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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第2章 技国内乱編

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 内部から爆ぜ、崩れ落ちる駆動歩兵の後ろに、僕は立っている。

「あーあ、姿を現してしまった」
 小声でつぶやいた。愚痴を言わなければやっていられない。
 ここで姿を現す予定はなかったのに。

 アンさんが戦闘を始めたかと思えば立ち止まり、両手で負傷した誰かを抱え上げた。

 その間に敵の包囲が完成してしまった。
 包囲は完璧だ。逃げる隙間はない。こっそりと見ていた僕だから分かる。

 敵の指揮官は優秀で、うまく退路を断ちつつ二重三重の罠を敷いている。

 アンさんの隊がこの状態から一点突破を図れば、包囲が同じように動いてその左右から襲いかかるだろう。

 一方向に進む部隊を左右から攻め立てる。
 戦力比から、確実にすり潰されるのは明らかだ。

 そして人を抱えた駆動歩兵――つまりアンさんの足では途中で捕まる。
 アンさんの隊は全滅するのが目に見えてしまった。

「だから、仕方がないよな」

 僕は自分にそう言い訳をする。これは不可抗力だと。
 やらなきゃ殺られる事態だよなと。

 竜国の介入がバレないようにしろ? そんなのクソ食らえだよな。
 どうせ姿を現したんだ……殺そう。



 影さえつながっていれば、僕の魔道は発動する。
 そして駆動歩兵の外装には、所々に影がある。
 ありがとう、鴎の氏族。あの時の戦いがここで生きてくる。

 敵はアンさんたちの包囲を崩せない。
 駆動歩兵はまだ動かず……いや、動けずにいる。

 敵一体の後ろに立ち、背中に手を這わせ、僕は『闇鉤爪やみかぎづめ』を放った。

 発動まで時間はかかるが、効果は絶大。
 いまなら敵は突っ立ったままだ。

 武器すら構えてない僕が動いたとろこで、何ができるのかと思われただろう。
 残念。それは間違いだ。
 僕の魔道が発動し、中の人ごと駆動歩兵の外装は吹っ飛んだ。

 これでいい。……たぶん、これでいいのだ。

 敵味方が僕に注目している。
 あまりいい気分ではない。僕は小心者なのだ。

 パン屋でパンを焼いている方がよっぽどしょうに合っている。そんな男だ。
 だが、ここまでやったなら、最後までやり遂げなくてはならない。

 僕は口を覆う覆面を少しだけ浮かし、こう言った。


 ――さあ、狩りの時間だ。


「……!?」
「くっ……」
「狩り……だと?」

 こちらに向き直る彼らに構わず、僕は跳躍した。

 駆動歩兵の構造は分かっている。
 背中に熱を逃がす口が下向きに出ている。

 僕はそこに左手を差し入れ、影に触れる。

「これで使える」

 小剣を持った右手の先が消える。出現した先は駆動歩兵の中。
 魔道『闇刀やみがたな』で、中の肉体を直接斬り裂く。

「……三体目」

 駆動歩兵隊の面々は戸惑っている。
 それはそうだろう。人と駆動歩兵が戦えば、間違いなく駆動歩兵が勝つ。

 たったひとりの僕は、度外視していいはずだった。
 だがすでに三体倒されている。いいのか、無視して?

 彼らはそう考えているのだろう。だが、いまだ僕に襲いかかる者は少ない。
 包囲が崩れるのを心配しているのだ。

 僕はいまだアンさんを包囲している連中の外側にいる。

 敵が僕を相手にすれば、アンさんに背中を見せることになる。
 それでは本末転倒だ。なんのためにここまで追い詰めたのか、分からなくなる。

 よって、敵の大部分は僕を無視することにしたようだ。

「これだけ?」

 一番近くにいた三体だけが僕の方にやってきた。包囲は相変わらずだ。
 たったいま潰されたにしては、学習能力がない。

「こっちだ!」

 僕は逃げた。三体は追ってくる。
 街道から外れ、木々の密集したあたりに誘い込めた。
 よし、追ってきている。ならば、ここから僕の独壇場だ。

「もうここは僕の影が届く範囲だよ」

 魔道『闇刀』でやってくる駆動歩兵の中身、その首元を斬る。
 ちゃんと死亡したかは確認しない。
 素早く処理することだけを考えた。

「二体、三体……よし、全滅だ」
 他に追って来る者はいない。仕方ないな、戻ろう。

 無傷で戻った僕に、敵はおろかアンさんたちですら驚いたようだ。
 木々の中に消えたと思ったら、そのまま現れたのである。

「二十六番から三十番、行け!」

 隊長らしき者が声を発する。
 すぐに五体の駆動歩兵が動き出した。

 敵の対処は正しい。決まった者が対応すれば、他はアンさんたちに隙を見せることがない。

 だがこの場合、それは正しいのだろうか。
 答えは否だ。

「残念だけど、僕は馬鹿正直に待ったりしない」

 やってくる五体が到着する前に、僕は林の一番近くにいる駆動歩兵に取り付いた。
 一体を無力化完了。
 敵の動きは遅い。まさか包囲している自分たちが狙われる側に立つとは思わなかったのだろう。

 さらにもう一体を無力化した。『闇刀』は駆動歩兵に取り付いてないと発動できない。本当に陽の光は厄介だ。

 さらにもう一体、中の兵を斬り裂く。
 これで十体の駆動歩兵を倒したことになるが、まったく減った感じがしない。
 だが、アンさんは僕の意図に気づいたようだ。

 敵は? まだ気づかない。
 執拗に僕を狙いに来ている。もう少し暴れた方がいいかな。

 派手な動きでフェイントをかけ、駆動歩兵を引き寄せる。
 その間に、別の駆動歩兵のそばにより、無力化した。十一体目だ。
 うん、大丈夫だ。まだ意図は気づかれていない。

 敵の注意を僕に向けさせることと、包囲の一角を乱すこと。
 それに、アンさんたちが林に逃げ込みやすくするために、横にいる駆動歩兵を優先的に排除すること。

 十二体目と十三体目を倒す。
 包囲が一箇所だけ、だいぶ薄くなった。
 アンさんはちゃんと意図に気付いてくれている。

 ある程度の排除が終われば、ここに用はない。
 僕が移動すると駆動歩兵が付いてくる。さらに包囲が崩れた。

 その空いた隙間をアンさんたちが駆け抜けた。

「しまった! おっ、追え!」

 今まで僕に注視していた駆動歩兵たちが慌て出す。
 しっかりと包囲していたはずだ。なのにいつの間にか崩れていた。

 敵はすぐに後を追った。
 木々が密集していれば、容易に移動できるはずがないと考えたのだろう。

 立ち往生したところを狙えばよい。そう考えたに違いない。

 敵はアンさんたちを逃がさないように、充分な間合いを保ったまま追いかけた。
 だがそれは悪手。

 なぜ僕がわざわざ街道の横手を開けたのか。それは……。

「影があるからさ」

 僕は闇に溶けた。

 林に入ったアンさんたちは案の定、先に進めなくなった。
 一体だけならば通れるが、それはつまり一体ずつしか通れないことを意味する。
 俗に『前が詰まった状態』というやつだ。

 木々の間を抜ける順番待ち。これは敵が意図したこと。
 アンさんの隊をすり潰すために仕掛けた罠のひとつ。

 だがそんな歩きにくい森のなかは、僕の独壇場。
 闇はともがらだ。

 アンさんとそれに続く数体の駆動歩兵が木々を抜けた。
 残りの駆動歩兵隊はそれに続かず、道を塞ぐように立つ。

「俺たちは反撃だ!」

 アンさんの隊の誰かがそう叫んだ。
 どうやら、考えることは僕と同じらしい。

「さあ、殲滅戦のはじまりだ」
 僕の言葉に、敵駆動歩兵が怯んだ。



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