美である。

 同時に、兎の氏族内では「竜って便利だな」という話が広がったとか。
「一騎ほしいな」というのは、すぐにでもたどり着く結論である。

 兎の氏族内に竜はいない。
 数十年前の内乱のとき、当時氏族と協力関係にあった竜操者は、根こそぎ討ち取られてしまった。

 あの内乱では真っ先に竜操者を狙われたのだが、それにはちゃんと理由があったのだ。
 長い年月の間に、みなそのことを忘れていたらしい。

 そうなれば、話は竜国に留学中の孫娘に移る。
「どうなんだ? 候補はいるのか? 連れてこられるか? やっぱり無理か?」
 と聞かれることになる。

 アンさんは、そこで否定すればいいものを「実は……」と語り出したりするものだから、話がややこしくなる。

「なんと、それはめでたい」
 と先走った者が数名。

 竜操者に「学院生でレオンという人物がいるそうだが、知っているかね」そう聞いてくるのが数名。

「では大々的に迎え入れようではないか。たしか規定では婿入りの場合は……」と氏族に迎え入れようと考えるのが多数。
 内乱の後始末と平行してそんな話が交わされていた。

 もちろん僕も気づいていた。
 そんな状況の中で、氏族長と世間話をしたいとは思わない。そのため、話の途中で切り上げて、早々に退散してきたのだ。

 しかもなんだか僕は疑われているし。氏族長にバレているかな? 可能性は高いと思う。

 もうひとつの問題は、父さんと僕の姿が戦場で戦った姿を多くの人に見られていることだ。
 女王陛下の〈影〉の噂がこれから広がるかもしれない。

 この辺はしょうがなかったと思う。
 僕らがやらなければ、氏族がひとつ滅亡していたはずだ。
 それが今後の両国の関係を考えると、何としても避けなければならない事態なのだから。

 結局のところ、今回の戦いで変わったことは三つ。

 一つ目は〈影〉の存在……戦場での強さが知られたこと。
 二つ目は大山猫の氏族が自滅したこと。今後の動向に注目である。
 三つ目は竜操者の重要性に気づいたこと。

 技国がこれまで竜操者を脅威に感じていたのは知っているが、どのくらいやっかいな存在なのかを理解していなかったように思う。

 竜国では馬車で数日かかる情報も、竜さえいればその日のうちに伝達されるし、戦えば最強である竜の実力は、みなしっかりと理解している。

「なに? 国境付近で敵が動き出したかもしれない? 竜でちょっと見てきてくれ」
 そんなのは普通におこりえる。

 だからこそ、どの町の領主も『一騎でもいいから』と竜操者を抱えたがるのだ。

 隣の領主が竜操者を個人で持っていると、嫉妬したりする。
『来年こそは』と、パトロンになるため本気を出す。

「アンさんは後始末でしばらくは戻れないだろうし。こっちも辻褄合わせをしないとな」

 王都が見えて来た頃に、僕はそんなことを思った。

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