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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第2章 技国内乱編

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 リンダと会ってから数日後。
 どこの組織にリンダが依頼をしたのか分かった。

 王都で活動している諜報組織は三つあると義兄さんは言っていた。
 やはり、そのうちのひとつにスルヌフの身辺調査依頼が舞い込んでいた。

「ちゃんと人を介しているわけね」
「慎重な性格だと思うぞ」

 リンダは直接依頼せず、あいだに二人以上入れてきた。
 依頼人に対しても必ず尾行するので、話を持ってきた者までは辿ることができる。

 組織の身元調査にリンダの名前は引っかかっていない。

「……で、組織には話はついた?」
「ああ。この案件は『闇渡り』が前から追っているので手出し無用と伝えてある。手を引かせる条件は、こっちが知り得た情報の供与。それだけだ」

「良い条件だね。ありがとう、義兄さん」
 彼らにヘタに動かれては困るので、依頼を横取りさせてもらうことにした。

「組織の管轄がシルルだったので、すんなり話を通せたよ。『闇渡り』に逆らうつもりがないなら任せた方がいいと伝えたら、シルルも奮起していたからな。しっかり交渉してくれたようだ」

 なに言ってくれちゃってるの、義兄さんは!

「僕、そんなに好戦的じゃないよね」
「でもやるときはやるだろ?」
「それは仕方ないじゃん」

「……というわけで、組織の方も『どうぞどうぞ』と丁寧に譲られたらしいぞ」
「………………」

 何か僕に対する誤解が蔓延している気がする。
 調査権が得られたからいいけど。

「それでどこを調べるのか分かっているのか?」

「うん。ロザーナさんにも確認とったけど、今月末に仮の祝言しゅうげんを挙げるらしいんだ。スルヌフ自身はまだ商国にいて、式の前に竜国にくるみたい。普段使っている拠点は分かっているから、そこをいつもの通り調べるだけだよ」

「分かった。気をつけろよ。相手は商国の大物だ」
「うん。何回かに分けて潜入してみるよ」

 さて、何が出てくるか。黒い噂があるのならば、いろいろ期待できそうだけど。
 ちょっと楽しみだったりする。



 日が流れ、最後にリンダと会ってから十日が経った。

 潜入の方も順調に進んでいる。
 いくつかスルヌフの不法行為の証拠も押さえた。確実とは言えないが、罪に問えそうなものも出てきている。

 だが僕の勘がこれだけではないと告げている。
 調査を進めるにつれて、過去ソールの町で不正を暴いた商人たち以上に不気味なものを感じている。

 だがそろそろタイムリミットだ。スルヌフ本人が竜国に到着するらしい。
 彼が持っている資料を狙うか、ここまでで留めるか悩ましいところだ。

 そんな生活を続けていると、購買部のカウンターから義兄さんが手招きした。

「どうしたの?」
「女王陛下より伝言だ。近いうちに来てくれとさ」

「技国のことかな」
「そうだな。いろいろと動きがあったらしい」
 話を聞いてからかなり経つ。その後どうなっているのか僕も気になっていた。

「戦況はどうなの?」

「最初はにらみ合いが続いていたが、その後は小競り合いだ。しばらくして停戦、すぐにまた小競り合いだとさ。だがそろそろ小手調べが終わったころだろうと言われている。大山猫の氏族は明らかに本拠地を狙っている。駆動歩兵が出てきそうな雰囲気らしい」

 駆動歩兵は技国の切り札といっていい。
 強力無比であるものの、頻繁にメンテナンスをしないと稼働できなくなるため、戦いでは使い所が難しい。

 ただし、ここぞという時の爆発力は凄まじい。
「ということは兎の氏族が押されている感じ?」

「そうだな。それと王都にやってきた商人たちが技国の話をしているので、一般にも広まりつつある」
「そうか……」

 王都からソールの町までは馬車で五日。
 兎の氏族の本拠地から商国の東の都を経由して、ソールの町まで七日。
 最短で十二日かかる。

 たしかにそろそろ技国の情報が伝わる頃合いか。
 とすると、いま話されているのは、内乱が起こったという初期の話だよな。

「オレの話は以上だ。たしかに伝えたぞ」
「ありがとう。今夜にも会いに行ってみるよ」

 この前義兄さんから、技国の戦術について講義を受けた。
 必要になるかもしれないからと言われ、僕も学院の書庫で調べたりした。

 技国の戦術については、それなりに詳しくなった。
 同時に女王陛下が落ち着いていた理由も分かった。

 技国の戦術のかなめは駆動歩兵だが、これは戦いの序盤で投入することはない。
 迅速じんそくな攻勢によって一気に要塞都市まで制圧できるならば効果は高いが、ほとんどの場合、敵も防御を固めるのでうまくいかない。

 駆動歩兵の稼働時間の問題で、電撃戦に失敗した場合に攻め込んだ方が詰んでしまう。

 何しろ、どこかひとつでも不具合があれば、駆動歩兵は止まってしまう。
 修理するしかないが、専用の工具や換えの部品、作業には専門の技術者が必要になってくる。

 戦場にそれらすべて持ち込むのは、いかにも効率が悪い。
 どこか後方の拠点に運びこむしかないが、非占領地域ではそれも難しい。

 つまり壊れたら最後、使い捨てになってしまう。
 そのため、通常は先に拠点を確保し、その後でゆっくりと駆動歩兵を運び入れることになる。

 乗って進むのではない。運び込むのだ。
 その場合、一騎の駆動歩兵に対して荷馬車が一台必要になる。

 戦略の最終目的地、ここでは要塞都市とするが、そこを攻略するためにはできるだけ近くまで駆動歩兵を運ぶことが勝利に繋がる。

 間違っても自領から駆動歩兵に乗って、敵陣地を攻略しつつ進んでいくわけではない。

 同時に、要塞都市は駆動歩兵に守られているため、ただの歩兵では攻め切れない。
 守る方は町の防壁を盾に駆動歩兵をピンポイントで使えばよく、さらに修理も容易ときた。

 こと駆動歩兵どうしの戦いにおいては、守るほうが断然有利なのだ。

 なんのことはない。
 女王陛下はそのことを知っていて、すぐに都市は陥落しないだろうと予想を立てていたのである。

 そしていまの義兄さんの話。
 大山猫の氏族はそろそろ駆動歩兵を投入しそうだと言っていた。

 つまり拠点の確保が終わり、最終決戦が近いことを意味する。
 はじまるのは本拠地の防衛戦だ。

「大山猫と兎だと、戦力比が激しいからな……」

 長年序列一位の大山猫は、ありあまる資金を元手に、多数の駆動歩兵を揃えている事が分かっている。

 兵は詭道きどうともいう。
 兵数が少なければ多く見せ、多ければ少なく見せる。

 大山猫の場合もそれが当てはまる。
 結果、いま分かっている兵力が、実際どのくらいあるのか正確に分かっていない。

 それでも兎の氏族よりはかなり多いというのが、義兄さんの予想だった。
 ただし、義兄さんはこうも言っていた。

「大山猫の氏族は竜国と親しくない。潜在的には敵対していると言っていい。だから女王陛下は、今回の侵攻で密かな嫌がらせをしているようだぞ」

 女王陛下が大山猫の氏族に嫌がらせ。いかにもやりそうだ。
 それはなにかと聞いたら、竜国との国境付近に竜操者を多数派遣させたのだそうな。

 理由は、逃げてくる民などがいないか監視するため。

 その名目で多数の飛竜が空を巡回しているのだという。
 大山猫の国境が明確に定まっていないところもある。
 両国との間にまたがっているアラル山脈だ。

 竜操者はそれを利用して、山脈を越えてすら活動しているらしい。

「これで大山猫は兵も駆動歩兵も全軍そろって出発させるのは難しくなった。三分の一か四分の一は本拠地に残さなければならなくなったわけだ。これはデカい」

 必然、兎の氏族の領土へ攻め入る兵の数が減ることになる。
 これで五分になったと義兄さんはみていた。

「だけど、いまは攻めこまれているんだよね」

 駆動歩兵が投入間近ということは、本拠地近くまで大山猫の支配領域が広がったことを意味する。
 そうでもなければ、安心して駆動歩兵を運べないからだ。

「無事かな、アンさん」

 女王陛下に会ったら、真っ先に聞いてみよう。
 そんなことを思いつつ、僕は女王陛下に会うため、闇に溶けた。

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