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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第1章 魔国蠢動編

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「どうかしら?」

「…………行きました。気配はありません」

「そう。不満そうね」
「…………」

「いいわよ。遠慮無く言ってちょうだい」

 サヴァーヌ女王が促すと、〈左手〉の中で一番の年長の者が口を開いた。
 名をヒフという。

全赦ぜんしゃはやり過ぎだと考えます」

「あなた達からしたら、そうね。でも、レオンが本気になったら、意味がないわよ」
「それでもです」

 女王から全赦が与えられたレオンは、武器の所持、魔道の使用はおろか、女王の前で剣を抜き、斬りかかったとしても許される。

 女王の制止がなければ〈左手〉は動けない。
 実際に傷つけない限り、その行為すべてが不問とされる。

 つまり、理由の如何にかかわらず、実害を与えない限り、すべての行為を許可され、その責を問われない。

「ハチナ、この部屋の札、すぐに確認してちょうだい」
「かしこまりました」

〈影〉のひとりが、額縁や絨毯の裏を覗き、花瓶の下を見る。

「確認しました。異常ありません」
「これはどういうことかしら、ハチナ」

「分かりません。部屋全体に、魔道行使を阻害する結界を何重にもかけております。それらが一斉に仕事をしなかったとは考えられません」

「札の効力については?」
「毎日、正常に動作することは確認済みでございます。この部屋を使用する直前にも確認しました」

 ハチナはひどく不可解そうな顔をしている。
「ヒフはこの理由、分かるわよね」

 最初に口を開いた老人が答える。
「札を作成した術者を遥かに超える魔道の場合、札の力では魔道の行使を止めることはできません」

「そういうこと。ちなみにこれは、彼の父親もそうだったわ」
 その女王のひと言で、〈左手〉の面々は、一様に驚きの表情を作る。

「あの『一落いちらく』がでしょうか? 魔道使いとは聞いておりましたが、それほど……」

「そうよ。でもいまは『死神』って呼ばれているのよね」
「はい」

「だったら、そう呼んであげた方がいいわね。あなた達の先輩なんだから」
「そのように致します」

『死神』と呼ばれたレオンの父は昔、サヴァーヌ王女・・の〈左手〉であった。
 先代ジャハル王の御世のことである。



 ジャハル王には息子と娘がひとりずついた。
 18歳になるジルベルトと、14歳になったばかりのサヴァーヌである。

「妹に竜紋りゅうもんが現れた。すぐに排除せよ」

 ある日、兄のジルベルトは、まだ14歳になったばかりの少女を危険視し、魔国で活動中の暗殺者集団を雇った。

 数日後、サヴァーヌの前に暗殺者が現れた。
 殺しに来たのは、弱冠15歳のハルイである。

 サヴァーヌの寝所に忍び込んだハルイは、ついうっかり王女に一目惚れしてしまった。

 王女の私室の様子が何かおかしいと、王の〈左手〉向かった頃には、ハルイはすでに忠誠を誓った後だった。

「身辺整理をしてきます」

 そう言い残し、サヴァーヌの元を離れたハルイは、十日後、ひょっこりと現れた。

「どうだったのかしら?」
「すべて済みました」
「そう」

 こうしてハルイは、サヴァーヌ個人に忠誠を誓う〈影〉として生きることになった。

 ハルイが姿をくらました間に、サヴァーヌの兄ジルベルトが事故死している。
 見晴らしのよい丘陵地帯へ遠乗りに出かけ、落馬したのである。

 なにかに驚いた馬が走りだし、運悪く窪地に前足を取られ、ジルベルトが馬から投げ出される格好となった。

 ジルベルトは首から変な姿勢で落ちたことで、頚椎けいついを骨折。
 その場で死亡が確認された。

 不審な点はない。
 それでもジャハル王は、サヴァーヌを呼び出し、釘を刺すのを忘れなかった。

 その日の夜、ジャハル王が寝苦しさに目を覚ますと、首の所に二本の剣が交差させてベッドに突き刺してあった。

 動けば首が切れる。そんな絶妙な位置に二本の剣が刺さっていた。
 目的はいわずもがな。警告である。

 ジャハル王は冷や汗をかきつつ、〈左手〉を呼んだ。
 王の近辺を守護する〈左手〉は、大変恐縮しつつ、警備に異常がなかったことを告げた。

「ではいったい誰が?」

 誰が命じたのかは分かっている。
 分かりすぎている。

 だがどうやって忍び込んだ?
 そもそも誰が実行したのか?

 犯人探しはできない。
 だれにも気づかれず王の寝所に入り込める者がいる。

 そして警告の意味。
 事を荒立てては、自らの首を絞めることになる。

「我が手の者では有りません」

 王の〈左手〉はそれだけ言った。いや、それしか言えなかった。

「他言を禁ず」
「ハハッ!」

 王の〈影〉を出し抜く者とは敵対できない。
 それがすぐに分かるだけ、王は聡明であった。

 翌年、無事竜操者となったサヴァーヌを見届けたのち、ジャハル王は隠居している。

 当時、ジャハル王の〈左手〉筆頭であったヒフが、新たに女王となったサヴァーヌに仕えたとき、はじめてハルイと会っている。

「ヒフの方が長いとは思うけど、ハルイの下についてね。ハルイ、ヒフのこと知っているかしら」

 その言葉にも驚いたが、女王のかたわらにたたずむハルイにヒフはひどく驚かされた。

「いつも見ておりましたので、問題ありません」

 王の〈影〉として仕え、人前には決して姿を現さなかったヒフをいつも見ている存在。
 この出会いだけで、ヒフはすべて悟った。

 サヴァーヌ女王は、〈影〉との雑談を楽しむ。
 ハルイをからかって遊ぶことも珍しくない。

 ヒフが見ても、ふたりの関係に気安さが見て取れた。
 当然、ハルイを危険視し、ヒフはできるだけ情報を集めた。

 その中で、ハルイが女王暗殺に赴き、その場で一目惚れした経緯を知ることができた。
『一落』、つまりひと目で恋に落ちた暗殺者、それがハルイであった。

 そのハルイの息子が、16歳の若さで『闇渡り』のふたつ名を持ち、王都にやってきた。
 それも竜紋を携えてである。

 ハルイの息子レオンは、女王陛下の名のもとに全赦を賜った。
 これが何を意味するのか、ヒフには痛いほど分かった。

「……我が部隊、我が力では、あの若造すら止める力がないのか」
 それはひどくヒフを落ち込ませた。

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