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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第2章 技国内乱編

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 僕はこっそりとアンさんを見にいった。
 自分の知っている人が戦場に立つなんて、はじめてのことだ。

 アンさんは指揮する立場だろうから危険は少ないと思うが、心配ではある。

「……いた」

 通路を歩いている。
 軍服だろう。軽装の白を基調とした襟のついた服を着ている。

 肩には薔薇の刺繍がしてあった。
 何人かの駆動歩兵隊が同じ刺繍をしていたので、あれがアンさんの隊のマークなのかもしれない。

 ちょうど軍議を開くところだったようで、部屋の中に入っていく。
 中は明かりが灯されているので、侵入できない。

 近くの暗がりから覗くだけにする。

「本日、鴎の氏族へ遣わした使者が戻ってきました」
 アンさんの声だ。

「お兄さまの婚姻の情報は、すでに伝わっておりました。大山猫の氏族も同様だそうです」
 その言葉に、何人かが質問している。

 よく聞き取れないものもあったが、今回の内乱についての原因を論じ合っている感じだ。
 なぜ今さらと思ったら、この戦いの落とし所を探っているらしい。

「……そういうわけですので、大山猫の氏族は引くに引けないところまできているものと判断しました」

 周囲からため息が漏れた。
 交渉によって事を収めるのが難しそうだとあらためて説明された感じだろうか。

「ここ数日行われている散発的な攻城ですが、なにか他の意図があるように思えます」
「こちらの対応力を見るためではないでしょうか」

「本拠地から近く、補給も容易なこの状況で、対応力を見たところで意味はないと思いますわ」
「では、援軍を待っているとか」

「その可能性はありますが、大山猫の氏族も無限に兵を保有しているわけでもありません。確認されている以上の兵を投入するのは難しいかと思っています」

 それこそ本拠地をカラにでもしないと集められない。
 そうアンさんが言うと、みな黙ってしまった。

「できればこちらから打って出たいのですけれども、町中に篭もられてしまっていますので、それも出来ません。引き続き監視を強めつつ、いつでも出撃できる準備をお願いしたいと思います」

 同意の返事があちこちから聞こえた。
 どうやらアンさんは、立派に氏族の務めを果たしているようだ。

 そこからは、やや砕けた調子で、雑多な話が始まった。
 ほとんどは鴎の氏族からもたらされた内容についての吟味だった。

「内々に進めていた婚姻の話は、大山猫の氏族にも漏れていたのか」
「だとすると、この度の侵略もそれが引き金になったのかもしれないな」

 大山猫の氏族へは裏切り者のレノーか、クーデターを起こしたトラッシュあたりが話した公算が高い。

 結構前から情報が流れていたのならば、大山猫の氏族は場当たり的に攻めこんだのではない。
 鴎の氏族内でクーデターがおこる前から準備していた可能性すらある。

 僕は考えた。
 以前アンさんが話してくれた内容では、技術供与が協定に反する部分がメインのようだった。
 それだけならば、まだ和解の道もあったかもしれない。

 だが婚姻を阻止するつもりならば、話は違ってくる。
 本拠地を落とすか、お兄さんの命を狙うことくらいしそうだ。

「大山猫の氏族について情報提供がありました。現在、本拠地で商人たちが投資した資金の回収を始めているそうです」

 鴎の氏族経由の話らしい。
「資金回収……見限られたということでしょうか」

「そうだと判断しています。来年の技術競技会では、大山猫の氏族は大きく順位を落とすと予想したのでしょう。また、資金がなくなれば当然来年の競技会に向けた研究も滞ります」

 資金が引き上げられてしまえば、都市として終わってしまう。
 借金だけが残って、どんなに頑張ってもジリ貧だ。

「大山猫の氏族は焦ってしまったのでしょう」
 だれもが頷いた。

 今回攻めてきた理由は、表向きの協定違反などではなく、大山猫の氏族がもう『後が無い』状況だったことと、兎の氏族を攻めるのに『今しかない』タイミングだったことに起因するようだ。

「すでに大山猫の氏族の内情は火の車です。わたしたちがここを乗り切るのです。そうすれば大山猫の氏族は、遠からず都市機能が瓦解がかいし、綱紀こうき頽廃たいはいを招くでしょう。つまり耐えれば勝ちです。逆に大山猫の氏族はなりふり構わず攻めてきます。最大限の警戒を」

 アンさんたちは密かに鴎の氏族と、情報のやりとりをしているらしい。
 そこだけ見ても、大山猫の氏族が追い詰められているのが分かる。

 だが、問題はこの戦いを切り抜けられるかどうかだ。
 アルフの町にいる駆動歩兵は三百。
 全軍で攻めてくれば、数の差でこの砦を落とされる。

 この期に及んで、氏族の者をただ捕まえるだけというヌルい決断はしないだろう。
 砦が落ちればアンさんは死ぬ。

 そうならないために、僕は密かにアンさんを守る。



 翌日も敵兵がやってきた。遠くから矢を射かけてくる。

 昼過ぎになり、敵の勢いが落ちた。
 まだ日が高いが、敵はこのまま撤収しそうである。
 ここ数日と同じ動きだ。

 砦の兵たちも一部を除いて、すでに建物の中に入っている。

 今日もこれで終わりかな。そう思っていると、父さんが現れた。
 父さんとは別行動していたので、今まで何をやっていたか知らない。

「どこへ行っていたの?」
「街道を中心にあちこち歩いていた。それで少し前にアルフィの町から駆動歩兵が出発したぞ」

「えっ!?」
「ここに向かって、歩兵も連れている。全軍で総攻撃だな」

 大変なことになった。総攻撃とは。

「アンさんに知らせなきゃ」
「そう思って戻ってきた。駆動歩兵の足は遅い。まだ間に合うからな」

 駆動歩兵の足は遅くないと思う。父さんが速すぎるんだ。

「父さん、知らせに行ってくれる?」
「そのつもりだ。おまえだと正体がバレる可能性があるからな」

 アンさんがこの砦の総司令であることは父さんも知っている。
 総司令と言っても、位が高いだけなので、ちゃんとブレーンがついている。

 氏族長の孫娘は、旗印にちょうどいい。
 だからアンさんもそのつもりで振る舞っている。
 そこに覆面をしたとはいえ、僕が行くのは不味い。

「じゃ、僕は敵の動きを見ているから、父さんお願い」
「駆動歩兵が三百機、歩兵が予想より多くて七百ほどだ。砦の兵力だけじゃ厳しいだろうな」

 その場合、本拠地から増援を呼ぶことになるだろう。
 もし呼ぶならば、早いほうがいい。

 この情報を伝えれば、アンさんならばすぐに動いてくれるはずだ。

 父さんが砦に向かおうとしたその時。

 門が開き、中から多数の駆動歩兵が出て行った。
 肩口の紋章を見た。薔薇が描かれている。

「アンさんだ!」

 砦の門から出た駆動歩兵はそのままアルフィの町方面には向かわず、反転して本拠地を目指した。

「どうやら、本拠地でなにかあったようだな」
「同時攻撃?」

 アルフィの町から総攻撃が始まるというのに、その前に本拠地が攻撃されたのだろうか。

「おまえは駆動歩兵を追え。ここはオレに任せろ」

 悩んだが、僕は父さんの言うとおりにした。
 アンさんがあれほど急いだのだ。なにかある。

「父さんはどうするの?」
「総攻撃の情報を砦のだれかに伝えたら、迎撃に出る」

「ひとりで?」
「その方が楽だからな。どうせ駆動歩兵が出てきたんだ。籠城はできない。こっちも駆動歩兵を出すはずだ。オレは好きにやるさ」

 砦の中には三つの駆動歩兵隊が駐留していた。
 出て行ったのはアンさんの部隊だけだったので、あと二隊は残っている。

「早くいけ。こっちも時間がない」
「分かった」

 僕はアンさんを追うため僕は駈け出した。



 僕はこの時、もう少し父さんに注意していればと、後悔することになる。

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