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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第2章 技国内乱編

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 僕と父さんは最前線の砦へ行く……ことはせず、東の森へ向かった。
 父さんが希望したのだ。

「不確定要素は先に排除しておきたいからな」
 森の中に敵兵がいる可能性がある以上、捨てておけないらしい。

「森は広いし、本拠地の近くを探しても何も出てこないと思うけど」

「それを確かめに行く。敵がいるのかいないのか。いないならば、どのあたりまでいないのか。それを知ることも大切だぞ」

 なるほど。そう言われてしまえば反論もできない。
 僕らは森へ分け入った。

 ある程度深くまで入り、適当な岩場を見つけて腰を下ろす。

「今日はここで野宿だな」
「了解。……父さんと一緒に野営って久しぶりだよね」

 むかし、修行という名の育児放棄があった。
 こうやって野営をすると見せかけて、翌朝置いて行かれた。

 朝起きたら、一緒に寝ていたはずの父さんはいないのだ。
 寝床はもぬけの殻になっていた。
 あれも深い森の中だったな……。

 自力で脱出しなければいけないとすぐに分かったので、幼い頭で生き残る術を必死に考えたものだ。

 前日は父さんにさんざん森の中を連れ回されたので、現在位置も分からない。
 脱出どころか、遭難しているのだ。

 僕は水と食べ物を真っ先に探した。
 そこからようやく森を脱出するために行動した。
 死ぬかと思った。というか、いま思い返しても、よく生きていたなと思う。

「そういえばふたりでキャンプに行ったな」
「キャンプ?」

「楽しかったな」
「なぜか、いい思い出になってる!?」

 たしかに母さんと姉さんには、父さんと二人でキャンプに行ったことになっていたけど。

 あの頃に比べると、僕もたくましくなったと思う。
 少なくとも、敵兵がいるかもしれない森の中でも、安心して眠れるくらいには。

「そういえばこの前、商国が騒がしくなったと言ったよな」
「うん。調査したらクロが多かったってやつね」

「そうだ。どうも竜国で土地の買収をしている勢力がいる。それなりに大規模だ」
「ん?」

「竜国に工場と従業員の住居を建てるらしい。町の領主の許可はもう出ている」

 土地の買収は工場設置のため。うん、別段怪しいところはない。
 商国は人材を重視するので、新しい場所で新しい人を募集することがよくある。

 そこで雇った従業員を使い、物を生産し、その土地の人脈をもとに徐々に勢力を広げていくのだ。

「なにか問題でもあった?」
「動きが急すぎるな。それと賄賂わいろもかなり使われている。それで便宜をはかる役人も大概だが、そこまでして進出したいものが果たしてあるのかどうなのか」

 僕の実家があるソールの町は、竜国の七大都市のひとつに数えられる。
 商国と近いので、人の出入りは多い。

 ソールの町の周囲には十を越える小さな町があり、さらにそれ以上の村が点在している。
 そんな町のひとつひとつにも領主がいる。

 領主はすべて世襲の貴族で、個を捨てて町のために尽くさねばならない……ことになっている。

 だが実際は、鼻薬はなぐすりを嗅がされて、その者の望む権限を与えたり、許可を出したりする。認可権をひとりが握っているから、地方に行けば行くほどやりたい放題になる。

 困ったことに、それらすべてを取り締まると地方政治が立ち行かないので、ある程度は把握するに留めて、度を超した場合のみ制裁を加えるようにしている。

 いまは監視を付けて泳がしている状況らしい。
 見張っているのは、その町に住む〈右手〉だろう。

「この分では、西の都にも顔を出さねばならなくなる。現役復帰したとたん、これだ」
 西の都とは、商国にふたつある首都のひとつだ。もうひとつは東の都。

 まったくと父さんは愚痴を吐くが、少しだけ楽しそうだった。
 まだ枯れるには早いのだろう。

「ねえ、父さん。商国の五会頭ごかいとうには会ったことある?」
 ふと気になって父さんに尋ねてみた。

 五会頭とは、西と東の都にいる商会を束ねる人たちのことだ。五人ずつ、計十人いる。
 彼らは商国のトップであるが、商人のトップではない。

 もちろん大商人であるが、持っている影響力に比べれば、他と突出して裕福でも商いが大きいわけでもない。

 五会頭以上の勢力を誇る商人は大勢いる。
 だが、彼ら五会頭が商国のトップであり、すべての商人がその意向に従う。

 実利を重んじる商人たちにとって、それはどうなのだろう。
 いつも僕は不思議に思っている。

「五会頭か。あれはあまり関わらない方がいい相手だな」
 意外にも、父さんはそんなことを言った。

「どうして? それを聞くと、なんだか父さんが恐れているみたいだけど」

「それに近いな。畏れはある。なにしろあいつらには欲がない」
「えっ?」

 欲がない? 大商人で? しかも国のトップなのに?

「一般的な欲といえばいいかな。それがないんだよ。五会頭の目標はただひとつだ。商売、つまり経済を通して四つの国を支配すること。自分たちの富にはまったく頓着とんちゃくしていない」

「それに近いことは聞いたことがあるけど、噂じゃないの?」

「いや事実だ。を捨てて商国商会に尽くすからこそあいつらは国のトップにいられる。崇拝されてるとも言える。だから他の国は五会頭を怒らせることを避ける。五会頭は領土的野心もなければ、他と敵対する意思もない。だからそんな関係が成り立っているんだよ」

「うーん、よく分からない」

「魔国の一部の都市は資本を握られて、逆らえない人間は多いな。だが、別段それを足がかりに悪いことをしようとする素振りもない。それだけ聞くと、いい連中に思えるだろ?」
「うん」

「だが、握った資本は手放さない。資本を握られているから商会に逆らえない。表向きは商人と領主との関係だが、内実は逆転している。だが決して領主を蔑ろにしない。それゆえ、その関係がいつまでも続く」

「飼い殺し?」
「それに近いな。資本の流入に気がついた者は、上の地位にいるほど逆らえなくなる。それを打破するには、投資した金額を返し、借金を清算する必要がある。気づいた時にはもう遅いがな」

「貴族と商人でしょ。実情はどうであれ、強気に出ることもできるんじゃない?」
「商国は、どちらの都も五会頭を頂点にまとまっている。商人にそっぽを向かれたら、その町はどうにもならんよ」

 意外とシビアだった。
 もしすべての商人が反旗を翻したら、その町は早晩潰れるな。

 同調した他の町だって同じ運命を辿る。
 僕だったら、いまの生活が続くならば逆らわないと思う。

 そう考えると、資本を握られた時点で負けじゃないか。
 なるほど、五会頭は恐ろしい存在だ。

 この前僕が潜入したスルヌフも五会頭のひとりだ。たしかリンダは『豪商』のスルヌフと言っていたっけ。

 僕が見つけたのは大小さまざまな不正の証拠。
 そのどれもが竜国内で有罪にできるものだった。

 だが父さんは、五会頭は私利私欲を持たないと言っていた。
 たしかに見つけた不正のほとんどは商国商会を大きくさせるものだったが……。

 ロザーナさんの件とは別に、腰を据えて調べてみる必要があるだろうか。
 だが、あの呪国人は危険だ。正面から戦ったら僕より強いかもしれない。
 あんなのがゴロゴロといるようならば、五会頭の周辺は危険極まりない。

「早くねろよ」

 いろいろ考えていたら父さんにそんなことを言われた。
 しょうがないので、休むことにする。
 明日は森の捜索だ。

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