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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第2章 技国内乱編

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 顔合わせ会の三日前、アンさんから服とペンダントが届いた。
 正確には、兎の氏族御用達の店から直接だった。

 さっそく着てみたが、仮縫いしたときよりもフィット感が増している。
 なんというか、すごい。

 超一流の職人にかかれば、微妙な差でもこうも違ってくるのかと驚くほどだ。

 ペンダントの方もまた見事な出来だった。
 白金と白銀を混ぜたような、微妙な色使いの地金は、製法すら分からない。
 真ん中に填めた石を主役にしているものの、その存在感を忘れさせない。

 僕が渡した石が芸術作品になって帰ってきた。

「すごいな。このまえキミが言っていた技国の職人かな?」
「そうみたい。僕が直接依頼したんじゃないんだけどね」

 寮で眺めていると、アークが感心していた。

「鎖も精緻だし、裏に刻印があるね。製作者かな?」
 見てみると、たしかに何かが彫ってある。

「文字じゃないね。製作者のサインかもしれない」
 ちょっとした意匠が彫ってあった。

「これは当日まで大事にしまっておかないと」
 僕は礼服を丁寧にたたんだ。

 その翌日、リンダからも礼服が届いた。

 こちらも最高の素材で作られている。
 僕が着るのがもったいないくらいだ。

「別々に送られてきたけど、キミは準備をそのふたりにお願いしたのかい」
「そういうことではないんだけど、成り行きに任せていたらこうなったとしか」

「なんだか消極的な話だな」
 リンダに会ったときにはもう、話し合いが行われて、僕抜きで決まっていたんだけど……これって僕がお願いしたことになるのだろうか。

「最終的には一人に絞らないといけないんだよね」
 入学直後にそう言われた気がする。

「ああ、ファンドの廃止の件だよね。僕らの代からパトロンはひとりになったし、過去の竜操者のパトロンも見直しがなされている途中だよ。キミも早めに意思決定した方がいいかもね」

 少額出資のファンド狙いはともかくとして、パトロンを数人で回していた竜操者たちは、えらい被害を被ったのではないだろうか。
 いま、誰を外すか頭を悩ませているに違いない。

「そういうアークはどうなんだい? ずいぶん交友関係が広いようだけど」

「俺かい? 俺はそれなりに絞ったと思うよ。やっぱり地元に来てくれる人じゃないとね。あちこち連れ回されるのも困るし、ひと所に落ち着けるような人がいいと思っているのさ」

 アークは遊び歩いている割には、地元重視を変えようとしない。
 住んでいる町は陰月の路に比較的近いからだろうか。

 月魔獣の脅威は僕が思っているよりも、身近に感じているのだろう。


 顔合わせ会を翌日に控えた夜、同室のセイン先輩が戻ってきた。
 マーティ先輩はまだ演習中だ。
 この時期になると、軍属志望とそれ以外ではほとんど一緒に活動しないらしい。

「お久しぶりですね」
「任務が立て込んでいてな。なかなか戻れなかった」

 軍人の家系であるセイン先輩は、二回生のうちから中央竜隊への所属を希望している。
 いまは軍人さんたちに混じって、軍隊行動中らしかった。

「軍人ともなると、忙しそうですね」
 アークも軍人志望で、地方竜隊を希望している。

「しょっちゅう家に帰れる軍人がいたら、それはそれで変だろう?」
「それはそうですね」

 数ヶ月に及ぶ軍事行動もあるらしい。
 もちろん戦争に行くわけではなく、陰月の路に張り付いて月魔獣を狩るのだ。

「明日は、三回目の顔合わせ会だろう? パートナーはいるのか?」
「はい」
「おれも大丈夫です。一応、選びましたから」

「アークはほどほどにしておけよ。手を広げ過ぎると、あとで大変になる」
「あはははは……気をつけます」

 四月の入学以来、アークはいろんな相手と出かけていたので、セイン先輩はそれを揶揄したのだ。

「まっ、刺されない程度の関係に留めておけばいいさ」
 なんとも怖いことを言う。

「先輩たちの時はどうだったんですか?」
 ちょっと興味を持ったので、聞いてみた。

「私は父のつながりからパトロンは決まっていたからな。そこから紹介された女性をパートナーに選んだ。マーティは……直前でパートナーを変更していたな、そういえば」

「変更ですか? それは痴情のもつれかなにかで?」
 アークが食いついてきた。

「いや、成績不振で出られなかったようだ。マーティも実家がパトロンにつくから、ここでのパートナー選びはあまり意味のないものだった。頼んだ女性も本気で百位以内に入ろうとしなかったのだろう」

「そういえば、パートナーに選ばれたならば、死に物狂いで勉強するのが普通だと言われました」

「そういう例は多い。王立学校に通う子女はもともと成績はそれほど気にしない者も多い。地方領主や大きな商人の子女などは、自分がパートナーに選ばれなかったら、とたんにやる気をなくしたりするようだ」

「実利的ですね」

「逆に選ばれた者はそれこそ、全身全霊を尽くす者も出てくるぞ。同室だった先輩から聞いた話だが、成績のよくないとある令嬢などは、勉強しすぎてろれつが回らないほどだったとか」

「ある意味ホラーですね、それも」
「当事者はそれくらい本気というわけだ。だから滅多なことでは直前でキャンセルなどありえないのだが、マーティのときは運が悪かったな」

「そうですね。僕の場合はかなり優秀らしいので大丈夫でした。余裕でクリアしたとか」
「そうか。アークは?」

「オレはパートナー候補が複数いたから気にしなかったですね」
「刺されるなよ、頼むから。……おっと、私は着替えを取りに戻ったんだ。そろそろ行くよ」

「泊まっていかないんですか?」
「ああ。いまは軍事行動中だからな。明日の顔合わせ会、たっぷり楽しんでこい」

 セイン先輩は大きな荷物をひとつ持って、部屋を出て行ってしまった。

「来年は俺たち……大変そうだな」
「そうだね」

 ふたつ空いたベッドを眺めながら、僕とアークはそんなことを言った。

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