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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第2章 技国内乱編

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 夜会が始まった。
 アンさんの代わりはリンダがパートナーを務めた。

 さすがに夜になると参加者も落ち着いてきて、もう取り囲まれることもなかった。
 ロザーナさんを探したけれども、見当たらなかった。
 会場のどこかに紛れているらしい。

「なあリンダ、昼間のロザーナさんの話。本当なの?」
 結婚の話は衝撃だった。聞き間違いかと思ったほどだ。

「わたしも今日聞いたばかりだから、詳しいことは知らないわ。実家から強権が発動されたとだけ」

「実家とは絶縁中って聞いたけど」
「そうね。それと学校内ではあなたのパトロン候補って公言していたけど、実家には知らせてなかったみたいね」

 長期休み前の段階で、僕のパトロン候補はリンダとロザーナさんのふたりだけしかいなかった。
 もし話していれば実家の対応が変わっただろう。

 縁談話が持ち上がったのは長期休み中だろうし。

「ロザーナさんは本気でパトロンになるつもりはなかったってこと?」

「そこまで深く話したことはないけれども、可能性はあるわね。ロザーナ先輩はよく言っていたわ。悪評持ちの自分に対して別け隔てなく接してくれるあなたに感謝しているって」

 そんなことを言っていたのか。
 僕は王都出身じゃないし、過去にしでかしたことの重大さがよく分からないので、気にしなかっただけだ。

「誰と結婚するか聞いた?」
 リンダは首を横に振った。

「名前は聞いてないわ。というか、教えてくれないの。商国商会しょうこくしょうかいの幹部で……とてもお年を召した方とだけ」

「どこぞのおっさんなのか。いや、おじいさんか? そんなところへどうしてまた」
「わたしも商人の娘だから分かるけど、領地経営には領民を飢えさせないことが必要なの。とくに北はね。そのためには有力な商人との提携が欠かせないわ」

 何をするにも金がいる。
 領民たちが豊かにならなければ何も始まらないし、始められない。

 そのために領主ができることはあまり多くないという。
 領主に連なる者と大商人という組み合わせは、互いに旨味があるのだという。
 結婚する本人たちの思惑はどうであれ。



 夜会は進み、会場の真ん中ではダンスを披露するカップルがチラホラ出始めている。
 僕の周囲には、昼にやってこなかった人々が増え始めてきた。

 リンダは賢女のごとく、一歩控えたところにいた。
 パトロンを抜きにして、こういう場で交友を広めたいと思う人は多い。

 彼ら彼女らの対応は僕がしなければならない。と言っても、気の利いた話はないのだけど。
 ネタがないのでパン作りについて熱心に語ってしまったが、普通ならばドン引きされる。

 ただ技国で三級の免状を取ったと言ったら、商人の息子、娘たちの眼の色が変わった。
 技国の免状は竜国でも有効らしい。

 職人の三級ならば、高給で召し抱えられるレベルだという。
 これで竜操者にならなくても食べていけますと言ったら、「絶対に竜操者になるべきです」と真顔で返された。

 たしかにいくら三級の免許が珍しいとはいえ、希少さでは竜操者には敵わないだろう。
 両方持っている僕に賞賛の目を向けてくる人が多くて、ちょっと照れた。



 出席義務は果たしたで、夜会の途中だったがリンダに断って僕は帰ることにした。

 せっかく礼服を用意してくれたアンさんには申し訳ないが、いや、アンさんのことが気にかかるのだ。

 もしアンさんが帰郷したのならば、王宮が知らないはずがない。
 しかも一度は誘拐されている。

 迎えの者についても、厳重にチェックしているだろう。
 嘘の理由で帰郷したとは思えない。

 顔合わせ会をすっぽかしてでも帰らなければならない理由ができたはずだ。
「あそこまで関わったんだし、無関心ではいられないよな」

 僕は寮に戻ると、いつもの黒衣に着替えて闇に潜った。



「大山猫が、兎の氏族の領土に攻め入ったの」
「………………はっ!?」

 王宮の警備と結界をくぐり抜けて女王陛下の前に出た僕は、一瞬呆けてしまった。

「それを聞きに来たのでしょう?」
 そう。アンさんがなぜ帰郷したのか、その理由が知りたかった。

 だがまさか、技国で内乱が起きたとは。
「なぜ、大山猫の氏族が攻め込んだのでしょうか」

 大山猫は序列第一位の氏族だ。自分の頭のなかでは、王者の風格がある。
 追いつめられて、攻め入るとは思えない。

「こちらが掴んでいる情報はあまり多くないのよ。それでも、来年の技術競技会を前にして大山猫の氏族が追い詰められたことだけはたしかね」

 驚いたことに、大山猫の氏族内について詳しく把握している国はないと女王陛下は言った。
 同じ技国内でも同様だと。

「それはなぜでしょう。序列第一位ともなれば、注目されるものと考えますが」

 秘密主義も度が過ぎれば痛くもない腹を探られることになる。
 あれだけ熱心に隠し事をしているのならば、ぜひ暴いてやろうという気にさせられる。

 その対象が、技国の序列一位の氏族ならばなおさらである。

「それはね。大山猫の氏族内部でもよく分かっていないからよ」
「…………はい?」

「あまりに複雑すぎて、全体を把握している人はいないでしょうね」

 大山猫の氏族に連なる者はあまりに多く、権力も分散している。
 統括すべき氏族長ですら把握できていないのだと。

「そんな状態で都市運営がやっていけるのでしょうか」
「普通ならば無理でしょうね。でも、技国の特性と、序列一位の肩書きがあればなんとかなるのではなくって?」

「……富の集中でしょうか」
「そうね。だから、来年の技術競技会がどうなるのか興味があったのだけど」

 大山猫は放漫財政状態だったらしく、金の流れを把握しようとしてもよく分からなかったらしい。

 そこで竜国は考えを改めて、大山猫の氏族全体はどんな集団なのかを重点的に調べたという。

 その結果分かったのは、高位の氏族が好き勝手にやっている現状だった。

 鴎の氏族もその傾向があったが、自動的に富が集まる社会を構成していると、集まった金をどう使うかの議論がおろそかになりやすいようだ。

 なにしろ、金を使っても翌月にはまた入ってくるのだから短期・中期・長期の計画を立てる意味がない。
 使っていくうちに足らなくなったら、貯まるまで待てばいいと考えるようだ。

「それはもはや、運営とは言わないのではないでしょうか」
「氏族以外の者ならば、いくらでも優秀なのがいるのにね」

 世襲制のダメなところが集まったようだ。

「では今回の侵攻は、技術競技会にむけて、現状の打破をするための出兵と考えていいわけでしょうか」

「追い詰められているみたいだし、そうなんじゃないかしら」

 だったら、そう深刻な事態にはならないかもしれない。
 そんな勝手なことをしたら、他の氏族が黙ってないだろう。

 大山猫の氏族が自滅するだけだ。


「分かりました。教えていただき、ありがとうございます」
「けどね。問題はそう簡単ではないかもしれないの。というのもね、ついさっきこんな書状が届いたのよ」

 女王陛下は、一枚の書簡を手に持った。

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