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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第2章 技国内乱編

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 日々の課題をこなしているうちに、頭は完全に勉強モードに突入してしまった。
 数日おきに確認試験があるので、気が抜けないのだ。
 合格するまで追試を延々と受けたくない。

 ときおり、首にかけたペンダントに目がいく。
 そんなときは、アンさんの笑顔が浮かんでくる。

 今頃は駆動歩兵に乗って、戦場にいるのだろうか。
 そんなことを考えつつ、慌ただしい日々を過ごした。

 たまの休みの日。ふとした拍子にアンさんとロザーナさんの事を思い出す。
 そうすると、ずっと考え込むことになる。


 ――なにか僕にできることはないだろうか


 いま僕にできることはない。それは分かっている。
 だけどつい、そう思ってしまう。

 そんなとき、リンダから花束が届いた。また用事があるらしい。
 手紙を出すと、すぐに返事が返ってきた。

『美味しいスイーツが食べたい』

 何を言っているんだ、あの阿呆リンダは。
 授業の予習復習と実習、それを追いかけるようにしてやってくる確認テスト。

 内乱に巻き込まれたアンさんと、望まない結婚を強いられるロザーナさん。
 心配事が尽きないというのに、リンダだけは平常運転だ。

「……ったく、スイーツなんか食べに行くわけが……ん?」

 追伸で『来るといいことがあるわよ』と書いてある。

 リンダは商人の娘らしく、無駄なことはしない。
 すぐに信用を落とすような嘘をつくはずもない。

「来るといいことがある……か」

 リンダの言う『いいこと』には興味がある。
 返事を書いて、明日の授業終了後に会う約束を取り付けた。



「……というわけで、ようやくロザーナ先輩の嫁ぎ先が分かったわ」
 三回目の顔合わせ会の後からずっと調べていたらしい。

「嫁ぎ先か。ロザーナさんが最後まで名前を言わなかったのには理由があるわけ?」
 商国商会の幹部とだけ聞いた。それ以上は教えてくれなかった。

 僕もそうだが、リンダがいくら聞いてもロザーナさんは頑として教えてくれなかった。
 まるでそれも条件のひとつであるかのように、決して口を滑らせなかった。

「相手は大物よ。だからかしらね。……この報告書を見てちょうだい。それなりのお金がかかっているんだから」

「大変だったんだろうね。ここでお金のことを言い出さなかったらすごく尊敬したのに……で、名前はスルヌフ・エイドス?」

 簡単な経歴が書いてある。
 近年よく竜国の北部に顔を出している商人らしい。
 年齢は五十代と記されていた。

「ロザーナ先輩は商国商会の幹部って言っていたけど、別の肩書きの方が有名ね」

「そんなに大物なの? それで肩書きって」
 スルヌフなんて聞いたことがない名前だけど。

「西の都の五会頭ごかいとうのひとりなのよ。『豪商』のスルヌフ。嫌なやつよ」
「リンダが嫌なやつっていうと、相当だな」

「……ん? なんか今、サラッとわたしの悪口を言われた気がしたんだけど」
「気のせいだよ……たぶん。で、これがどうしたの?」

『豪商』というからには、凄い商人なんだろうなとは思う。

「スルヌフは、前々から悪いうわさが流れているのよね。それって商人としては三流と言いたいところだけど、悔しいかな、こいつは一流の商人なの」
「……ほう」

「悪事の隠蔽はお手の物。息を吸うようにできているはずだわ……なのに悪い噂が付きまとう。それってつまり、隠蔽できないくらい大量の悪事を働いている。わたしはそう睨んでいるわ」

「悪徳商人か。そんなところにロザーナさんを嫁がせたくないな」

「そうでしょ? それに今回の結婚を足がかりに竜国の北に進出してくると、パパも困ることになるのよ」

「ヨシュアさんはあれか、北嶺地方で伐採した木を運んでいるんだっけか」
 竜国の北にある極寒の地だ。

「そう。今のところ良質な木をほぼ独占状態ね。笑いが止まらないわ」
 リンダは、ふははははとかなり下品な笑い声を出した。大丈夫だろうか。

「でもその『豪商』のところに嫁ぐことは決まっているんだろ?」
「そうね。だけど、叩けばホコリがかなり出そうなのよ。ここはひとつ証拠を掴んで竜国の警邏に投げ文でもしてみようかと思うわけ」

 悪い顔だ。悪い顔のリンダがいる。

「おまえそれ……」
「あなたは知らないでしょうけど、竜国には諜報を専門とする集団がいるのよ」

 リンダはドヤァァって顔をしているけど、それって〈影〉のことだろうな。
 たぶん〈右手〉の管轄だ。

〈影〉は表の仕事を持つのが条件になっているが、全員がまっとうに働けるわけではない。
 適性がない者もいるのだ。

 どうせなら〈影〉の表の仕事も、裏と同じことをやってしまえという人たちもいる。

 依頼を受けて諜報活動をする組織を作ってあるのだ。
 そうすると依頼を出す方、出される方の情報も手に入る。一石二鳥なので、女王陛下も『表の仕事』として認めている。

 余談だが、魔国には暗殺を専門とする組織があり、金をもらって暗殺を行っている。
 諜報と暗殺……やることは違うが、公然とした裏組織はそこそこ需要があるのだと思う。

「もしかしてそこに依頼するとか?」

「ええ。スルヌフの悪事を暴けば、奴は基盤を失うわ。パパは大喜び、ロザーナ先輩は嫁ぐ必要がなくなって大喜び。どう? いい案でしょ」

 生兵法は怪我のもとだな。変に反対しても意固地になりそうだし、そのスルヌフって商人のことも知っておきたい。

「まあ、いいんじゃないの?」

 あとで表の仕事をしている〈右手〉に話を通しておこう。
 リンダと別れたあと、今の話を義兄さんにして、つなぎをつけてもらうことにした。

「……やれやれ」

 リンダのやる気(?)が暴走しかけている気がする。
 どこかで手綱を締めないと大変なことになる。

 安易に裏社会に足を踏み入れないよう、忠告は必要だろう。

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