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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第2章 技国内乱編

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 人生は得てして、思い通りにいかないものである。
 僕の短い経験ですら、そう思える。

 今回、攻めた側の大山猫の氏族もまた、同じ思いを抱いていることだろう。

 今回の攻防を振り返ってみる。
 敵味方双方とも、成功も失敗もしている。

 それでも結果から言うと、大山猫の氏族の侵攻は失敗に終わった。大失敗だ。
 兎の氏族の勝利である。

 驚いたことに、大山猫の氏族はすべての駆動歩兵をこの戦いに投入してきた。
 自領の守りはいいのだろうか。

 竜操者が見たという森の中にいた兵。
 あれはやはり森を突っ切る道を探していたようだ。
 どうやっても通過は不可能なので、早々に諦めたらしい。

 次に目をつけたのが、商国である。
 兎の氏族に知られないように駆動歩兵を移動させるには、商国内を通過するしかない。

 もちろん商国はそれを許さない。自国内で軍事的行動をさせるわけはない。

 そこで交渉である。通行を認めるかわりに便宜を図る。金銭も供出する。
 情報も渡すし、わずかながら技国の機密も開示する。

 それはもうなりふり構わない動きで、なんとか通行許可をもぎ取ったようである。
 つまり本拠地を襲った駆動歩兵隊は、兎の氏族の領土を大きく商国側から迂回してきたのだった。
 気づかないわけだ。

 ではなぜ、そうまでして大山猫の氏族が必死だったのか。
 長年、技国の首都として君臨していた反動で、信用による借金が膨れ上がっていたらしい。
 他の氏族からすれば、ありえないほど借金額が多いそうだ。

 いつか首都から陥落する日が来る。それはもう自明であるのだから止めればいいのにと思うが、本人たちは「まだ大丈夫」、「まだ行ける」と思うらしい。

 結果、これまでの借金が払いきれない額となり、首都から転落すればもう二度と這い上がれないばかりか、氏族総出で民から吊しあげられることになりそうらしかった。

 さらに悪いことに、ここへ来て鴎の氏族が距離をとりはじめ、兎の氏族と山羊の氏族の婚姻話まで出てきた。
 これはもう後が無いということで、次の首都となりそうな兎の氏族へ攻め入ることに決めたらしい。

 今ならばまだ勝てる。いや、今しか勝てない。これが最後のチャンスだ。
 戦力差からも、先制すれば勝利は明白なはずだった。

 たしかに僕と父さんが加勢しなかった場合、どう転んでいたか分からない。
 アンさんとそのお兄さんの命はなかったと思うし、本拠地が陥落していた可能性も高い。

 もし兎の氏族が潰えれば、同盟を結んでいる孔雀の氏族は当然のごとく衰退する。
 唯一のライバルは、同盟を結んでいる山羊と鳩の氏族だが、序列五位と七位ならば、勝算は充分にあった。

 そうなれば、距離を取っている鴎の氏族も再び戻ってくるだろう。そういう読みがあったようだ。

 この辺は、投降した将から聞いた話である。

 本拠地を襲った駆動歩兵たちだが、いろいろと誤算があったようだ。
 作戦では、砦を攻める前に兎の氏族の動きがあると予想していた。

 兎の氏族の本拠地から多数の駆動歩兵が砦に向かえば、守りの薄い本拠地を急襲できる。
 少数ならば背後から遅い、撃破した上で砦を挟撃するつもりでいたようだ。

 増援の数によって、進軍を襲うか、本拠地を直接狙うかを決めるのは正しい。

 だが、一向に兎の氏族は動く気配がない。
 このままでは砦に向けて、総攻撃が始まってしまう。

 商国を通ってきたゆえに、連携し動きはできない。
 別働隊はアルフィの町を落とし、いまは総攻撃の準備をしている。
 入ってきた連絡はそれが最後だった。

 ギリギリまで待っても兎の氏族が動かなかったので、砦と本拠地の同時攻撃を開始したようだ。

 たしかに、砦に集まった勢力は少なかった。駆動歩兵隊は、アンさんたちを入れた三部隊だった。
 ディオン氏族長は、あれで充分と思ったのだろう。

 迎撃に出した歩兵と駆動歩兵の中で、やたらと強い歩兵の集団がいた。
 アンさんの兄モーリスさんが率いる一団だ。

 犠牲を出しつつも戦っているうちに、あれが敵の氏族の一員であることがわかり、急遽集中して攻撃することにした。
 氏族を攻撃する優先度は、かなり高く設定されていたようだ。

 一部を残し、モーリスさんを追った者たちは、砦から来た敵の援軍と遭遇する。アンさんたちだ。
 だが、ここで臆するわけにはいかない。

 数で勝っていたことで、包囲に成功した。あとは潰すだけという時に僕が現れた。

 結局、砦の方は父さんが無双し、全滅。
 アンさんたちを追った者もほとんどが帰ってこない。
 本拠地には多くの駆動歩兵が残っていたことで、作戦は失敗したと判断した。

 問題は、生き残った兵と将である。
 兎の氏族の本拠地を攻めたのだ。

 ここから遠い自領まで帰れるはずもない。
 商国は通れず、敵の勢力圏内をずっと移動しなければならないのだ。

 本拠地を攻めていた敵の集団は、万事休すと観念して投降した。

 それが今回の戦いの概要である。


 ちなみにその話をしてくれたのは、ディオン氏族長である。
 氏族の者に後始末を任せてしまったらしく、姿を現した僕らに喜々として説明してくれた。

「では僕らは帰りますので」
「なに? まだ良いではないか。つもる話でも……」

 なにか面倒な用事を言いつけられる前に、僕と父さんは姿を消した。
 僕らは竜舎へ行き、竜に乗って国へ帰るのだ。


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