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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第2章 技国内乱編

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 いまが日中なのが痛い。
 闇に溶けることができないのだ。

 仕方なく走る。駆動歩兵を追いかけて走る。
 アンさんの部隊はすでに遠くに行ってしまっている。

「一体なにが起こったんだろう」

 突然の出撃だ。
 しかも全力疾走している。

 遠くの方で土煙が上がっている。まだ遠い。
 このペースで走り続ければ、一時間もしないうちに本拠地に到着する。

 ということは、本拠地が落ちそうなのか?
 だとすると、このペースでは僕が本拠地まで持たない。

 速度をあげて駆動歩兵に追いつけるか? うまくいけば、その影の中に潜れる。
 いや、走っている相手の影に潜るのは難しい。

 それに姿を見られるのはいろいろとマズイ。
 駆動歩兵が見えるところまで近づいたら、距離を置いて跡をつけた方が良さそうだ。

 その状態で限界まで走ったら、自分のペースで走ろう。



 アンさんたちの駆動歩兵隊を後ろから追いかけること約三十分。
 本拠地はまだ見えない。僕がそろそろ限界だ。

 先にだれかいる……戦闘中だ!

「アンさんが戦っている?」

 目を凝らした。
 歩兵と駆動歩兵隊が入り乱れて戦っている。
 そこへアンさんたちの部隊が突入していった。

「なんでこんな場所で戦闘が?」
 本拠地はまだ先だ。

 砦と本拠地のちょうど中間の位置で、大規模な戦闘が始まった。

               ○

 時は遡る。

 砦で総司令の職にあるアンネロッタ・ラゴスのもとに、伝令が飛び込んできた。

「どうしました?」
 息を切らせてやってきた伝令。
 周囲にいた者たちは、只事ではない雰囲気を感じ取った。

「本拠地に敵兵と敵駆動歩兵が多数接近。戦闘に入りました」

「なんですって!?」

 アンネロッタは驚いた。いや、その場にいた全員が驚愕した。

 本拠地に敵が現れたら連絡が入ることになっていた。
 使者もあらかじめ決めておいた者が来た。

 ならばこの情報は正しい。だが、本拠地が襲われた?
 どうやって? 集まった全員が首を傾げた。

 大山猫の氏族領から本拠地までの侵入経路が存在しないのだ。

 砦は抜かれていない。自分たちが守っているのだ。
 だとすると、森を抜けてきたとしか考えられない。

「森からですか?」
 だからそう問い返したのは正しい。

「いえ、反対側の平原からやって来ました」
「……えええっ!?」

 位置としては大山猫の氏族領と真逆である。
 どんなに迂回したとしても兎の氏族の領土内を通るのであれば、連絡がいく。

 平地側からの襲撃、それも奇襲などありえないことであった。

「理由は分かりません。ですが、実際に現れたのです。敵には駆動歩兵隊が多数混じっていましたので、こちらも駆動歩兵を迎撃に出さざるを得ませんでした」

 それは分かる。
 百や二百の駆動歩兵隊が一斉に攻撃してくれば、本拠地の塀など時間稼ぎ程度の意味しかなくなる。

 それを阻止するには、こちらも駆動歩兵で迎撃するしかない。
 敵は長距離を遠征してきているのだ。迎撃側に比べて、圧倒的に有利となる。
 稼働時間が少なく、修理も容易。負けるはずがない。

 時間稼ぎをすれば、敵は活動限界を迎えるだろう。これは勝てる戦いである。
 だがそれを阻止せんと、駆動歩兵の前に歩兵の大軍が立ちはだかったという。

 迎撃にでた駆動歩兵に対して、歩兵はのらりくらりと相手し、駆動歩兵どうしの決戦に持ち込ませないように動いてきたらしい。

 結局、兎の氏族側も大量の歩兵を出さざるを得ず、その指揮官をアンネロッタの兄、モーリス・ラゴスが受け持ったらしい。

 モーリスは氏族長の系譜に連なる者である。
 彼が出てくるだけで兵の士気があがる。

 本人も剣の腕には自信がある。
 これで、歩兵どうし、駆動歩兵どうしの戦いに持ち込めるはずであった。

 だが、敵はそれを読んでいた。

 出撃したモーリスと本拠地の間に駆動歩兵隊を強引に割り込ませ、見事分断に成功したのだ。
 モーリス率いる歩兵が孤立してしまった。
 敵はそれを狙っていたのだ。誤算である。

 誤算はもうひとつある。敵駆動歩兵隊の数が思ったより多かった。
 本拠地を襲わず、駆動歩兵隊はすべてモーリスの前に立ちはだかろうとした。

 それでもモーリス率いる歩兵隊は善戦した。
 しかし、他ならないモーリス自身が駆動歩兵隊との戦闘で怪我をしてしまったのだ。

 ここで戦局は一気に傾く。

 負傷したモーリスをかばうようにして部隊は本拠地へ撤退……できず、そのまま本拠地とは逆、砦の方へ逃げるしかできなかった。

 取り決め通り、モーリスの隊の一人が使者として先行し、アンネロッタのもとへこの現状を伝えたのである。
 使者は言った。モーリスを……自分たちの上官を助けて欲しいと。

 アンネロッタも兄の危機に居ても立ってもいられず。
 砦の指揮権を他の者に移譲いじょうし、自分の隊を率いてすぐさま出発した。




「お兄さま!」

 周囲の駆動歩兵隊を蹴散らし、アンネロッタは負傷した兄のもとへたどり着く。

「アンネロッタ……か?」
「そうです、お兄さま。気をしっかり持ってください。いま砦に運びます」

「ばか。敵が狙っているのは氏族の血だ。おまえまでが出てきてしまえば……うっ」

「血を失いすぎです。お兄さま。大丈夫です。わたくしが切り抜けてみせますわ」

 兄を抱え上げたアンネロッタは周囲を見回す。
 戦闘は一旦終了している。
 勝ったのではない。敵が引いたのだ。

 なぜならば、いまアンネロッタの部隊は、敵駆動歩兵隊と多数の歩兵隊によって完全に包囲されていた。
 敵は先ほどまでの乱戦ではなく、包囲戦に切り替えたようだ。

「大丈夫です……わたくしはお兄さまを死なせはしません。たとえわたくしがどうなろうとも!」

 どこにこれだけのと思うほど大量の駆動歩兵隊がアンネロッタ隊の周囲を取り囲んでいる。
 数える余裕はないが、二部隊かそれ以上集まっているとアンネロッタは感じた。

 どれだけの戦力差があるか分からない。

「アンネロッタ様。我々が全員で包囲の一角を崩します。お一人で突破ください」
「それではあなた方が」

「構いません。アンネロッタ様とモーリス様を守ることができるのです。それ以上の名誉などあるものですか」

「お願いします。アンネロッタ様、どうかご無事で脱出してください」
「私どもの事は気にせず、どうかモーリス様をお願いします」
「そうです、アンネロッタ様。決して振り返らないでください」

「あなた方……」

「包囲が縮まってまいりました。もう猶予はないようです。あなたと一緒に戦えて、私どもは幸せでした」
「お達者でっ!!」

 敵が殲滅戦を始める前、アンネロッタの隊が陣形を防御用の方陣から、突撃用のくさび形に変えた。
 中心にいるアンネロッタを逃がすため、身を捨てて突進する。

 だが、その直前。


 ――敵駆動歩兵の一体が、爆ぜた。


「……はっ?」
「えっ?」

「な、なんだ!?」

 多くの者が驚愕した。何がおきたのだと周囲を見回した。

 倒れ伏した駆動歩兵の後ろに佇むひとつの影。
 いや、影ではない。影のように真っ黒な人がいた。
 ややうつむいていて顔は見えない。

 黒衣をまとい、かろうじて目だけが出ている。
 この戦場にそぐわない、闇を友とする存在。

 それは真っ昼間に現れた、場違いな暗殺者であった。

「な、何者だ?」

 敵駆動歩兵の一人が叫んだ。
 だが、黒衣の存在は答えることはせず、跳躍した。

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