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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第2章 技国内乱編

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 林という限られた戦場。
 逃げるアンさん、追いかける敵、それを阻止するために壁となった味方たち。

 木々が密集していることで、今度はこっちが有利になった。
 アンさんが遠くへ逃げる時間を稼ぐ。

 この互いに身動きが難しい戦場は、おあつらえ向きだ。
 なにしろ、数の優位は関係ないのだ。

 そして兎の氏族の士気は高い。

 なぜなら、アンさんは怪我した人を抱えて走り去っている。
 何をおいても助けたい人を抱えているのだ。
 アンさんは決して立ち止まらないだろう。諦めないだろう。

 林の中に残ったアンさんの部下たちはそれを知っている。

 自分たちの主人、上官、敬愛する人。それを逃がすために戦うのだ。
 臆しているわけにはいかない。敵の数が多かろうが関係ない。

 一人も通さない、そんな意気込みが見てとれる。



 さて僕はというと、ここで駆動歩兵の数を減らすために、援護射撃をしておく。
 やり方は簡単。いつもの処理作業だ。

 僕は戦場から離れたところへ姿を現した。
 木々が邪魔になって、だれも僕には気つかない。

 このアドバンテージを有効に使わせてもらおう。
 僕は『闇刀』で、次々と駆動歩兵を無力化していく。

 彼らはなにが起きたか分かっていない。
 気づいたら斬り裂かれているのだ。

 ここが死地とは知らず、次々と林に入ってくる駆動歩兵。
 それをことごとく無力化する。

 なんだ、調子がいいじゃないか。
 最近魔道で戦うことが多かったせいか、発動する速度も威力も上がった気がする。

「距離も伸びたかもしれないな」

 習熟するうちに魔道は徐々に強化されていくと父さんが言っていたが、それかもしれない。

 すでに今だけで二十を越える駆動歩兵を倒した。
 そろそろ林に入ってくる駆動歩兵は打ち止めのようだ。

 周囲に散っているが、残りの駆動歩兵は四十ほどか。
 外の敵歩兵は中に入ってこない。警戒しているのだろう。

 ならば、ここにいる彼らだけでも対処できそうな気がする。いや……。

「……少ない?」

 先ほど見た、アンさんを包囲した駆動歩兵の数を思い出す。
 明らかに比べて少ない。

「向こうか!」

 アンさんが林に消えたあと、追いかけずに逃げた先を予想して駆動歩兵を向かわせたか。
 だとすると、本拠地側と砦側のどちらに向かった? いや、両方に分けて街道を急がせたかのしれない。

 嫌な予感がする。
 僕は闇に溶けて、アンさんを追いかけた。

               ○

 状況を整理しよう。
 大山猫の氏族が砦に大攻勢をかけてきたという話は父さんから聞いた。

 アルフィの町から大量の駆動歩兵が出発したのだ。
 今ごろ砦は、激しい攻城戦の最中だろう。

「こっちに救援を寄越す余裕はないよな」

 砦が落ちるかどうかの瀬戸際だろう。
 やってくる敵は、砦の駆動歩兵よりも多い。

 その上、アンさんたちの部隊が抜けてしまったのだ。
 戦力比は更に開いていると考えられる。

 加えて、本拠地からの援軍も期待できない。
 アンさんの部隊が突然砦から出て行ったのは、本拠地から伝令が来たからだろう。

 歩兵隊を含めて、向こうで何かあったのだ。
 他に戦力を割く余裕があるとは思えない。

 そしていま砦と本拠地の間で、敵駆動歩兵がいるわけだ。

「……ここを切り抜けないといけないわけだが」

 敵と味方の数を考えると、状況はすこぶる悪い。

 最初の包囲は脱したものの、戦力比は不利なままだ。

「ざっと見た感じ、倍の駆動歩兵がいたもんな」

 僕が見たときは、厚い包囲陣が形成されていた。
 林に入ってきた数からすれば、まだかなりの駆動歩兵が街道にいたことになる。


 林の先の方で光が差し込んでいる。
「もうすぐ林が切れるのか」

 僕は闇の中から姿を現し、周囲に気を配る。

「アンさんはもう林を出たみたいだな」
 ここから砦までまだ距離がある。また走るしかないのか。

「ん? こっちか」
 駆動歩兵の稼働音が聞こえる。僕は左側に進み過ぎたようだ。

 進路を変えて林を出ると、アンさんを含めた三体の駆動歩兵が見えた。

「戦っている?」
 敵の数は二十……いやもっといる。

「マズイ!」

 アンさんたちは、一度に複数の駆動歩兵を相手にして劣勢だ。
 僕は横手から両者が戦っている中に踊りこんだ。

 父さんが言うように、実戦は魔道を成長させる。
 それが実感できた。駆動歩兵に接近し、『闇刀』をすぐに展開。
 アンさんの死角から剣を突きつけようとした駆動歩兵を無力化する。

 熟練の魔道使いは、息をするように魔道を使うという。
 父さんも、魔道の発動は一瞬だ。

 僕の場合、考えてから発動までのタイムラグがある。
 流れるような動作で魔道を使うことはいまだできていない。

「それでもいまは充分」

 駆動歩兵の動きは速い。だがそれは直線に限った話だ。
 四肢を自分の手足のように、動かせていない。

 父さんとの組手は役に立っている。
 どれだけいじめ抜かれるのかと思ったが、いまでは感謝している。なにしろ……。

「守りたい人を守れるんだからなっ!」

 駆動歩兵の背中をとり、魔道を発動させる。『闇鉤爪』だ。
 威力を上げすぎたようで、駆動歩兵の兜が遠くにはじけ飛んだ。

 気をつけるのは、真正面に立たないこと。
 それさえ守れば、時間がかかろうとも日中でも対処できることが分かった。

「もしかすると、僕ってそれなりに強い?」

 こんな時だが、そんなことを思ってしまった。
 父さんとの戦闘訓練ではまったく歯がたたないので、どれだけ成長しているのか分からなかったが、駆動歩兵相手でも周囲を見渡せる程度には、実力差がある。

「おっと、向こうが苦戦しているな」

 アンさんの隊の一体が押し込まれている。
 すぐに駆け寄り、敵を無力化する。

 中の人は死んだかどうか分からない。
 大技は必要ない。戦闘継続できなければそれでいい。

 敵も本当の脅威は僕だと気づいたようだ。
 アンさんに向かっていた敵までもが、僕に殺到した。

「それはそれで好都合なんだけど……ちょっとマズイかな」

 隙をついて横か背後に回り込み、『闇刀』で倒す。
 それが僕の戦い方だ。こうやって真正面から複数で来られると、自力の差が出てしまう。

「多いな」

 僕を取り囲むのは六体。
 簡単には無力化できそうもない。かといって、影がつながっているわけではないので、遠距離から魔道で攻撃するわけにもいかない。

「こういうときは不便なんだよな」

 緩急をつけてうまく一体の横に回り込む。

「取った!」
 すぐに無力化させて、次を狙う。

 急制動に敵はついてこられない。
 多少身体に負担がかかるが、さらに強引に動くことで敵の思惑を外す。

 父さんに殺されそうになりながら覚えた歩法ほほうは、正式な訓練を積んだ軍人には馴染みのないものらしい。
 それが功を奏して、眼前にいる三体の駆動歩兵を無力化できた。

「……ふう」

 大きく息を吐いた。敵が迫るが、まだ遠い。そう思ったが、動きが速い!
 やはり公表された情報は間違っていた! 瞬間の速度はもっと出るぞ。

 足が止まったところを狙われた。
 二体同時に襲って来たので横に回避した。
 ついでに脇に手を差し込み、『闇刀』を発動させる。

「あと一体」
 振り向いたところに敵はいなかった。どこだ?
 斜め後ろから気配がした。まずい。逃げなければ。どっちへ? 前はまずい。ならば。


 思い切って地面に転がるより一瞬はやく、剣が僕を斬り裂いた。

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