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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第2章 技国内乱編

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 顔合わせ会の当日。
 僕は王立学校が用意した控室に入った。

 荷物はすでに運び入れてあるので、あとは着替えるだけだ。

「遅かったわね」
 リンダが僕を見つけてやってきた。

「いつもこんな感じだよ。それにまだ時間があるんじゃないの?」
 リンダはすでに化粧も着替えも終えている。

「あるにはあるけど、今日は顔合わせ会よ。本番が始まったら二人だけで話せないし」
「あっ、そうか」

 周囲のテーブルには、竜操者とそのパートナーが談笑している。

「会がはじまったら、一緒に登場できるけど、それ以外の場面ではわたしたちは鷹揚おうようなところを見せなきゃならないのよ。それを見越して仕掛けてくるのもいるしね。昨年の話、聞いたでしょ? あの扉を出たら先に手を出したら負けの戦場よ。覚悟しておいてね」

「そんな大げさな」
「どうだか。始まったら分かるわよ」

 なんとも怖いことを言う。

「そういえば、ここにはパートナーしか入れないの?」
「そうね。他の人は会場にいて、手ぐすね引いて待っている感じかしら」

「なるほど」
「一緒に登場するけど、紹介があるから順番は分かるわ。その後は庭園で立食形式のパーティね」
 昼の部はガーデンパーティだ。

「夜は?」
「夜も同じよ。講堂でダンスパーティ」
「僕は踊れないけど?」

「そういう人が多いから見ているだけでいいわ。常時踊っているのなんて、数組がいいところみたいだし」
 なるほど、それなら安心だ。

「昼間はリンダがパートナーで、夜はアンさんだけど。アンさんとは間の休憩のときに入れ替わるのかな」
「そのアン先輩だけど……」

 リンダの様子が変だ。
「どうしたの?」

「国元でなにかあったらしくて、帰ったって」
「……えっ?」

「昨日、政変で帰ったって噂が出たの。わたしは本気にしなかったわ。だけど今朝、夜のパートナー変更の話が来たの。アン先輩はいまこの学校にいないわ」

 国元で政変。
 リンダが言うには、噂のたぐいだと。でもそうだろうか。

 もうすぐお兄さんが結婚するはずだ。
 それによって同盟が強化される。

 ただし、アンさん誘拐のときに裏切ったレノーたちが持ち込んだ技術。
 あれが技国内の協定に違反するらしい。

「よりによって政変って……」
「だからそれは噂よ」
「そうだけど」

 気になる。ものすごく気になる。



 そうこうしているうちに顔合わせ会がはじまった。
 リンダの言ったとおり、ここぞとばかりに僕は囲まれた。

 昼のパートナーはリンダと決まっている。
 いま周囲に集まっているのはリンダの実家と同程度か、それ以上に手広くやっている商人の娘たちだ。

 実家だけでなく、容姿にも自身があるのだろう。
 積極的にボリュームのあるところをアピールしている。
 家の話なんかは、聞いてもいないのに詳しく話してくれる。

「同じ条件でわたしと比べさせたいのよ」

 リンダが小声で教えてくれた。
 実家の規模、本人の容姿をよく比べてくれと言いたいらしい。

 別に僕は商人の後ろ盾が欲しくて今日のパートナーにリンダを選んだわけではないし、獲物を狙う肉食獣のような顔で迫られても、心を動かされたりもしない。

 どちらかというと、萎縮してしまう。
 なんとか無難な言葉を返しつつ時間を稼ごうとしたら、周囲の肉食獣はなかなか手ごわかった。

「でしたら、一度我が家においでくださいな」
 適当にうなずいていたら、危うく実家訪問をさせられるところだった。

 知らないうちに、実家めぐりツアーが企画されていたのだ。
 裏でリンダが尻をつねってくれなければ、なし崩し的に了承してしまうところだった。

「あら、みなさんおそろいで」

 外から声がかかった。
 何人かの女生徒が、あからさまに顔をしかめた。

 やってきたのは、ロザーナさんだ。入ったとき目が合ったので、軽く挨拶だけしておいた。

「だれかと思えば、がっつき過ぎて長い間、謹慎していた方ではないですか。お名前は存じ上げませんけれども」
「そうそう。顔合わせ会の会場で大暴れをして、周囲のものを投げまくった方でしたわね」

 うん、相変わらずの対応だ。令嬢たちがここぞとばかりにこき下ろす。

「男漁りが過ぎて相手にされなくなった方ではないですか?」
「おお怖い。また暴力を振るわれるのかしら」

 ロザーナさんがやってきただけで、周囲に険悪な空気が流れた。
 またリンダが怒りだしたら大変だ。

 僕がこの場を離れれば人もバラけるだろう。
 そう思って移動しようとすると、リンダが僕の腕を掴んで小さく頷いた。
 行くなということらしい。

 悪口のネタが切れたのか、ひと息ついたところでロザーナさんがにこやかに反論をはじめた。
 意外にも売られた喧嘩を買うらしい。

 その雰囲気を感じ取ってリンダが僕を後方に誘う。

「いいの?」
 小声でリンダに尋ねると、「別に聞いてなくていいわよ。どうせ意味のある会話なんかしてないから」とすまし顔だ。

 どうやらこれは、リンダが落ち着いていられるくらい日常的なことらしい。
 反論され、思い通りにならないことに周囲の肉食獣たちが苛立ち、会話がヒートアップしていった。
 こうなってはもう、売り言葉に買い言葉だ。

 だんだんと汚い言葉の応酬になっていく。
 途中で肉食獣たちは気づいた。ロザーナさんには失うものがないが、自分たちは違う。

 周囲の注目も集まり始めている。ロザーナさんはそれが狙いだったようだ。

 ここでは分が悪いと考えたのか、令嬢たちは挨拶もそこそこに僕から離れていった。
 ロザーナさんに捨てゼリフを残して。

「どう、うまくやっている?」
「ありがとうございます。助かりました、ロザーナさん」

 どうやら助けに入ってくれたらしい。

「どういたしまして。最後で少しは恩が返せたかしら」
 ロザーナさんが言うと、リンダが軽く目を伏せる。

「最後?」
 引っ掛かりを覚えた。まるでこの顔合わせ会で僕らの前から去ってしまうような言い方じゃないか?

「会が始まる前にリンダさんには伝えたのだけど、私、結婚することになりましたの」

「…………血痕?」
「結婚です」

 どうやら聞き間違いじゃなかった。
 僕の知らないうちに、ロザーナさんには結婚相手ができたらしい。

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