挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第2章 技国内乱編

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

126/657

126

 アンさんが実家に帰った理由が判明した。
 大山猫の氏族と兎の氏族との抗争だ。

「しかし、序列一位の方が攻め込むって……」
 下克上ならば何となく理解できるが、今回は逆だ。

 そのうち、商人が噂を王都に届けるだろう。
 そのときに、噂でも今回の原因が分かるかもしれない。

 問題は僕の方だが。
 僕が女王陛下の〈影〉であることは、学院にも秘密だ。

 抗争に参加して駆動歩兵の数を減らすならば、学院を長期間休むことになる。
 休むにはそれなりの理由が必要だし、学院が許してくれない場合がある。

「まあ、考えてもしょうがないか」

 とにかくいまは普段の生活を続けて、女王陛下からの詳しい説明を待つことにしよう。

 長期休みが終わってからは、授業がきつい。課題が多く、暗記とテストを繰り返している。
 授業の難易度も上がり、進み方も早くなった。

 いつ出発の指令がきても良いように、しっかりと課題を提出して、試験にパスしておこう。

 そんな勉強の合間を縫って、僕はロザーナさんを呼び出した。
 僕の方からアクションをかけたのは初めてだ。

「とても驚いたわ。いま学院の授業は大変でしょ。大丈夫なの?」
 開口一番、そんなことを言われた。さすが三年生だ。こっちの進度も分かっているらしい。

 ロザーナさんとの待ち合わせ場所は、学院近くの公園。
 広いだけで何もない。休みだというのに人の姿は少ない。

「授業はなんとかなっているかな。成績優秀を狙うわけじゃないし、学院は落第もないしね」

 竜の学院には留年制度がない。年が明ければ竜が来てしまうのだから、留年する意味が無い。
 かわりに延々と補講と補修がある。
 今日も休みの日なのに、再々々々試験を受けている学院生がひとりいた。可哀想に。

「また会えて嬉しいわ。それに気にかけてくれたのでしょ?」
「そりゃ、気になるよ。……リンダも気にしていたし」

 僕よりも直情的なリンダの方がより気にしていると言えばいいだろうか。
 案の定、僕がそう言うとロザーナさんは下を向いて笑った。

「やっぱりふたりはお似合いなのかしら?」
 最初はそうは思えなかったけど、とロザーナさんは続けた。

「リンダさんは毎日来ているわよ。私を人気のないところに連れだして……周りからは虐められているんじゃないかと勘違いされるくらいにね」

「リンダらしいかな。……それで、どうしてまた急に結婚なんて」

「結婚の理由は船便の確保ね」
「えっと……」

 それは何だろう。また聞き間違いか?

「前々から私の領地は、物資不足だったの。陰月の路を突っ切って商人がくるわけでもないし、北側の町だけで商品を流通し合っても限界があるでしょう?」

 食糧や日用品、消耗品など、足りないものはかなりあるらしい。

「船を使って交易しているんですよね」
 陰月の路がある以上、陸路は危険が大きい。

 商人だって利益と身の安全を天秤にかければ、どちらを取るのか決まっている。
 いくら利益が出るからといって、危険を押してやってくることはないし、それを責められるものでもない。

「船だとね、南に向かった方が儲かるらしいの」
 人口が少なく、海が荒れている北部より、南部へ進出したほうが利益率が高いらしい。

 しかも北部は比較的安全とはいえ、陰月の路を突っ切らねばならない。
 竜国の商人はわざわざ北部のために船を用意して運ぼうとはしないらしい。

「先々月、私の領が所有している船が運悪く行方不明になってね……」

 ロザーナさんは陰りのある笑みを浮かべた。
 もう何もかも諦めたような顔だ。

「東の海の航海は北に行くほど危ないって聞いたことがあるけど……」
「そう。船が難破する原因はいくつもあるわ」

 岩礁が多く、夜の航行は危険と言われる箇所が多い。
 強い北風に波があれ、船が流されることもある。
 陰月の路では僅かな確率だが、鋼殻が近くに落ちるか直接当たることもある。

 船の遭難率は、南に比べて数倍高いと言われている。

「領で所有していた船だったのよ。老朽化が激しかったけど、物資を輸送するだけならあと十年は持つって言われていたわ。嵐があったって言っていたから、そのせいかしらね」

 なぜ領で船を所有しているか。
 商人に頼むと割高な輸送費がかかるからである。
 また、安い物資を買って自前で運ぶのと違い、船を持っている商人からしか荷を買うことができない。

 もちろん輸送を専門にしている船もあるが、高価なものではなく、食糧や日用品を運ぶために船を借り上げると相当高くつく。

 ロザーナさんの領で物資不足は確定。いまはかなり割高な料金を支払うことでなんとかしのいでいる状況らしい。

「商人の気持ち次第で船を出す出さないが決まると、領としては強く出られないのよ。だから長期契約を結ぶ必要があるのだけど、そうすると商人が嫌がるのよね」

 何らかの事情で物資を運べなくなった場合、違約金を支払わなければいけなくなる。
 違約金がなければ約束をを契約に盛り込まなければ破り放題なのだから、抑止力としては必要だが、そうすると商人も保険をかけてくる。

「私が嫁ぐのが条件のひとつになったのね」
 それが理由だった。



 商国商会は巨大な商業連合であり、竜国や魔国、技国の商人たちでも、条件さえ満たせは加入することができる。

 ロザーナさんの嫁ぎ先は、商国商会の幹部だという。
 失った船の代わりは充分可能なのだろう。

 だからと言って、領のためにロザーナさんが嫁ぐのは正しいのだろうか。

『パトロン候補のこと……実家に言ってないらしいのよね』

 顔合わせ会でリンダのひと言。

 その言葉が妙に僕の心に引っかかった。

+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ